第31話

 スマホの電源を切り真っ黒になった画面。

そこに映った私の顔は、彼と出かけた日からずっと冴えないままだ。

 思わずついたため息で、画面が曇って一瞬だけ白ばむ。

デートだと思っていたのは、私だけだったのかな。

はじめは、気に止めてさえいなかった。

高一の時、西戸崎くんと同じクラスだったことは覚えている。

でもその頃の私は高校デビューの真っ最中で、始めて付き合うタイプのグループに話を合わせるのが精一杯で。

周りを気にかける余裕が、あまりなかった。

陰がある男子だな、とは思った。時おり見せる、遠目にもわかる重たい雰囲気。

高二になってしばらくしたある日、さりげなく話しかけてきた。

始めは数いるクラスメイトの中の一人にすぎなかったけれど、だんだんと、私を気にしていることがわかってきた。

だって、私の他に声をかける人がほとんどいないから。特に女子は皆無といってよかった。

でも、彼と他愛ない話をすることも、目を合わせるのも嫌な気分じゃなかった。積極的に声をかけてくる男子は大体ががつがつしてるから、怖くて苦手だけど。

西戸崎くんは見るからに草食系って感じの男子で、明らかに女子と会話慣れしていないのが伝わってきて。それだけなら気にならなかっただろうけど。

 でも、会話が下手というわけじゃなかった。

 歴史総合の時間にまとめるのもうまいし、話しの引き出しも豊富で、打てば響くような会話で。

 どこか、教室以外の場所で頑張ってる感じがして。

 だんだんと、彼のことが気になっていった。

連絡先を教えたのは、ほとんど勢い。神社で、しかもちょっぴり変な話をした後だから調子が狂ってたのかもしれない。

変なふうに思われなかったかなって、後で後悔した。送ってくれたメッセの文面も、物凄く硬かったし。

でも先にデートに誘ってくれたのは彼の方で。

天神では彼の色々な一面を知ることができた。本屋さんに行くときは、真っ先に新刊から見るとか。カレーを頼む時は水を呑むとか。

彼も私と同じで冷房の風が苦手なんだな、とか。

私が特別といっていいほどお腹が弱いのを知っても、嫌な顔も安っぽい同情もしなかった。私のお腹のことを知って、あそこまで共感してくれる人は初めてだった。

それにお腹を壊した私が自分を責めた時に、私を咎めた強い口調。あまりにも真剣な目。

 ちょっぴりだけど、ドキッとした。

 私は少し、マゾっ気があるのかもしれない。

でも最近、彼が妙によそよそしい。

 学校で会っても挨拶ぐらいしかしてこないし、以前みたいに積極的に声をかけてくることもなくなった。

 何が悪かったのかな。

 彼の好きなライトノベルを少し非難したのがまずかった? 歴史総合の時間に、喉が痛いからと言っていたから、彼抜きで発表したことがまずかった?

 お腹を簡単に壊すって知られたことがまずかったのかな。

 デートの最中にお腹を壊してトイレに駆け込む女の子なんて、嫌われてもおかしくない。

 誰だって付き合うなら、健康な相手がいい。

「そんなことない、よね」

 私はとめどなく浮かんでくるその考えを必死に打ち消した。

 わからない。だけど、このまま前の関係に戻りたくない。

 西戸崎くんのことを考えていると、いつもこう。

 恋愛って、めんどくさい。

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