第9話 夫婦の顔には裏がある
勘当同然にほったらかしにしていた実家が急に自分のことを探り始めた理由を調べてみると言って
通話履歴を見ると1時間近く話し込んでいたことが分かった
色々なことが一度に起き、頭の中が整理できずにざわついた
24時間の中で起きたときめき、興奮、昂揚、快楽、スリル、恐怖、痛み、諦め、失望、関心、興味、好奇心、恋愛なのか情なのか友情なのかわからない何か
ocomeへ関心を向けることで自分の問題を直視することを避けている現状
深雪はまた答えを出すことができないまま、疲れた体に引きずられるようにして不快な眠りについた
何があっても次の朝はやってくる
深雪はいつも通り、朝6時に起き、クリーニングに出しておいた聡のスーツとシャツを脱衣所につるし、朝食を作った
聡はいつもより30分遅く起きてきて、「シャワー浴びる。飯はいらない」と言うとすえた汗の臭いを深雪の鼻孔に残し、浴室に向かった
深雪が一人で朝食を食べていると、Yシャツに着替えた聡がテーブルについた
「飯、時間ないから早くして」
わざとらしく時計を見る姿が深雪の癇に障った
「さっき食べないって言ったじゃない」
「シャワー浴びてるうちに食いたくなったの。いいから早く」
バンッと聡がテーブルを叩いた音に驚いて、深雪は箸を落とした
今まで、モラハラ的な発言や行動はあったが、直接的な暴力や暴力を連想させるような行為はなかった
だからこそ傍にいたし、子供を作るために自尊心をかなぐり捨ててまで努力した
それなのに…
深雪は拾った箸を流しにおいて聡の食事の用意をした
急いでいると言っていた割に、聡はゆっくりと食事をとった
ご飯が半分ほど食べ終わった頃、
「なあ。妊娠っていつわかるの?」
先ほどまでのイラつきが嘘のような明るいトーンで聡が聞いた
「え」
「昨日の」
聡が発した4文字で、深雪の頭の中で昨夜の出来事がフラシュバックした
自分に
引き抜かれたときに一緒にあふれ出る白い粘液
それの意味するところは―
「生でしたんだから、できてもらわなくちゃな」
女性を虜にする魅力的な笑顔で話す聡が知らない人に見えた
※※※
聡が家を出てから30分もしないうちに、深雪は婦人科のクリニックに来ていた
事情を話すと、女性の産婦人科医はすぐにアフターピルを処方してくれた
費用は1万円ほどで、これで聡との子供ができないなら安いものだと深雪は思った
副反応の吐き気があったため、聡が帰ってくる前に部屋にこもった
いつまでも帰って来ないよう祈りながら、すがるような気持ちでocomeにメッセージを打った
【ocomeくん、今平気ですか?】
メッセージにすぐに既読マークが付いた
深雪は急いで電話を掛けた
しかし、ocomeは電話に出なかった
返信もないのに電話をかけてしまった自分が急に恥ずかしくなった
【電話しちゃってすみませんでした。声が聞きたかったけどどうしてもというわけじゃないので】
またすぐに既読
スマホは見れるが、通話したり、大ぴらに操作できない場所にいるのだろう
連投してもいいものかと深雪がスマホの画面を睨んでいると、ocomeからのメッセージが表示された
【今から会えませんか?】
時計を見ると午後5時を回ったところだった
深雪は部屋着にダウンを羽織った姿で家を飛び出した
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