第6話 オタクな顔には裏がある
深雪が会いたいと言えば、ocomeがその週か翌週のどちらかの曜日を指定するようになっている
会えば1回では終わらず、最低2回、多くて5回犯される日もある
すればするほど気持ちよくなり、帰りの電車の中では下腹部のうずきがおさまらず、一人になれば思い出して軽くいってしまう
まるで身体が書き替えられたようだった
以前までは聡と性交渉を持たなければと躍起になっていたが、いまはocomeのモノしか受け入れたくないとすら思い、自然と聡を遠ざけるようになった
そんなにはまっているのに、心までもっていかれないのは、深雪がocomeのことを何も知らなかったからだ
元々わりきりで募集していたのだから、相手のことを聞かないのはマナーだと思っていたし、自分も年齢と既婚者ということしか明かしていない
あくまで『セフレ』であり、それ以上でもそれ以下でもない
友だちでもなければ、『婚外恋愛』の相手でもない
ましてや彼氏でもなかったはずだ
※※※
「あれ?みゆさん、血が出てますよ」
その日1回目のセックスが終わった後のコンドームを見てocomeが言った
「あ。生理がきたかも。どうしよう。初日だからまだ軽いし、私はしてもいいけど…」
「いえ、さすがにそれは、みゆさんの体のことが心配になっちゃって集中できないんで」
ocomeはコンドームを捨てると、もうしない意思を伝えるかのように深雪の横に両手を広げて寝そべった
深雪はocomeの広げた右腕に頭を乗せた
「せっかく来てもらったのにごめんね」
「なんで謝るんですか?生理なら仕方ないですよー」
ocomeは空いた左手でヘッドボードに置いてあった自分のスマホを取って、2人の共通点である『ocome』というバンドの曲を流した
そういえば、実際に会ってから『ocome』の話はしていなかったなと気づいた深雪は「ocomeくんはどのライブに行ったことあるの?」と聞いた
「そうですね。ほとんど東京に来てからなんで、最近ですよ」
「じゃあここ2、3年ってとこか」
「5、6年ってとこですかね。18歳で
ocomeが右手の手首をまげて深雪の髪を梳いた
深雪は頭皮にくすぐったさを感じながら、そういえばプロフィールには23歳と書いてあったことを思い出した
「地元にいた時に兄貴に誘われてライブハウスで見たのがきっかけで好きになったんですが、地方ってあんまり来ないじゃないですか」
「ツアーとかだけだもんね」
「そうなんです。その時俺、家の仕事を手伝うかどうかで悩んでて…でも『ocome』のおかげで家を出る踏ん切りがついた感じです」
ocomeが右腕を引き抜いて、深雪の方に横向きになった
ガラス玉のようなきれいな黒目が子どものもののように輝いていた
深雪はocomeのことがもっと知りたくなって「地元はどこ?」と聞いた
「静岡です」
「意外と近い」
「そうですね。でもあんまりいい思い出がないんでもう帰らないんじゃないかな」
ocomeの瞳から一瞬光が失われた気がした
さらに深雪が瞳の中を覗こうとすると、ocomeは瞼を落として視線をそらした
深雪は話題を変えることにした
「でもまさか『ocome』のことをこんなに語り合えるひととマッチングサイトで出会えるなんて思ってなかったからうれしい」
聡は音楽を聴かないし、学生時代に遊んでいた友達とは結婚してから予定が合わなくなった
「俺もです。そもそも俺こっちに友達いないし」
「え?学校では?」
「うーん、知らない人と話すのって難しくて」
「私も知らない人だったじゃん」
「でもみゆさんとはチャットで結構やり取りしてたから初めてって感じがしないし、ocome以外の音楽の話も合うし、漫画や映画だって大体拾ってくれるじゃないですか。俺の話について来れるって結構ガチオタっていうか―」
「やめてやめて」
突然コンプレックスでもあるオタク趣味を指摘されて、深雪は両手でocomeの口をふさいだ
その深雪の手のひらをocomeがぺろりと舐めた
「ちょっと!くすぐったい―」
ふいうちを食らって離した深雪の腕をocomeがつかんだ
「くすぐったがってよがってるみゆさんもかわいい」
まるで京劇の変面のようにオスの顔になったocomeの唇が深雪の唇をふさいだ
それから1時間かけて深雪はocomeの舌で全身くまなく舐められ、最後に果てた
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