第5話 親しい顔には裏がある
最初は4週間に一度だった
次第に2週間に一度に
そして最近はほぼ週に一度というペースで
それだけ時間を割いているということは、必然的にそのほかの私生活はタイトになる
幼馴染の
前回ランチをした時から半年も間が空いてしまったことを、深雪は心の中で琴音に詫びた
琴音と二子玉川で待ち合わせをして、お目当てのベーカリーカフェに入店したのは11時10分
レジの前に列ができていて懸念したが、ほとんどがテイクアウトの客で、イートイン席は割合空いていた
先に荷物を置いてゆっくりとショーケースから商品を選ぶ
「この店、やっと来れたから頼みすぎちゃった」
20代の頃より少しふっくらとした琴音がトレーを見てため息をついた
3児の母でワーママの琴音は、「ストレスを食べることで発散するようになっちゃったのよね」とぼやいた
「
「エステなんて行かないよ。そんな優雅な暮らししてないから」
「いいじゃん医者嫁。とりあえず主婦できてるだけでも」
「まあね」
結婚するとき、専業主婦になって家を守ってほしいと言ってきたのは聡の家族だ
『できれば』という単語を使ってはいたが、それが【結婚の条件】であることは深雪にもわかっていた
あの頃は、若くて、何もわかっていなくて、自分なりに母親を守ろうと必死だった―
「おばさんが亡くなってもう4年か。こないだうちの母とも墓参りに行ってきたよ。新しい花が供えてあったけど深雪とニアミスだったかな?」
「いつ?」
「先月の月命日」
「じゃあ、私じゃないかな。その日は予定があって夕方に行ったから。新しいお花がたくさん供えてくれてあってありがたいなと思っていたの。琴音だったんだね」
「誰かのお花もね」
「じゃあ、小金井さんかな?」
一瞬、聡の顔も浮かんだが、ありえないと打ち消した
深雪の母親が納骨されてから、一度だって墓参りに同行したことはない
そんなことをしてくれる人だったら、もっと尊敬したし、愛せたはずだ
他愛もない話をしているうちにあっという間に時は過ぎ、解散の時間が迫っていた
結局カフェを3件ハシゴして、ケーキやらコーヒーやらを頼んだため、2人して満腹だった
「さて、私は買い物して帰ろうかな。深雪はどうするの?」
お腹をさすりながら琴音が言った
深雪はスマホを開いた
聡からのメッセージがたまっていた
「聡が迎えにくるみたい。終わったら電話してって」
「愛されてるなあ」
「そういうんじゃなくて。木曜は鍵を持たせてもらえないのよ」
「どういうこと?」
琴音が眉をひそめた
「だから、私は鍵がないから聡が帰る時間に合わせて帰らないとならなくて…」
「自分の家なのに鍵持たせてもらえないの?」
「うちはね」
琴音の反応が剣呑になったのを肌で感じた深雪は慌てて笑顔を使った
しかし、琴音は譲らなかった
「じゃあ百歩譲って鍵を持たしてもらえないとして、だったらもう少し後で帰れば?なんならうちでご飯食べて行っても…」
「そうできればいいんだけど、聡はすぐに出かけちゃうから今度は締め出されちゃう」
「ねえ、それってモラハラじゃない?」
琴音の口調が強くなった
店員が何事かとカウンターから顔を覗かせた
深雪は帰り支度を整える手を速めた
「そこまでは」
「前も郵便受けの暗証番号教えてもらってないって言ってたじゃない。郵便物も聡さんが管理してるんでしょう?」
しつこく食い下がる琴音を無視するような形で店を出ると、道路に見慣れたテスラが止まっていた
「聡…」
運転席から聡が手を上げた
「深雪!」
琴音が深雪の手をつかんだ
深雪は無言で琴音の手を振りほどくと、車道側に回り助手席に乗り込んだ
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