6
化け物が口を開ききるより早く、『ソレ』は飛来した。
ヒュン、という風に掻き消えてしまうような細い高音が響き、化け物の肩にあたる部分をいとも容易く貫いた。
そして音も立てずに『彼女』は何事もなかったかのように耕輔の目の前にふわりと着地した。
耕輔もよく見知った制服を身に纏い、長くしなやかな黒髪は柔らかな風に揺らぎ、整った顔立ちの中でやがて強い意志を宿した切れ長の双眸が開かれた。
「む? ……耕輔か」
飛来した少女はこの危機的状況に際して、至って呑気に目の前に立っている耕輔に声を掛けた。
「…………言海……?」
耕輔は状況を飲み込めず回らない頭の中で何とか拾い上げた幼馴染の少女の名前を口に出した。
名前を呼ばれた少女が薄く微笑み、耕輔に近寄ろうと動き出したところで――
「――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
動きの止まっていた化け物が咆哮を上げ始めた。
それはさながら警告音のようであり、巨大な黒い化け物が耕輔の目の前にいる自身の何分の一の大きさもない少女に怯えているようであった。
「――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
咆哮が止まないまま化け物がまたしても攻撃態勢に入り始めた。
辺り全体のFPが吸い込まれるような低いFP振動が――
「うるさい奴だな……」
バケモノの攻撃準備を全く無視して、少女は右腕を水平に伸ばし、指パッチンを一つ。
「『カグツチ』」
少女――琴占言海の口から小さく放たれた一言。
それだけだった。
それだけで巨大なバケモノの全身が激甚な炎に包まれた。
「――ォォォォォォォォォォ…………!!」
化け物はもがき苦しむように苦痛の悲鳴を上げながら苦しみから逃れるように、少女を破壊せんと腕を伸ばした。
が、その腕が言海に届くことはなく伸ばした腕がボロボロと崩れ始めた。
やがてその崩壊は全身に回り、巨大なバケモノは存在の痕跡すら残さず消滅した。
辺りに穏やかな静寂が戻る。
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