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 「状況がわからないのか?」とでも言いたげに大柄な男――赤崎仁志あかさきひとしは背後の空間亀裂の方を顎で指した。

 「どうしたんだよ、聖花!!」

 聖花の背後まで来た聖花の兄――宇野耕輔が聖花に声をかけた、が聖花は耕輔の方へは振り返らず、赤崎の方を睨んだままだった。

 三人の動きが止まったことを好機だとみたのか、黒い不定形の化け物が三人の真横から襲い掛かってきた。

 真っ先に動いたのは赤崎であった。

 赤崎は迫ってきた化け物へ思い切り金属バット叩きつけた。

 ベチャ、という肉の塊を叩いたような不快な音を立てて、四方へ黒い塊が飛び散り、やがて蒸発するかのように消えた。

 それが合図だったのか周囲の化け物たちがもぞもぞと蠢きだした。

 話をつけるにも、どうやらまずは周囲を片付ける必要があるようだ。

 耕輔と赤崎は即座に振り向き、向かってくる化け物の迎撃を始める。

 聖花も杖を両手で強く握りしめ、小さく呪文を唱え、魔法陣を展開させる。

 聖花が集中を切らさず大量のFPを練り上げ、魔法陣に注ぎ込む。

 それに呼応し、最初は聖花一人分の大きさであった魔法陣が周囲を取り囲む化け物と小さな空間亀裂を包むほどの大きさに膨れ上がった。

 膨れ上がった魔法陣がひと際強く煌めきだす。

 魔法陣の反応に気づいた耕輔と赤崎は咄嗟に身を屈めた。

 魔法陣の中心に立つ聖花が小さく呟いた。

 「『フレィジォ』」

 直後、大規模な爆発が起こり、轟音と閃光が周囲を包む。

 不定形の黒いバケモノと小さな複数の空間亀裂は爆発に飲み込まれ、掻き消された。


 やがて場に静寂が戻る。

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