第二章 主人公の非日常 【宇野耕輔 高校二年 初秋】

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 「お兄ちゃん……!! お願い、間に合って……!!」

 宇野聖花うのせいかは夜の街を走っていた。

 『仲間の中に裏切り者がいる』

 その事実に気づいたのは先ほどだった。

 ここ半年ほどで一気に増えた、兄の巻き込まれた多数の事件の情報の整理を行っている時に気づいたのだ。

 明らかに『組織』からの介入が多いという事実に。

 元々『協会』と『組織』は互いに対立していたし、介入してくるのは当たり前なのだが、明らかに途中から介入してくることが多いということに聖花は気づき、違和感を覚えた。

 兄が関わった事件の中には突発的に起こった事件だけでなく、元々問題になっていたことが事件にまで発展した、というものも多くあった。

 突発的な事件であれば後から『組織』が介入してくることも自然であるが、元々問題になっていた事件は違う。

 なぜ兄が関わってから『組織』は介入してくることになったのだろうか。

 疑問を抱いた聖花はすぐに『協会』に兄が関わっている事件以外の『組織』の介入状況を問い合わせた。

 時間がかかったものの、協会』からの情報提供を聖花は受けることができ、実際に比べてみた。

 すると、やはり兄の関わる事件に対して『組織』の介入は明らかに多い。

 聖花の気のせいでないのだとすれば『組織』側は兄の動向がわかっていることになる。

 おそらく監視をつけていることが予測できたがそうなると少しおかしい。

兄の近くには聖花を含め複数のFP能力者がいる。

 その数は兄を中心とした一勢力として『協会』から数えられているほどである。

 そんな彼ら彼女らが兄に敵対する人間の気配に対して気付きもしない、というのは考えにくかった。

 そこで、聖花は思い立ってしまったのだ。

 兄を中心とした勢力の中に『組織』側のスパイ、つまり裏切り者が存在しているという事実に。

 聖花はすぐに兄に電話を掛けたが、兄は電話に出なかった。

 嫌な予感が頭を過ぎり、居ても立ってもいられなくなった。

 聖花は家を飛び出て、兄を探し始めた。

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