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 自転車置き場の自転車は既にまばらになっていて、俺の自転車を見つけるのは容易だった。

 鍵を解除して愛車に跨り、言海の待っている生徒玄関まで走らせる。

 言海の前で一度止まり、荷物を受け取ってカゴに突っ込んだ。

 「さて、では今日も頼もうか」

 わざとらしく尊大な態度の言海は自転車の荷台に跨った。

 「行くぞ?」

 「うむ」

 俺が尋ねると言海は満足そうに返事をした。

 背中に言海の気配を確かに感じ、ゆっくりとペダルを踏み出す。


 一応、ある程度の都会を名乗るこの街だが、実際は決して都会とは言い難い。

 学校からの帰り道も道さえ選べば、まず警察には出くわさない。

 だから、安心して二人乗りが出来る。


 ゆっくりと緩やかな坂を登り、河川敷へと出る。

 もう二十分もすれば沈むであろう夕日が、俺達二人を照らしていた。

 「……高校卒業したらどうするんだ?」

 ペダルを漕いだまま、後ろの言海へ話を振った。

 特に深い理由のある問いかけではなかった。

 「 私か? 私はここを離れるつもりだぞ?」

 「へぇ」

 「なりたいモノがあるからな。 そのためにも、とりあえず地元から離れようと思っているよ」

 「何になりたいんだ?」

 「小説家だ」

 言海がハッキリと答えた。

 「やはり、絵画であれ、音楽であれ、文章であれ、何か自分の伝えたい事を伝える職業というのはカッコいいと思う。幸いなことに文章と想像力にはそれなりの自信があるからな」

 自慢気に話す言海に思わず笑った。

 「だからお前は厨二病なんだ」

 「あぁ、仕方ないだろう? こればかりは不治の病なんだ」

 言海が俺の背中に体を預けてくる。

 言海の体から振動が伝わってくる。

 顔は見えないが言海もきっと笑っていた。

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