いただきます
「はぁ〜い、何から食べますかぁ?」
僕の胸に深く腰掛け後頭部を
「イエ〜ス、
彼女は楽しげに身体を起こすと、すりおろしたばかりの大根おろしを和風ハンバーグにふりかけ、ポン酢をおろしにめがけてゆっくり垂らすと箸で器用に一口大に切る。それを箸で掴むと僕の方に身体をクルッと向けてお皿を添えながら肉汁滴るハンバーグを口元へと運んでくれる。
「はい、あ〜んちまちょうねぇ」
そんな小さな子どもにご飯を食べさせるようなちょっと気恥ずかしげなプレイめいた事をするなぁと思いながらも素直にハンバーグを食べる。
「どうですかなぁ、美味しいですかな〜?」
うん、美味しいよとっても。そう伝えると彼女はフニャァと細めた猫の目で笑いながら、ニコニコと嬉しそうだ。
「そのハンバーグねぇ、ちょっと歯ごたえあるでしょう、は〜い問題、それはなんだかわかりますかなぁ?」
突然の得意げなクイズだ。ここは流れにしたがって挙手をして答える。確かに、コリコリシャキシャキとした美味しい歯ごたえがあるねと答えると、彼女は得意げに鼻をスンスンと鳴らす笑いをする。
「正解はねぇ、これを繋ぎに入れてるのだよ」
そう言って持ち上げたお椀の中には「レンコンの煮物」だ。
「ちょっと粗めに刻んでねぇ、歯ごたえが楽しめるようにしてみたの。好きでしょ歯ごたえがあるの、君の大好きなダークファンタジーなマゾゲーみたいにさぁ。は〜いこの煮物レンコンもどうぞ〜」
なるほど確かに歯ごたえが楽しくて美味しいハンバーグだ。目の前に差し出してくれた煮物の方も食べてみる。これはちょっと薄味でこちらもコリシャキな歯ごたえがあり、僕の好みをよく理解している。こっちも凄く美味しいよ。
「フフン、レンコンの煮物はジックリよく火を通したホクホクも好きなんだけど、あえて火を通しきらないコリシャキも魅力的なんだよねぇ〜、ん〜、コリシャキ美味ァ〜」
彼女もホクホクとした幸せな様子で煮物とハンバーグのレンコンのコリコリシャキシャキを堪能しながら白米を口にしている。僕も自分で箸切りしたハンバーグと白米を食べる。うん、ご飯もふっくら美味い。自然と僕たちは味噌汁を同時に手にとり、ズズッと啜った。優しく口に広がる白出汁味噌汁は疲れた身体にフワぁと、染みてくるようだ。
「フフ、お仕事、あらためてお疲れさまだったんだねぇ。ん、ズズズ、フゥィ〜」
彼女は僕の顔を見つめ優しく眼を細めながらもう一口、味噌汁を啜ると幸せそうな吐息を漏らして味噌汁を眺める。
「味噌汁てさぁ、なんか良いよねぇ。色んな優しさが詰まってるていうかさぁ、アタシ、定食屋さんとかで美味しい味噌汁に出会うとさ〜、なんだか涙が出るくらいに嬉しくなるというか、ん〜、なんていうんだろう。頑張れて言ってもらえてる気がして、よっしゃ頑張るよぅ、て思えてくるんだよねぇ」
彼女が何を伝えたいのかは凄くわかる気がする。味噌汁は優しい、人それぞれに違う味で違う優しさが溢れてるんだ、今まさに彼女の美味しくて優しい味噌汁で心と身体を癒やされて、また明日も頑張ろうて思えるから、間違いないよ。
「ぇ〜、アタシのお味噌汁も優しいのかい。ぃへへへ、嬉しい事を言ってくれるなぁキサマァ〜」
彼女は照れ隠しなのか、パタパタと顔を手で扇いでからちょっと長めに味噌汁をもう一口ズズズッと啜り、箸で器用に本日の具となる角切りのお豆腐をつまみ上げた。
「ほんでこのお豆腐もさぁ、なんか可愛いと思わない? 白くてさ、プルッとしてさぁ、口に入れるとトゥルンとしたなんともいえない舌触りが可愛いなぁて、アタシいつも思うんだぁ。大好きなんだぁお豆腐くん」
独特な表現だけどなんか、わかる気がするよ。つまり、この豆腐は僕にとってのキミという事だ。
「え〜、アタシてこんなにツルツルと掴みどころが無いってことぉ?」
いや、それもあるけど、もっとストレートに、いま最後に言った言葉をリピート。
「ぇ、ア〜、ハハハァ。大好きって事だねぇうんうん、それは当たり前ですなぁ……て、ツルツルに掴みどころは無いとは思ってるって事なのぅ?」
彼女はちょっと不満げに唇を尖らすので、機嫌を損ねる前に顔を見つめて素直に告げる。
それも含めて君が大好きだよ。
「あ〜、ンフフ、いぃ、これはちょっと破壊力が強いぞう。そんな顔で覗き込まれたら許してしまうしかないではないか。キサマ〜、卑怯でござる、なッ」
彼女は不意打ちと緩んだ僕の口に豆腐を突っつくようにねじ込んだ。口の中の豆腐は確かにトゥルンとした優しい舌触りが美味しい。
「フフフ、スキだらけな口にアタシの大好きを届けてしまったぁ。へへへ、言っててこれは恥ず〜、というか、この体制てバカップルそのものではと今、気づいてしまったのですが」
何言ってるの僕らは正しくバカップルでしょ。
そう言うと彼女は口元をモゴモゴと動かしてちょっと頬が赤くなるような表情になった。
「た、正しくバカップルと言われると否定したくなるのが
彼女は味噌汁椀をテーブルに置くとスルリと僕の足から離脱して、スクッと大地に立つように真っ直ぐと立ち上がり、テーブルの配膳位置を僕と対面する位置に自分のぶんの料理を配膳し直した。
「はいはいはい、お行儀も悪いのでここからはお互いのお顔を見つめながらご飯を食べましょう〜」
なんだか彼女から解放された痺れた足に名残惜しさも感じるが、彼女のこの気まぐれさも可愛い所ではある。ちょっと遠目に顔を見ながらご飯を食べるのもいいもんじゃないか、素直に肯定しよう。
「よ〜し、それではあらためて、いただきますッ」
はい、いただきます。
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