顔を真っ赤にしながら、作戦会議のために乗り気ではないが死神と僕の家へと向かう途中、死神がおかしなことを言いだした。


「あなたは、本当に私の存在を信じているのですかい」

「今更、何を言っているのだ。お前の存在など、微塵たりとも信じてなどいない」

「はは、そうですかいそうですかい。では、あなたには私がどのように映っているのですか」

「異様に高く猫背気味の体に顔は青白く不気味な雰囲気を漂わせている不審者に見えているよ」

「あなたは、とことん口が悪いですね。そんなんで、瞳が振り向いてくれると思っているんですかい」

「今は、その話は関係ないだろう」

「いえいえ、ありますよ。あなたが今日、大いなる一歩を踏み出したところで瞳先輩を狙っている人物はたくさんいらっしゃいますよ」


ごもっともだ。瞳先輩は自分ではああいうが、学内では確かにその美貌と人の好さから多くの生徒から多大なる人気を博している。

かくいう僕もその一人ではあるが。


「そんなことはわかっている」

「わかってないですねぇ、あなたは何も知らない」

「なんのことだ」

「瞳の好きな食べ物、好きな映画、好きなスポーツ、好きな色、休日は何をして過ごすのか、夜寝るときは仰向けなのかうつ伏せなのか、布団派なのかベッド派なのか、一つでも知っていることはありますかね」

「そ、そんなものはこれから知っていけば─」

「それじゃあ、遅いでしょうよ。あなた、わかっていますか。瞳は4回生です。今年で卒業します。卒業したら関わることはできなくなるんじゃないですかね、そうなったらあなたの命はどうなるんでしょう」

「そんなこと…わかっている…」


何も言い返せなかった。こればっかりは死神の言うとおりだ。僕は、瞳先輩の容姿に一目惚れをしていつしか瞳先輩を目で追うようになっていただけで、実際のところ話をしたのも今日が初めてである。

やっと、スタートラインに立てたつもりでいたがどうやら僕のスタートラインはもう、数キロ先のようだ。

言葉が出なくなり俯きながら歩いていると死神がすこし優しめの声で話しかけてきた。


「それを、知るために、作戦会議をするんでしょう。さぁ、あなたの家に着きましたよ」


死神に言われ顔をあげると僕のアパートに着いていた。キシキシと音が鳴る階段を上がり一番奥の僕の部屋の鍵を開けドアを開けた


「いやぁ、疲れましたね」


我が物顔で僕よりも先に部屋の中に入る死神

なんでこいつはこんなにも図々しいしいのだ。

新緑の香りは窓から入り心地良い風が体を癒してくれたとことで、本題に入ることにした。


「それで、作戦会議とは、なにをするのだ」

「そうですね、まずはあなたが瞳について知る必要がありますねぇ」

「知る必要…」

「えぇ、先ほども聞きましたが、あなたはどれだけ瞳のことを知っているのですか」

「何も知らん。名前と4回生ということ以外は」

「あ、え、そ、そうですか」


死神がすこし呆れ顔を見せたような気がした。

ぶん殴りたい。


「う~ん、このままでは先に進むにも進めませんねぇ」

「なら、どうすればいいのだ」

「明日、いつもより1時間早く学校に行ってみて下さい」

「なんでだ」

「まあまあ、私を信じてくださいな。目覚まし時計、1時間早くにセットしておきますよ」


そういうと、死神は僕の目覚まし時計を勝手に拾い上げ、後ろのネジをジリジリと回し始めた。

待てよ、何か大切なこと忘れている気がする。まぁ大した事でもないだろう。今日の僕は、瞳先輩と2回も話すことができて意外と気分がよい。どうでもいいことは忘れよう。


「では、作戦会議は終了ですね。」

「いや待て。何も会議していないだろう。」

「いいんですよ、とりあえずあなたは明日必ず早く行ってくださいね」


また、不気味な笑みをこちらに向けてきた。何度見ても気持ち悪い。


「さ、ご飯を食べましょう。何か振舞ってくださいな」

「バカなことを言うな。僕がお前に振舞う料理などあるわけないだろう。話すことがないならさっさと帰ってくれ」

「寂しいことを言いますねぇ、では、私がなにか振舞いましょう、冷蔵庫の食材失礼しますね」

「あ、おい─」


僕の言葉を無視し鼻唄を歌いながら冷蔵庫の中身を物色し始めた。まぁ、僕の分も作ってくれるなら別にいいか…?今日の僕は気分がよいからな。


ジュー…


何かが焼かれる音を聞いて目を開けた。どうやら少しの間眠っていたらしい。


「おっと、起きましたか。あと少しで出来上がりますからねぇ」

「あ、あぁ」

「はい、死神博士特製ハンバーグです」


ふむ、本当にこの男が作ったのか?と、思うほどによくできている。しかもご丁寧に僕の好きなデミグラスソースまでかかっているではないか。だが、待てよこいつ博士の異名をここで使い、毒でも入れているんじゃないのか?


「安心してください、見た目は少し不細工ですが毒なんて入れていませんよ」

「な、お前」


また、こいつは思考を盗んだのか?やはり、盗思考取締り課発足の旨を直談判しに行くべきか…


「熱いうちに食べてくださいね、冷めたらお肉が固くなっておいしくないですからねぇ」

「ふむ、そこまで言うなら食べてやろう」


一口食べた瞬間これは驚いた。なかなかに美味いじゃないか。これには僕の腹の虫もご満悦のようだ


「美味いじゃないか」

「おっと、あなたが人のことを褒めるだなんて、明日は雪、いや、隕石が地球に衝突するんですかね」


やはり、こいつは一発ぶん殴る必要があるようだな。


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