学食に向かうために少々の小走りをし広場に出ると相も変わらず阿呆な連中が声を高々にあげていた。




「新人類同好会…いったいなんなんだろうね」


「さぁ、自分たちの思想を周りに伝えているだけではないのか?もっとも、いったい何を伝えたいのか馬鹿な僕にはわからないがな」


「そうだね」


「少しは否定をしないか」




他愛もない話をしながら学食に着きお目当てのミルダマカレーを買いに行く。


僕たちがここまでミルダマカレーを愛するのには理由がある。一口食べただけで様々なスパイスが口内に広がり、二口食べてしまえば最後、スプーンを口に運ぶ動きが止まらなくなってしまう。中毒性が高いが故に何かイケナイモノが入っているでは?と思い、学食のおばちゃんに聞いた事があったが「なーに、いってるんだい、入ってるとしたらおばちゃんたちの愛情だよ」


と、大きく口を開いて笑われながら言われたことがあった。学食のおばちゃんの声は異様に大きくて周りの生徒から注目され、赤面してしまった。


狐を先に席に座らせ、愛するミルダマカレーを頼みに行こうとしたらおばちゃんがそこにいる者全員に聞こえるように、息を深く吸い




「ミルダマカレー、あと一個だよ!!」




まずい、あと一つしかないとなると僕と狐、二人の分がないではないか。狐に奢ると言ってしまった為、今回は僕はお預けする羽目になってしまった。おのれ、狐。やはり悪い奴か?


だが、仕方ない。狐の分だけでも頼もう




「おばちゃん、ミルダマカレーを──」




僕の声に続いて僕の倍以上の大きさでミルダマカレーを頼む者がいた。




「おばちゃん!ミルダマカレーね!一つ!」




瞳先輩であった。なんてことだ、我が友、狐のためのミルダマカレーを瞳先輩と取り合わなければならないのか?いくら、瞳先輩と言えども狐のためのミルダマカレーを譲るわけにはいかない──なんてことはない。全然譲る。当たり前だろう、そもそもなぜあいつに私が奢らなければならないのだ。




「あれ、後輩君じゃないか、君もミルダマカレーが欲しいのかい」


「でも、もうミルダマカレーは一つしかないんだよ瞳ちゃん」


「えぇ、うっそー、どうしてよもっとたくさん作ってよおばちゃん」


「たくさん作っても無くなったら無いのよ」


「それじゃ、私たちの分足らないじゃない」


「あ、あの、僕はいいので、瞳先輩が食べてください」


「え!いいの!?後輩君…君はとてもいい人だね、うんうん、じゃあお言葉に甘えて!」




待ってましたと言わんばかりの目の輝きをして、先輩はミルダマカレーを受け取った。




「後輩君ほんとにありがとう。いい人な君はこれをあげるよ!」




そう言われ、強引に手を開かれて何かをつかまされぐっと握りこぶしを作られた。


掌に何を入れられたのか確認するよりも早く




「じゃ、私はこの最高の逸品を食べなくてはならないからこれにてさらばだ!」




またもや怪盗のような語尾で先輩は駆けていった。


手の中にはレモン味の飴玉があった。ミルダマカレーのお礼が飴玉なのか…




「おばちゃん、オムライスを二つお願いします」


「あいよ」




狐と僕の分のオムライスを頼み、受け取ってから席に向かった。




「ずいぶん遅かったじゃないか、おばちゃんが最後の一つのアナウンスをしていたが、受け取れたのかい」


「あぁ、ちゃんと受け取ってきたぞ」


「君はほんとにいい人だなーーって、オムライスじゃないか」


「僕は善行をしたんだ。黙って食え」


「ふぅん、ま、オムライスも好きだから全然いいけど、ありがとうね」




ふむ、目当ての物でもないのにお礼を言うとは。やはり、変わっている男だ。


例によって午後の授業に間に合うように口いっぱいにオムライスをかけこむと僕たちは学食を後にした。




午後の授業も終わり、家への帰路の途中に僕は、今日のことを思い出した。


朝は遅刻から始まったがそれ故に瞳先輩と遭遇することができた。瞳先輩にとっては、僕は村人Aのような立ち位置にいるのだろう。だが、AならまだましだBやCましてやスタッフロールにも載らない背景と同等のモブじゃないのなら御の字だ。


そして、学食では瞳先輩にミルダマカレーを譲ることができた。素晴らしい、偉いぞ僕。ふはは、アピール大作戦はいい方向に進んでいるのではないか?このままいけば、瞳先輩と…




「後輩くん、次はどこに行こっか。映画館?それとも、水族館?公園にいって、ハイキングでもいいかもね。後輩君と一緒ならどこでもいいかも!なんてね!」


「はは、瞳はかわいいね、瞳の行きたいところに行こうか」


「じゃあ、あなたの家に行きたいです」


「む、家とな。……ん、あなた…?」


「あなたの家に行っていいですかい」


「お前は死神じゃないか、僕の妄想の世界にまでお前は介入してくるというのか」


「何を言っているんですか。ここは、現実世界ですよ。恥ずかしいこと言ってないで、作戦会議をしましょうや」




待て、僕はいつから妄想に耽っていたんだ。そして、声に出していたのか?それを、死神に聞かれたというのか。死にたい。無性に死にたくなってきたぞ。




「あああああああ、殺してくれ死神」


「なぁにを言っているんですか。死なないためにアピールをすることに決めたんでしょ。さ、あなたの家に急ぎますよ。」




恥ずか死ぬ。

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