ジリリリリリリリリリリリリ




古臭い目覚まし時計の音を頼りに重い瞼を開けた。




数時間前の出来事は夢であったのかと頭の中で考えたが答えはすぐに出た。


死神博士と自称するヤツが置いていった黒い帽子が机の上に置いてあった。




「くそッ、あの出来事は夢ではなかったのか。一体なんだったんだ」




思わず口に出した。この部屋には僕以外の人がいるわけではないのに。思い返せば、僕が部屋に人を入れたのはいつ以来だろう。いや、ないな。悲しい思い出を瓶に入れて蓋を閉めた。




時刻は8時を指していた




大学に行かなくては。




キラキラしたダイヤモンドたちを下に見つつなるべく誰の目にも留めないよう体を縮こませながら門をくぐった。


三時間ほどしか睡眠ができなかった弊害だろうか。見える。


ヤツがいる。


昨日のアイツだ、例のロングコートを羽織り青白い顔の無精ひげを生やしたヤツだ。


こっちを見るなよ。俺に気づくな。やめてくれ。お願いだから気づかないでくれ。




「あ、おはようございますぅ」




神はこの世にいない。


ニタァと不気味な笑みを浮かべながら距離20メートルほどの場所から巨人のように長い手を振りこちらを見ている。


確実に俺に対して挨拶をしている。周りもその、不気味な雰囲気を察したのか、ヤツを避けるようにして進み僕のほうをチラチラ見ている。




「あれれ、気づいてますよね、昨晩あなたの家に私の帽子を忘れてしまったと思うのですが、ありましたかね」




私が無視をできないようにこちらに近づきながら話しかけてきた。




「あぁ、あったよ。僕の机の上にな」


「そうですかそうですか、それはよかった。では、返していただけますか」


「持ってきているわけないだろう、僕は授業があるんだ、話しかけないでくれ」




その場から逃げるようにして教室に向かった。


席に座りこれから始まる退屈な時間を過ごすための準備を始めたところで僕の隣に座る男がいた。




「おはよーう、なんだか浮かない顔してるね。どうしたどうした、財布でも落としたか」




異様につりあがった目をしたこいつは狐。本名は知らない。最初の授業の時に一人でいた僕のもとに同じように話しかけてきたことをきっかけに友人関係を築いている。




「そんなことではない、もっとこう頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されているんだ」


「はぁ、いったい何のことかわからないが、頭が壊れたことはわかったよ」


「壊れているのはお前の頭の方だろう」


「ひぇー、相変わらず口が悪いなあ君は、もっと愛嬌良くしないとモテないぞー」


「余計なお世話だ、第一私はモテるためにここに───」


「ゴホッ、そこ、私語は慎みなさい。私の授業はそこまでして退屈なものか」




ありがたいお叱りを受けてしまったため私たちの討論は幕を閉じた。




午前の授業が終わり、腹で飼っている虫のために食事をとろうと狐と学食へ向かっているときに何やら、広場で人が集まっていることに気づいた。




         「私たちは人間じゃない!新人類だ!」


     「「「「「私たちは人間じゃない!新人類だ!」」」」」


         「この世界は私たちが支配する!」


     「「「「「この世界は私たちが支配する!」」」」」




「まーた、やってるのかあいつらは。」




狐が呆れ顔をしながら少し笑って言った。


学生の目につくところで意気揚々と大声出しているあの、頭の悪そうな連中は『新人類同好会』というらしい。なんなんだそのネーミングは。もう少し洒落のきいた名前は付けられなかったものか。


何をしている同好会なのかは詳しくは知らない。ただ、ああやって、毎日のように新人類だのどうだの言っている。




「彼らは、新人類同好会…どうやら、ああやって、自分たちの思想を皆に広めるためにあのような活動をしているみたいですよ…表向きは…」




耳の後ろから、狐とは違う聞き覚えのある声が聞こえてきた。


また現れたか死神、不気味な登場の仕方はよせ、危うく警察へ電話をかけるところであったぞ。いや、かけていいのか




「まぁまぁ、そんな冗談は置いといて。」


「あ、博士じゃないですか、久しぶりですね」


「おや、狐くんもいましたか、お久しぶりです」




この二人は知り合いなのか?そもそも死神と知り合いってなんなんだ。




「さて、私の帽子返してくださいませんかね」


「帽子は僕の部屋にあるから今は返せない。私たちは腹の虫に飯を与えなくてはならないから失礼する」


「あ、ちょっと──」




止めようとする死神の言葉を無視し狐の手を引っ張りながら学食へと向かった。




「博士、また今度ゆっくりお話ししましょうねー」




狐の言葉に死神は不気味に笑い頷いていた。

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