「で、誰なんですか。教えてくださいよぉ、あなたの想い人を」




ニヤニヤと不気味に顔をしながら死神は質問してきた。誰が教えるものか、こんな得体の知れない男に




「得体の知れない男ではないんですよ私は、自己紹介したじゃないですか」




まただ、また死神はこうやって僕の思考を盗んでくる、いっそ僕が盗思考取り締まり課を発足するように警察の偉い人に直談判でもしてやろうか。




「そうやってまた、思考を盗むな。とても、不気味で虫唾が走る」


「なんのことですか、それで誰なんですか。同じ大学ですよね、どうせ」




また、とぼけ顔を披露している。殴り倒してやろうとも思ったが非力な僕では返り討ちにされるかもしれないからやめておいた。




「埒が明かない。お前と話していると気分が悪くなる」


「悲しいことを言いますねぇ、瞳でしょうよ。あなたの好きな人は」


「なぜ、その名前はお前が知っているんだ」


「あなたのことはぜぇんぶオミトオシですよ…死神なのでね」




無茶苦茶な理屈だ。そもそも死神なのか博士なのかはっきりしろ。


そして、死神が口にした『瞳』は私が大学に入るきっかけになり、今でも想い続けている女性だ。


同じ大学の現在4回生の先輩である。


瞳先輩は見ているだけで心を奪われそうになる綺麗な黒髪で川が流れているような長髪の女性である。


僕が高校生の時に今通っている大学の前を通ったときに見えた彼女の姿を追って入学を決めたのである。


だが、今はそんなことは道端に落ちている石と同じくらいどうでもいい話だ。


今は、死神が瞳先輩を知っていることのほうが肝心なのだ。




「いちいち、話を逸らすな。なぜおまえが瞳先輩のことを知っているのか答えろ」


「まぁまぁ、もう夜も遅いですし…寝たらどうですか」


「お前がこの時間に訪ねてきたんだろう」


「冗談が通じないお方ですね、では私はこの辺でお暇させていただきますよ」




そういうと死神はよっこいせと立ち上がり玄関に向かった。




「おい、待てまだ話は終わってないだろう」


「そんなに、私と話したいんですか。やはり、かわいいお方ですねぇ」


「逸らかすんじゃない、話は終わってな──」


ガチャ




僕の話を最後まで聞く前に死神はドアを開けて闇夜に溶け込むように消えていった。


時計は3時30分を指していた。




 その日、僕は先ほどまでの出来事を頭で考えた。


死神博士と自称するあの男はいったい誰なのか。


僕が目標や夢を持たないと死ぬのはなぜなのか。


瞳先輩のことをなぜ知っているのか。


謎が深まるばかりだがいつのまにか寝てしまった。

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