ギョロリとした目が僕を見つめながらこう言った。




「あなた、来年にはこの世にはもういませんよ」




いきなり口を開いたかと思ったら、いきなり何を言い出すんだこの男は。


名前も年齢もわからない不気味な男に余命を遠回しに伝えられた僕はその場で呆然としてしまった。


それを見かねた男は続けて話し始めた。




「私は死神です。死神博士とでも呼んでくださいな。先ほども言いましたが、あなたは来年の今頃には死にます。残念ですねぇ…とても残念………でもないですよね」




何を言っているんだこいつは。僕を怒らせたいのなら怒ってくださいと言われたほうがまだマシだ、そもそも何で僕が死ぬことになるのかもわからない、僕を疑問の種をぶつけた




「し、死ぬってなんだよ、なんのことを言っているのかさっぱりだ」




周りへの騒音を気にしていた僕が声を荒げて、死神博士と自称する不気味な男に問いただした




「はぁ、わかってないですねぇ…だってあなた生きる意味ないでしょ」




ハッとした。まるで心の中を見透かされているかのような。僕の脳内を監視カメラや盗聴器で思考を盗んでいるのかと考えた




「い、生きる意味がないってなんだよ。僕は──」




反論しようとしたところで言葉が出なくなってしまった。確かに今の僕には生きる意味を見出すことは酷であった。




「どうしましたか、自分に目標や夢がないことを思い出してしまいましたか」




悔しいがこいつの言う通りだった。




「あなたが死なずに済む方法はたったの一つでとっても簡単です」




先ほどまでとぼけ顔をしていたこいつの口角が少し上がった




「見つけるんですよ…目標や夢…ね、簡単」




見つけるって今までの人生平凡に過ごしてきた僕になにがあるっていうんだ…




「ところで、こんなところで立ち話でもなんですし部屋の中で話をしやせんか…」




「それを言うのは僕の方だ、なんで得体の知れない男を部屋に上げなければならないんだ」




「まぁまぁそういわずに…迷惑になりますよ…ほら」




そういってドアの僅かな隙間から見えるコイツの指は隣人の部屋を指していた。


どうやら、隣人が僕たちの声を聴いてドアを開けこちらを見つめているようであった。




「仕方ない、とりあえず入りたまえ。変な動きをしたら即刻警察に通報するからな」




「へへ…物騒な人ですねぇ」




いちいち癪に障るコイツの言葉を無視し部屋の中へと入れた。


考えてみても頭のおかしい行動だとは思うが、自分の死を予見し、頭の中まで見られているような感覚を感じた僕は少しでも話を聞こうとした。




部屋に上げてから気づいたがこいつはかなり背が高いざっと180はありそうだ。だが、猫背のせいでその高身長も全く意味のないものと化している。


夜で冷えているからと言って春先にロングコートを羽織り、頭には黒いハットをかぶり、顔は青白く少し無精ひげが生えている。ますます不気味な男だ。


そんなことを、頭の中で考えていると男が口を開いた。




「改めて自己紹介でもしましょうかねぇ…私は死神博士です。お好きなように呼んでくださいな。どうぞよろしく」


「死神博士ってなんだよ、本名を名乗れ本名を」


「本名…そんなもの知って何になるんですか?私たちの間にそんなものは必要ありゃせんよ」




不気味に笑いながら言われたが、本名はどう考えても必要である。益々意味の分からないやつだ。




「さて、本題に移りますか…あなた、まだ死にたくないんですよね」




なにを当たり前のことを言っているのだ、私はまだ命を授かり20年を迎えようとしている青年だぞ。それなのに命を絶つことなど考えたこともない。




「もちろんだ、私はまだ──」




死にたくないと口にする前に死神が邪魔をした




「死にたく…ないんですよね。なら、見つけましょう。どんなことでもいいんですよ、大学を卒業したいだとか、有名人に会ってみたいとか」




少し間を開けてこれぞ本題と言わんばかりにこっちを向いて続けていった。




「恋人を作るとか」


「な、何をいいだすんだいきなり、そもそも僕は色恋沙汰には興味などない」




嘘だ、本当は同じ大学内で気になっている女性はいる。だがしかしボロアパートに住み取り柄もなく生きる意味を見出せなくなっていた僕が好きになってはいけないくらい可憐で眩しく心を動かす人なのだ。




「そうやってまた嘘をついて…かわいいですねぇあなたは」




また、僕の脳内から思考を盗んでいるのか。この世に盗思考取締り課があればこの男は直ちに逮捕されよう。

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