ローション? 関係ないね
刺激が強すぎたあの日から2日が経った今日。午前の授業を無事終えた僕は、先走りする緊張を少しでも和らげる為に屋上へと来ていた。
「スゥ――――はああぁぁぁぁ……」
この後に控えている大事な予定を失敗させない為に、入念に深呼吸を繰り返す。
少しでも真心ちゃんに良い所を見せたいッ! カッコ良い男だと思われたいッ!
「――よしッ! 頑張るぞッ!」
僕は自分の頬を両手で叩き、空へと高らかに声を放って己を鼓舞した。
「――あッ、やっと見つけたしッ!」
「……穴見さん」
乱暴な扉の開閉音に騒々しい声、その2つの音を奏でたのは白ギャルの穴見さんだった。
彼女は小走りで僕の元に近づいてくる。心なしか表情には喜色が浮かんでいるよう。
「どうしたの? 穴見さん。僕に何か用?」
「用も何も――――見つけたんだよッ! こないだできなかった続きを実現させる為のアイテムをさッ!」
「こないだの続き? ……ああ、あれね」
「あれねって、なんだよその言い方……人がせっかく見つけてきてあげたのに」
口元を尖らせ露骨に不機嫌そうな顔をする穴見さん。
できれば相手せず無視してここから去りたいけど、仕方ないな。
「そう拗ねないでよ穴見さん。それで、アイテムってのはなに?」
「ちょっと! なんであんたが上から目線なわけ?」
「上から目線で喋っているつもりはないよ。少し自意識過剰すぎじゃない? 穴見さん」
「めちゃくちゃ上からじゃんかよッ!」
「……はぁ。わかったよ、僕が上からだったごめんごめん……それで? 時間が押しているからできれば早く済ませたいんだけど」
「んなッ⁉ あ、足立のくせに調子に乗りやがってぇ……」
ムスッとした表情で僕を睨みつけてくる穴見さんだったが、やがて諦めたのかプイと僕に横顔を見せ、腕を組んだ。
……〝モテる男〟は辛いぜ(自惚れ)まったく。
やれやれと僕は心の中で首を振り、幼い子供のような反応をみせている穴見さんに刺激を与えないよう続きを促す。
「調子になんか乗ってないよ。で、アイテムって、なにかな?」
「……ローション」
「ローション? あの、ヌルヌルの……」
「そ、ヌルヌルの。それを互いのあそこに塗りたくれば――きっと今度こそ上手くはず」
穴見さんの口から明かされたアイテムの正体を聞き、僕は顎に手を当て考える。
……ローションか。確かに、僕の僕と穴見さんの穴見さんに塗りたくれば円滑にいくかもしれない。失敗する恐れもあるかもだけど、施しなしよりかは可能性が上がるはず。
試してみる価値はあるかも…………いやッ、ダメダメだッ! 流されちゃいけないッ!
僕が抱いている真心ちゃんへの一途な気持ちは絶対だッ! 他の女の子に目が行くような中途半端なものじゃないッ!
ついこないだ、穴見さんとフュージョンしそうなとこまでいってしまったけども、加えて君和田さんともそうしようとしていたけども……あれは自暴自棄で半ばやけくそだったから仕方がなかっただけで、今は違う!
どんなに可愛い子が僕の前に現れようと、決して目移りしたりしない!
だから僕は――穴見さんとフュージョンはしないッ!
「ごめん、穴見さん。僕はもう、君とはやらない……あの日の事は忘れて」
「は――はあッ⁉ ちょ、なに勝手言ってくれてんのよ足立ッ! あんただって童貞卒業したがってたじゃない! 最終的にウチとできなくて放心状態みたいになってたじゃない! なのに、なんでッ!」
「……理由は明かせないけど、ただ一つ……穴見さんは僕に選ばれなかったとだけ言っておくよ」
「いや、意味わかんねーし! つか、あそこまでしたんだからちゃんと責任とれよなッ! 仮にも男だろッ!」
ああ……僕はなんて罪深い男なんだろうか。
必死になって繋ぎとめようとしてくる穴見さんを見て、僕はそう思った。
「あれは若さゆえの過ちだった……そういう事にしておこう、穴見さん」
「遠くを見るような目でウチを見んなよッ! つか、足立だって童貞卒業したがってただろッ!」
「……穴見さんも、心から好きな人ができれば僕の気持ちが理解できるさ――――それじゃ」
「あ、おいッ! なに良い事言った風に締め括ってんだよッ! え、嘘でしょ? マジで置いてく気かよおいッ――――足立いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!」
穴見さんの制止の声を聞かず、僕は屋上を後にした。
さようなら……昔の女よ。
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