雲晴ママ

 雲晴ママ



 私は今、たった今――思春期の息子に悩まされております。


 これまで手がかからず良い子に育ってくれた息子が……息子が……。


 夕飯の準備をしようとキッチンに立ったはいいものの、包丁とまな板が見つからず、どこを探しても見つからず、困りに困ってダメ元で雲晴に聞いてみようとしたら……。



「――いやいや、あれは誤解で真実は別にあるんだよだよッ! というのも僕が君和田さんを襲ったみたくなってるけどその逆で――君和田さんが僕を虐めてきたんだよッ! ……うん……うん……そう! だからあの時、僕は服を着てなかったんだよ! 全部、君和田さんに命令されてッ! ……え? 僕にもやましい気持ちがあったんじゃないかって? ――そんなわけないよッ! 僕はね、初めては好きな人とするって決めてるからッ! …………信じてくれるの? …………ありがと、真琴ちゃん! ……うん……うんうん……」



 ――真っ裸でテレビと会話しているじゃありませんかッ⁉


 一体全体どうしてしまったんでしょうか……どこで教育を間違ってしまったんでしょうか……というより、雲晴はどうしてあんなに――、



「いやー君和田さんには驚かされたよホントにッ! 静かなイメージが完全に壊れたよね、この間ので! まさかあれほど変態だったとは」



 汗をかいているのでしょうか?






 雲晴






「――うん、土曜の午後ね! それじゃ」



 真心ちゃんとの電話を終え、僕はスマホを床に置いた。


 流れで土曜の午後に真心ちゃんと一緒に遊びに行く事になってしまった……もちろん、それは僕にとってとても喜ばしい事なんだけども……。


 き――君和田さんが救いようのない変態だっただけと嘘をついてしまったあああああああああああああああああああああッ!



『あの、一つだけ気になっている事があるんだけど……雲晴君、本当に君和田さんを襲ったの?』



 真心ちゃんに真実を知られたくなかったが為に僕は君和田さんを変態に仕立て上げてしまった。


 いや、仕立て上げるまでもなく君和田さんは立派な変態だけども……それは僕も同じで。


 真心ちゃんに嫌われたくなくて咄嗟に噓をついてしまった。万が一、君和田さんが真心ちゃんの前で真実を明かす事態が起きたら僕は終わりだ。


 幸いなのは君和田さんが群れない性格である事。真心ちゃんともまったく接点がない。



「…………ま、大丈夫かッ! ポジティブに考えよう! ポジティブに!」



 君和田さんの日常を加味してバレるわけがないと僕は自分に言い聞かせたのだった。

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