真心ちゃんとの約束2
断るなんて選択肢は僕になかった。
真心ちゃんからのお誘いに快諾した僕は『ちょっと待ってて!』と電話を切り、明かりを点けてテレビの前に。服を着る時間すら惜しかったので全裸のままだ。
それから再度、真心ちゃんに電話をかけフレンドIDを教えてもらった。これでスマホは用済み、ここからはボイズチャットで会話する事になる。
……ヤバい、凄く緊張してきたぞッ!
まだ始まってすらいないのに、コントローラーは既に手汗まみれだ。
――――――――――――。
『――雲晴君ッ、後ろからこっちに向かってきてるパーティーがいるから気を付けて』
「了解!」
ゲームを始めてからかれこれ2時間が経過した。
真心ちゃんと一緒という事もあって初っ端は緊張しまくりだった。それがプレイにも影響して迷惑をかけてしまっていたが、回数を重ねていく度にさすがの僕も慣れていき、今では落ち着いて出来ている。
そして現状は最終局面。残りのチームは僕と真心ちゃんを除いて3チーム6人。
僕と真心ちゃんのどちらか一方が残り且つ全員倒せれば僕達の勝ちだ。もちろん、どっちも生き残るのがベストだけど。
『雲晴君、前の敵ローだよ。ゴリ押そッ』
「おっけ! あ、体力ヤバそうだったらいつでも言って、回復持ってるから」
『ありがと』
そして――――、
「真心ちゃんナイスッ! 最後のキルめちゃくちゃ鮮やかだったよ!」
『いやいや、雲晴君のサポートが完璧だったから上手くいっただけだよ』
僕と真心ちゃんは無事、勝ち残る事ができたのだった。
――――――――――――。
「どうしよっか、真心ちゃん。休憩する? それとも今日はここら辺でやめる?」
さすがに2時間もぶっ続けでやってきたから疲れているだろうと思い、僕は真心ちゃんにそう訊ねた。
『……………………』
しかし、真心ちゃんからの返答はない。
「……寝ちゃった?」
『…………ごめんね、雲晴君』
寝落ちはさすがになかった。けど、真心ちゃんから返ってきた声音はゲーム中よりも低く、更に謝罪の言葉だったという事もあって僕は困惑する。
「ど、どうして謝るの? というか、何に対して?」
『……ここ最近、ずっと雲晴君を避けちゃってた事』
「あ……いや……」
気にしてないよ! という嘘がすんなり僕の口から出てこなかった。
『あたし、弱い子だから……怖くって。雲晴君と喋ってるところをクラスの皆に見られたら、あたしも……その……』
「皆から煙たがられるって?」
『…………うん』
消え入りそうな彼女の声がヘッドホンを通して聞こえてきた。
真心ちゃんにそんな声を出させてしまっている原因は間違いなく僕で、だからこそ明るく振る舞わなければと心が働く。
「真心ちゃんが悪いわけじゃないよ! 誰だってそう考えちゃうと思うし、それに僕は平気だから!」
『ううん、悪いよ……あたしね、雲晴君の事、大切な友達だと思ってるの。そう思っているのに見て見ぬ振りしちゃって……挙句、酷い事を雲晴君に言っちゃって……』
酷い事……か。それは多分、
『あれ、いま足勃チ〇コいなかった?』
『え、あ、うん……いた、かも?』
『いや、いたから反射的に閉めたんでしょ……朝から災難だったね、真心。キモかったでしょ?』
『そ、そうだね……ははは』
僕に自殺を決意させたあの時だろう。
でも、そっか……真心ちゃんは僕の事、大切な友達と思ってくれているのか。
それだけで、そう言葉にしてくれただけで、不思議と
笑っちゃうくらい単純だな……僕は。
「僕は本当に大丈夫だからさ、真心ちゃんは気にしないで! むしろ元気出たよ、大切な友達って言ってもらえて! ……僕も、真心ちゃんを大切な友達だと思ってるからさ」
『……雲晴君は優しくて強いんだね』
「あっはは、そんな事ないよ」
『そんな事あるよ……雲晴君は優しくて強い』
「え……あ、ありがとう」
気恥ずかしくてこそばゆくて、けれども幸せで……このひと時が永遠に続けばいいのになとさえ思えてくるほど幸せで。
気付けば【マイネームイズ雲晴Jr.】を切り落とそうなんて馬鹿な考えは消えていた。
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