使えないのなら切り落とすまでッ!

 時は経ち、夜。真っ暗な室内に僕は一人、まな板と包丁を前に全裸で正座していた。


 ここは穴見さんの部屋じゃなく僕の部屋だ。



「……………………」



 やるせない気持ちを抱いて僕は家路に着いた。


 やるせない……それは本番前に【マイネームイズ雲晴Jr.】が泣いてしまったとかじゃなく、純粋に物理的な問題。


 ……入らなかったんだ。


 あの後、僕の太刀はすぐに回復し、穴見さんと続きを行った。


 が、彼女のさやには収まらなかったんだ。


 何度も……何度も何度も――何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も試みた。


 でもダメだった。



『う――ウチは諦めないからな! は、裸を見られておいて目的を達成できなかったなんて絶対に認めない! なんとしてでも解決法を見つけるから、それまで待ってて! あと、この事はウチらだけの秘密だかんね! 言いふらしたりしたら怒るかんね!』



 帰り際、穴見さんは僕に諦念の気持ちは一切ないと伝えてきた。


 それは凄く嬉しかった……嬉しかったけど。



『…………………………』



 僕はなにも返せなかった。穴見さんに対して申し訳ない気持ちもあったけれど、それ以上に前述したやるせない気持ちの方が強かった。


 両親から男として立派なモノを貰ったと心から思っていたそれは、立派どころではなかったという話で――要するに大事な時にまるで使い物にならない。


 見てくれだけの……飾りだ。



「無駄にデカいだけでクソの役にも立たないなら……もう、必要ないよ」



 正座を崩して立ち上がった僕は、腰の高さくらいまである勉強机の上にまな板を置き、その上に【マイネームイズ雲晴Jr.】を乗せた。


 右手に包丁を握って。



「はは……どうやら神様は本気で僕の事が嫌いみたいだ」



 別に僕がなにをしたわけでもないのに……嫌われている。


 でも安心してくれ――――僕だってお前の事なんか嫌いだ!


 僕は右手を振り上げ狙いを定める。狙いはもちろん【マイネームイズ雲晴Jr.】の付け根だ。


 もし、切り落としてショック死してしまうようならそれはそれでいい。元々死のうとしていたんだし。


 とにかく、僕はもう【マイネームイズ雲晴Jr.】なんて……いや――チ〇コなんていらないッ!


 さようなら雲晴ッ! そしてこんにちはッ! 晴子はるこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!



 ブー、ブー、ブー。



 僕が右手を振り下ろそうとした瞬間、机に放置したままだったスマホが光を放った。


 暗闇に慣れた僕の目にはかなり刺激が強く、僕は目を細めて振動するスマホのディスプレイを確認する。



「――――ッ ⁉」



 スマホが振動したのは着信を知らせる為だった。そしてその相手は――――。



「ま、真心ちゃんッ!」



 僕が恋している人だった。

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