前のエピソード――大人の階段のぼった先にいるシンデレラ（穴見さん）

　その意気込みのままに僕は穴見さんをベッドに押し倒した。

　穴見さんを下に僕が覆いかぶさる形だ。

「「………………」」

　穴見さんのほんの僅かに潤んだ瞳を僕は見つめる。彼女もまた僕を見つめていて、胸が小刻みに上下している。緊張からか至近距離に感じる彼女の息遣いは乱れ気味だ。

　そしてそれは僕も同じ。鼻息も荒くなっちゃうし手汗も止まらないしでもう……さっきからしっかりしろと自分に言い聞かせてはいるけど、まるで言う事をきいてくれない。

「……優しく、して」

　しかも細かい動作の一つ一つが男心をくすぐってくるものだから困る。

　丸く握られている手で口元を押さえ、怯えているようにも誘惑しているようにも聞こえる声を発した穴見さん。

　その甘さにすっかり魅了された僕はもう我慢できないと穴見さんの口を塞いでいる手をどかし、

「キス……するね？」

　と、彼女に告げた。

　穴見さんはこくりと小さく頷き、目を閉じた。

　女の子のキス顔を間近で見るのは初めてだったが、なんというか彼女のそれはぎこちなく、だからこそ愛おしくあった。

　眉間にしわを寄せるくらい強く目を瞑（つむ）り、唇をわなわな震えさせている穴見さんに、僕は緊張を押し殺してそっと口づけをした。

　すると彼女の震えは途端になくなり、

「……ど、どうだった？」

「…………もっと」

　どころか穴見さんは更に求めてきて、僕は応えた。

　触れるだけの軽いキスじゃなく、今度は舌と舌を絡める大人のキスを彼女と交わす。

　互いの液が混ざりあい、脳内が蕩（とろ）けてしまいそうな音を僕達は奏でた。

「んはぁ……はぁ……はぁ」

　唇を離すとこれまたいやらしい意図が僕と穴見さんを繋ぎ、そして切れた。

　この勢いを止めちゃダメだ――男の僕が進めなくちゃ！

　ある種の使命感に駆られた僕は、穴見さんの制服に手をかけ丸裸に。

　白くきめ細やかな彼女の体を上から下へと責めていく。

「――――――ッ」

　君和田さんのは別として、僕は一般的であろう前戯をしたつもりだった。

　けれど、想像していたよりも最中（さいちゅう）は静かで、僕は内心困惑していた。

　穴見さんは声を出さないよう必死に我慢している様子だった。時折、イヤイヤとでも言うように首を横に振っていたりもしていた。

　その姿を目に映し可愛いなと思う自分がいた。同時に気持ち良くないのかな？　痛がっているのかな？　と不安になる自分もいた。

　それだけに、穴見さんの〝穴見さん〟が濡れていた事を指先で確認できて心底ホッとした。

「……じゃ、じゃあの、今度は僕のを」

「う、うん……でもちょっと恥ずかしいから、毛布に潜ってするのでも、良い？」

　僕が頷いて見せると、穴見さんは薄手の毛布を羽織るようにして、僕ごと飲み込んだ。

　そして――――、

「んあッ⁉」

【マイネームイズ雲晴Ｊｒ．】も……飲み込まれた。

　ア―――――――――――――――――ヴェマリ――――――――――――イア――――――――――――

　何故か、僕の脳内で『アヴェ・マリア』再生される。

　初めてづくしで心臓はドッキドキのバックバクだというのに、不思議と僕の心は凪（な）いだ海のように落ち着いている。

　上手い下手は僕にはわからない。ただ、一言で表せというのなら、気持ち良いが的確だろう。

　がしかし、ただ気持ち良いだけじゃない。言葉に形容するのは非常に難しいが、確かに僕は別のモノも感じ取っていた。

　難しい……表現するのが難しい。ただ、強引に捻（ひね）くり出して形にするならそう……これは母の温もりだ。

　僕の実のお母さんって事じゃない。もっとスケールが大きい――この世界の母を指している。

　温かいんだ。とにかく、凄く温かくて……泣きそうになるんだ。

『ふッ……奇遇だな、俺もそうだ』

　どうやら【マイネームイズ雲晴Ｊｒ．】も同じ感覚のようだ。

「そっか。君も感じているんだね……でもダメだよ？　僕は泣いてもいいけど、君は泣いちゃダメだ」

『……どうして？』

「どうしてもナニもないよ……君が泣いてしまったら、ここまで積み上げてきたものが一気に崩れてしまうだろ？」

『あっはっは……そうだな。でも、もう俺……我慢できねーや』

「ダメだッ！　泣いちゃダメだッ！」

『たくさん涙流して……一足先に休憩してるわ。お前も後からこいよ？』

「待って！　待ってよ！」

『アディオス』

「い――イっちゃダメだあああああああああああああああああああああああッ！」

　ドビュるううううううううううううううううううううううううううううう、ビュシビュシッ、べべべべべべべべべべべべべべべべ、あーたたたたたたたたたたたたた、ほうわったあああっ、バビバビバビバビ――――すびゅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううんッ！　あべしッ！

　本番を目前に、【マイネームイズ雲晴Ｊｒ．】は……盛大に涙を〝ぶちまけた〟のだった。

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教えて！　深谷花びら大回転せんせーい！

良い子「せんせー！　涙を吞むって、どーゆー意味ですかー？」

大回転「ごっくんです」