天下統一! 世はHの時代

 壮絶な朝な朝が終わって迎えた昼休み。



「――ついてくんなよ童貞ッ!」


「後ろにいられるだけで不快なんだよこの勃起野郎が」


「ちょっとふたりとも~、可哀想だからやめてあげなよ~。〝足勃チン童貞レイプ魔KUMOHARU〟君がさ~」



 僕への蔑称は更なる進化を遂げていた。


 ついさっきまで「お昼どうする~??」とニコニコ話していたのに、僕の顔を見た途端これだ。


 ただ学食に行こうとしていただけで、こんな扱いって……。


 前を歩いていた3人の女子の内、2人は僕が立ち止まったのを見て鼻で笑い、もう1人は普通にケラケラと笑った。


 女子3人が学食の方に消えるのを確認し、僕はそっと体を反転させ行き先を変更した。



 ――――――――――――。



「足勃チン童貞レイプ魔KUMOHARUってなんだよ」



 屋上に着いた僕はグランドが見下ろせる位置へと移動し、一人なのをいいことに不満をゆるい風に乗せた。


 童貞なのにレイプ魔って普通に矛盾してるよ。こっちは女性に突っ込んだ経験すらないのに……ほんと、ツッコミどころ満載だよ。


 まあでも、まったく僕に非がないかと問われれば強く頷けないわけで……今回ばかりは自業自得も否めなかった。


 朝の一件は青山のおかげで大事には至らず、一応は穏便な形で終わってくれた。


 が、クラスの……特に女子達からの視線は鋭さを増す一方で、僕を罵る為のボキャブラリーも時間経過と共に増えていっている。


 さらに、これまで全面的に女子達の猛攻から庇ってきてくれた男友達の何人かも僕を揶揄ってきている。


 一方、当時者である君和田さんは何事もなかったかのように普段通り過ごしていた。詮索されていた場面もあったけど彼女は一切口を開かず、みんな早々に諦めていたっけ。


 彼女が一連の流れを説明してくれていたら、皆が抱いている僕の印象も少しは和らぐのに……まあ、そうなった場合、逆に君和田さんのイメージが崩れてしまうけども。


 とにもかくにも、クラスでの居心地はかつてないほどに最悪だ。


 やっぱり……死んどくべきだったな。



「――あ、いた」


「……………………」



 貸し切り同然だと思っていたここで、僕以外の誰かの声。



「ちょっといい? 頼みがあんだけど」



 朝と似たシチュエーションだけど、声をかけてきた人物は違った。



「あ、穴見あなみさん……」



 首を巡らすとそこには穴見あなみさんがいた。


 穴見あなみ南美なみ。同じクラスの女子で君和田さんとは対照的な派手目の白ギャルだ。


 着崩された制服、明るめの髪、校則違反満載の風体をしている。


 陽・陰で言えば間違えなく陽キャで、僕に対してよく勃起いじめをしてくる一人。


 そんな彼女が僕に頼みだなんて……素直に受け取るにはどうにも怪しい。


 ただ、無視するわけにもいかない。ここで態度悪くでれば倍になって返ってきそうだから。



「ぼ、僕に頼みって……なに、かな?」



 こっちに向かって歩を進めてきた穴見さんに僕はそう聞き返した。


 僕の前まで足を止めた彼女は腕をしきりにさすったりと、どことなく落ち着きがない様子。



「学校終わったらうちきてくんない?」


「え? 穴見さんの家に?」


「そ。どうせ暇っしょ?」


「ひ、暇だけど……なにするの?」



 当然の疑問、むしろ怪しさはより濃くなった。


 穴見さんと真面に会話したことある記憶は数えられるほど。その程度の関係で、しかも泥がつきまくってる現状の僕を家に招く理由は?


 少し考えを巡らせばわかる……これは罠だと。多分、美人局つつもたせ的な感じで、のこのこついていったら他のクラスメイトもいて『勘違い野郎ウケる! ギャハハハハ』みたいな展開が待ち受けているんだ、きっと。


 ならばここは断る一択! これ以上ポカするわけにはいかない! 自分を強く持つんだ! 雲晴!



「じ、実は……その……なんつーか……」



 普段のサバサバした感じは鳴りを潜め、照れているように身をくねらせている穴見さん。そのギャップたるや男の心を一発で鷲掴む破壊力があるが、僕は決して動じたりしない。



「今日、家に誰もいなくて……チャンスだから……さ」


「……うん」


「足立に……来てもらおうかなと……そういうわけっす」


「……なんで? 僕が招かれる理由は、なに?」



 そう僕が詰めると、穴見さんはそれっぽく目を泳がせ、最終的に俯いた。



「えええ……エッチを……したいなと……いうわけっす」



 やっぱり――これは罠だ。



 ――――――――――――。



 時は進んで放課後。



「――上がって」


「お邪魔します」



 罠だ何だと言っておきながら、結局僕は自分を強く持てなかった。いや、欲が強すぎたんだ……十中八九騙されているかもしれないけれど、もしかしたら本当にできるかもと。


 そんな淡い期待を抱いて、僕は穴見さんの家の敷居を跨ぐ。







 エッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチエッチ。





 この時は既に、脳内はHによって天下統一されていた。

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