全裸の変態

「さ、攻守交代の時間だよ? 君和田さん。覚悟は……いいかな?」

「……ふふッ、くふふふふふッ。やはり、私の目に狂いはなかったようね……足立くんのそれは本物だわ」



 本物? なに言ってるんだこの人は。



 君和田さんの発言の意味がまるでわからなかった。



「クククッ……まがいものなわけないよ」



 わからなかったが、なんとなく空気に合わせた方がいいかなと僕はそれっぽく笑い、それらしいことを口にした。多分、セックスに至るまでの雰囲気作りか何かなんだろう。僕の勉強不足だった。



「童貞……卒業させてもらいます」



 一歩、また一歩と距離を詰め、君和田さんに波動砲を向ける。



「安心して? 君和田さん。ゴムは持ち合わせてないけど中には絶対出さないから。必ず外に出す」


「お気遣いどうも……でも、もう少し周囲に目を配った方がいいかもしれないわね」


「ん? どういうこと?」



 首を傾げる俺を見て君和田さんは残念そうに笑い、右手を上げる。


 ビシッと伸ばされた華奢な人差し指が俺の顔に向けられる。


 一体なんだと頭の上に疑問符を作っていると、やがて指先は僕の後ろに向けられ――、



「…………あ」



 目でその後を追い、僕は気付いた。



「な、なにしてんだ……足立」



 青山を筆頭にクラスの面々が後ろにいたことに。



「ちょ、あれヤバくね? 足勃チ〇コの奴、君和田さん襲う気でいたよね確実に」


「ヤバいヤバいヤバいですねッ! あの500ミリペットボトルにも匹敵するデカさはヤバすぎですッ! 体育館で晒した時よりも数段――進化していますよ! あれは!」


「いやあんた驚くとこ間違えてるでしょそれ」


「ね、ねえ青山君。これはさすがに、先生に報告した方が良いんじゃ」


「……いや、事情も訊かずに決めつけんのは良くないだろ」


「で、でも事情を訊くまでもなくない? あいつ、全裸だし……それにさっき『童貞卒業させてもらいます』って君和田さんに直接言ってたし」


「そ、それは…………なあ足立! これはなにかの間違いだよなッ! なにかわけがあっての状況なんだよなッ!」


「え? あ、えっと、その、これは、その」



 青山からの救いのパスを上手く受け取れない自分がいる。全身から嫌な汗が止まらない。



 やちゃったやちゃったやちゃったやちゃったやちゃった――やちゃったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ! 興奮のあまり皆が探しにきてくれたこと完全に忘れてたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!



 頭の中は大パニックだ。


「うわキモッ! 足勃チ〇コの野郎汗まみれになってやがるよ」


「と、取り敢えず君和田さんをアイツから引き離そう!」



 その言葉を合図に数名の女子が君和田さんの元に駆け寄り、その内の一人が僕から庇うようにして間に入ってきた。


 君和田さんが迷惑そうな顔していることなどお構いなしに。



「ごめんな、くもはる……俺のせいで……俺があの時、ズボンを下ろしちまったせいでこんな……」



 青山の隣にいる和也は相も変わらず謝り続けている。



「むむむ? もしかしたら500ミリペットボトルよりも大きいかもしれせんね……素晴らしい!」



 僕の【マイネームイズ雲晴Jr.】を見て眼鏡を不敵に光らせる女子がいる。


 そして――――、



「…………………………」



 恥ずかしそうに目を閉じ、俯き加減に立っている――真心ちゃんが、いる。


 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!


 今日ほど雨に打たれながら叫びたいと思ったことはなかった。


 叶うのであれば皆の記憶から消えてなくなりたい。


 そして僕自身も――この世から消えてなくなりたい。


 気付けば僕の心は大雨に見舞われて、されど勃起はおさまらず。


 全裸の僕は静かに涙を流すのだった。






――――――――――――。

どうも、深谷花びら大回転で★くれソイヤッサ

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