死ぬ前にセックスだああああああああああああああああ!

 憎たらしい快晴の空の下、僕は屋上にて一人、景色を眺めていた。


 僕のフルパワー勃起を間近で見てしまった真心ちゃん。彼女とはあれから一度も言葉を交わしていなかった。


 避けられていたのは間違いなかった。だけども真心ちゃんは決して――僕のことを悪く言ったりはしてこなかった。勃起虐めにも加わらず、むしろ心配そうな顔していることが多かった気がする。


 真心ちゃんは僕を案じていてくれている。そう思えたから、今日まで生きてこれた……でも。



『いや、いたから反射的に閉めたんでしょ……朝から災難だったね、真心。キモかったでしょ?』


『そ、そうだね……ははは』



 真心ちゃんも、心の中では僕のことをキモいと思っていたってことだ。それが今日、たまたま表面化しただけの話。



「ただ……それだけの話……」



 僕はゆっくりと空を見上げる。雲一つない空は非常に腹立たしく、気が触れてしまいそうだ……というより、もう――触れてしまっているッ。



「うひゃひゃひゃひゃひゃッ! 死んでやるぅ――お望み通り死んでやんよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」



 そうと決まればだった。僕はポケットからスマホを取り出し、お気に入りのエロ動画を大音量で再生する。



「クヒヒヒヒ……僕を虐めてきた奴らに目に物見せてやるぅ……勃起だ――勃起したままこっから飛び降りてやる!」



 女優さんの艶めかしい喘ぎ声に感じる生命の脈動。ドクン、ドクン、心の臓の音にリンクし肥大化していく【マイネームイズ雲晴Jr.】


 止められない。もう誰も僕を止められない。


 ついてこれるものなら――ついてきなッ!


 僕はベルトを外し、ズボンを下ろして我が子【マイネームイズ雲晴Jr.】に外の世界を拝ませる。



「はぁ……はぁ……準備は整った」



 クラスのグループLINEに『窓の外にご注目ください』と送り準備完了、もうスマホは用無し。脱ぎ捨てたズボンの上に頬り捨てる。



 僕よりも少しばかり背の高い柵、乗り越えるのはそう難しくなさそうだ。


 柵のてっぺんに両手をかけて懸垂の要領で体を上げ、またがることで一息入れる。股座またぐら辺りに襲うひんやりとした感触に、お尻の穴がキュッとしまる。



「……ビビるな……ビビるな雲晴! 逝け――逝くんだ!」


「――――足立くん!」


「……え?」



 他には誰もいないはずだった。故に僕は――僕の名を呼ぶ声に一瞬、思考が止まる。


 僕は声のした方にゆっくりと顔を向けた。


 さっきまで僕が立っていた場所に、その子はいた。


 僕が呑気に階下を眺めている間に物音一つ立てずこっそりとやってきたのだろう……なのに、最初からいましたけども? とすました顔をしている。


 相変わらず彼女は謎だ。同じクラスになってまだ間もないとはいえ、考えていることがまるで読めない。



「どうせ死ぬなら……その前に私とエッチなことしてみない?」



 そんな彼女が笑うところを――僕は初めて目にした。


 君和田きみわだ希実枝きみえ。同じクラスでありながら誰かと話しているところを一度も目にしたことがない孤高の存在。


 端正な顔立ちに切れ長の目、黒髪ボブに華奢な体躯。どことなく真心ちゃんに似ている君和田さんだが、纏っている雰囲気はまるで違う。


 季節で表すなら君和田さんは冬。真心ちゃんは春といった感じだ。


 ずっと一人、教室の隅でつまらなそうに座している姿しか見たことがなかった彼女がまさか……。


 放心状態の僕に君和田さんは微かな笑みを浮かべたまま続ける。



「嫌、だったかしら?」


「……………………」



 僕はなにも答えずに柵から降り、君和田さんと相対する。


 魅力的すぎる提案だっただけに、なにか裏があるんじゃないかと僕は彼女に疑いの目を向ける。


 が、急に勘ぐるのが馬鹿らしくなり、僕は首を横に振った。


 騙されたところで、だ。彼女が言った通り、どうせ死ぬんだし……気にせず欲望の赴くままでいいじゃないか。


 そう考えると君和田さんの前でマイネームイズ雲晴Jr.をお披露目させている恥ずかしさも不思議と消えていく。



「……いいですよ、君和田さん。僕と――――セックスしましょう!」



 僕がグッと親指を立て応えると、君和田さんは口元を押さえて目を細めた。



「良かった……それじゃ早速、と言いたいところだけど」



 彼女は校内へと通ずる扉に目を向けた。



「あなたの余計なLINEのせいで人が向かってきてるみたいね……ここは一旦隠れてやり過ごしましょう」


「りょ、了解です!」



 僕は脱ぎ捨てたズボンとスマホを手に取り、君和田さんの後を追った。


 ……ん? 君和田さん、それじゃ早速って仰ってたけど―――――まさか青空の下でセックスしようとしてたのかッ⁉


 入り口のすぐ近くにあるタラップを上る君和田さんのブラックパンティーを下から眺めながら僕は、それはそれで悪くないだろうと一人頷いた。

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