そうだ! 屋上へ行こう!
真心ちゃん含めたクラスメイト達にフルパワー勃起を晒してしまってから1週間……僕の高校生活はガラリと変わってしまった。
「うわッ、
「ちょ、キモいから近寄ってこないで! シッシッ!」
朝、教室に足を踏み入れれば女子達に非難の目を向けられ、心無い言葉を浴びせられる。足勃チ〇コという蔑称はすっかり定着してしまったようだ。なんならフルパワー勃起事件の翌日よりも僕への精神攻撃の威力が上がっている。
メンタルの限界が近い。日に日に増していく勃起イジり――いや、勃起虐めに場所を気にせず泣き出してしまそうだ……意識していないと決壊する。でも、そんなことしたら勃起虐めはより過激になってしまうかもしれないから……泣けない。
今日も今日とて、僕は平気な振りをしなくてはならないのだ。
「ハハッ……皆、おはよう! 今日も良い天気だね!」
「足勃チ〇コ
「くたばれカスッ!」
「死んどけッ!」
僕が口を開けば女子達からゴミを投げられる。
健全な僕は自分がぞんざいに扱われていることに興奮なんてしたりしない。ただただ辛い。
「も、もう……やめてよ皆~」
けれども僕は笑い続ける。いつかは治まってくれるはずだから。
「大丈夫か? 雲晴」
「あんま気にすんなよ」
刺すような視線を受けながら自席へと向かう僕の元に、友人達並びに普段あまり喋らない男達が声をかけてくれた。フルパワー勃起を揶揄されている僕に同情してくれているのだろう。
もしくは、興奮すると勃起してしまうという機能が備わっている者同士、明日は我が身と僕を反面教師にしているのかもしれない。いや、それは邪推かな……なにせ防ぎようのない事件だったのだから。
「僕は平気だよ。心配ありがと、皆」
そう笑って返すも、皆の顔は曇ったままだ。いつもなら僕の空元気で一応は安堵の表情を浮かべてくれるのに。
数秒後、その違和感の意味を僕は知る。
『学校来るなッ! 足勃チ〇コ!』
『クラスの害悪! ほんと邪魔! 今すぐ消えてッ!』
『もう生きてても意味なくない? なんで生きてんの?』
僕の机、椅子にたくさん貼られている紙。その白に色とりどりの悪意が記されていて、呼吸が乱れそうになった。
「こんなの……さすがに度を越えてる。ここは俺が一発、女子共に注意して――」
「ぼ、僕は大丈夫だから――気にしないで」
クラスのリーダー的存在の
「……足立がそう言うなら」
渋々といった様子ながらも、青山は両手を下ろしてくれた。
「ごめん……ごめん……ごめん」
青山の隣にいる和也は呪われているかのようにひたすら「ごめん」を繰り返している。あの日からずっと、コイツは僕に謝ってばっかだ。
故意にやったわけじゃない……僕だって理解しているし、だからこそ許した。
なのに和也は未だに…………。
ダメだな。なんかもう、辛い。女子からの悪意も、男子からの同情も、なにもかも辛い。
「……ごめん。ちょっと一人になりたい」
「あ、ああ……これは俺らが処理しとくから」
「ありがとう」
優しい仲間達に、僕はなけなしの気力を振り絞って感謝を口にした。
「もう2度と戻ってくんなッ!」
「やったやった! 『変態をクラスから排除作戦』成功!」
教室を後にしようとする僕を見て、女子達は歓喜の声を上げ盛り上がる。
引き戸までの距離が異様に長い……そう感じてしまう程、今日の勃起虐めは堪えた。
しかしながらそれは感覚の話であって、実際には秒単位。引き戸の前に立った僕は酸素濃度が低い教室から逃げるべく、手を伸ばす。
「あ……」
僕の手が取っ手に触れる前に、引き戸は開けられた。その先にいたのは真心ちゃんで――、
「――――――――ッ⁉」
直後、勢いよく引き戸を閉められてしまった。
『あれ、いま足勃チ〇コいなかった?』
『え、あ、うん……いた、かも?』
『いや、いたから反射的に閉めたんでしょ……朝から災難だったね、真心。キモかったでしょ?』
『そ、そうだね……ははは』
………………………………。
廊下から聞こえてきた会話が、悪い意味で僕の背中を後押しした。
そうだ…………屋上へ…………逝こう。
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