第1章 平穏の終わり
寝ると時々、昔の夢を見る。
ボロボロの外見の施設、真っ白な検査衣を着た子供たち、真っ白な部屋
毎日のように建物の中に鳴り響く子供たちの悲鳴、俺は毎日ビクビクと部屋の片隅で膝を抱え怯えている。
そんな夢を見ていると、白髪の女の子との約束を思い出す。
『ねぇ、もしも外に出られたら一緒に色んな所に遊びに行きたいね、雪那』
その女の子とそう約束した・・・
ジリリリリ
俺は目覚まし時計の音で目が覚めると、頭の上に置いてある時計を見る。
時刻は朝の七時頃、寝起きの重たい体を起こしてベットから立ち上がると、隣の部屋で寝ている友人を起こしに行く。
扉を開けて、その友人の肩を揺すりながら声を掛けて起こそうとする。
『おい、亮介!今日はお前が朝飯作る日だろ』
すると亮介は目を開けて、上半身を起こすと腕を上に伸ばして俺に顔を向ける。
『あぁ、もう朝か・・悪いな、また起こしてもらって』
目を手で擦りながら、眠たそうな顔で亮介が謝ってくる。
『たく、お前はいつも起こしに来ないとずっと起きないだろ』
そう半分呆れたまま俺が言うと亮介はへいへいと言いながらベットから立ち上がり朝ご飯を作りに台所に向かった。
俺は桂木雪那、今起こしに来たこいつが西城亮介、同じ施設にいた親友だ。
俺と亮介は坂守児童養護施設ろ言う孤児院で一緒に育った家族だ。
その施設で小さい頃に原因不明の爆発が起こり施設が全壊、その時のショックで施設にいた時の記憶を俺はほとんど忘れてしまった。
亮介から、その事故当時の事を聞くと、爆発で気を失った俺を亮介が施設の外まで担ぎ出してくれて助けてくれたらしい。
その後は、高校に入るまでは別々の違う施設に引き取られたが、高校入学と同時に亮介とアパートを借りて一緒に暮らしている。
『雪那~、朝飯できたぞー!』
台所から亮介の声が聞こえてきて、俺はリビングに向かうと用意してくれた朝ご飯をテーブルに並べて二人で椅子に座り朝ご飯を食べる、テレビを付けて見るとニュースが流れていた。
(昨晩、西崎市坂守町の坂守南病院の屋上で男性が遺体で発見されました。
男性は腹部を刃物で刺され、首を切断された状態で発見されました、現在は殺人事件と見て調査を進めています)
亮介は白米を頬張りながらニュースを見て俺に話しかける。
『坂守南病院ってここから結構近くじゃん、物騒だな』
俺は亮介の言葉に頷くと、亮介は口にご飯を掻き込んで、ご飯が無くなった食器を流しに持って行った。
それから俺たちは身支度を整えて学校に向かった。
俺と亮介は坂守南高校に通う高校2年だ
『なぁ雪那、お前大学とか考えてんの?』
登校中、亮介が急に進路について話しかけてくる、俺は急に聞かれた事に少し悩み、答える。
『ん~そうだな、学費が安い大学があるなら行くかな』
そう答えると亮介が腕を頭の後ろで組みながら少し考えた後
『じゃあ俺も一緒の大学にすっかな、俺も雪那と同じ大学に行きたいし』
亮介とそんな話をしながら学校に向かった。
学校ではいつもどうりの平穏な生活が続いている
亮介とは同じクラスで席も俺が窓際の一番後ろ、その一個前が亮介の席だ
ホームルームを終えて一日の学校生活が着々と進んで終わっていく
帰りのホームルームを終わり、帰り支度を終えた俺は、目の間で座って何かを探している亮介の肩を叩き声を掛ける
『亮介、今日バイトあんの?』
俺は亮介にそう聞くと、亮介が体を横に向けて膝の上に置いてある鞄の中を探りながら答える。
『え~っとね、今日は来月のシフト出すだけだから直ぐに終わるかも、雪那は今日バイトだよな?』
『ある、マスターに夜まで今日バイト出てほしいって、この前お願いされたから、帰るの結構遅くなるかも』
亮介が鞄から携帯を取り出しポケットにしまい、帰り支度を終えて立ち上がる。
『そうなんだ家の洗濯とかは俺がやっとくから、マスターによろしく言っておいて』
亮介が俺にそう言うと俺も席から立つ
『分かった、じゃあ、お言葉に甘えて晩御飯楽しみにしております』
そう亮介にふざけながら言うと、俺はバイト先に向かった。
俺のバイト先は家から徒歩15分位の所にある小さなカフェでバイトをしている
バイト先に着くとマスターに挨拶をして、奥にある更衣室で仕事着に着替えてホールに出る。
『そういえば雪那君、最近物騒だけど大丈夫かい?』
ホールに出たときに、カウンターにいるマスターが心配そうにそう聞いて来てくれた。
『大丈夫ですよ、うちの近くで怪しい人を見たとか、そう言うの聞いたことないので』
マスターに笑顔でそう答える。
『そうかい、それなら良かった』
マスターが安心した声で俺に言うと、カウンターで珈琲を作り始めた。
マスターは結構高齢だが、見た目以上に元気で誰に対しても凄く優しい人だ。
バイトの時間があと少しの所で、マスターがカウンター越しに俺に話しかけて来る。
『桂城君・・今日はもうお客さんは来ないだろうから、あがっても大丈夫だよ、夜遅くまでごめんね』
謝りながらマスターが奥の台所に行き、タッパの入った袋を持ってきて俺に渡してきた。
『これ、一緒に住んでる子と食べて』
渡されたタッパを開けてみると、そこにはケーキが2個入っていた。
『ありがとうございます、頂きます』
お礼を言い頭を下げると、マスターは優しく微笑んでくれた、その後は更衣室で制服に着替えてバイト先を後にした。
思わぬお土産を貰ったと、喜びながら帰っている最中に車が一台通れるかくらいの道を向けようとした時だった、電柱の街灯の下で電柱に話しかけている一人の男性がいた。
(あの人、何で電柱に話掛けているんだろう?)
と思いながら、その男性の後ろを通り過ぎて行った。
少し歩いてから、振り返って街灯を見たら、その男性がいなくなっていた。
『なんだったんだろう、疲れてるのかな』
と目を擦りながら小さい声でぶつぶつ言い前を向いたら、そこにさっき見た男性が立っていた。
俺はその男性に驚いて数歩後ろに後ずさった。
その男性を良く見てみると、髪の毛はボサボサで服装もボロボロ、目は虚ろでホームレスの様な見た目をしていた。
その男性が俺に顔を向けて急に俺に話しかけてきた。
『お前が・・・桂木雪那か?』
ギリギリ聞き取れるくらいの小さな声で俺に名前を聞いてきた。
俺は急に名前を聞かれた事にビックリした。
『何で俺の名前を知っている?』
男性にそう聞くと、目の前の男性が上着の内ポケットから静かにナイフを取り出した。
『お前を連れてくるように命令されているから、ちょっと一緒に来てもらうよ』
男性が急にナイフを構えて襲ってくる。
やばいと思い後ろを向いて逃げようとした時だった、俺の足が全く動かない事に気づいた
『えっ!』
頭の中がパニックになってしまい後ろに尻もちをついてしまう。
ナイフを持った男性が直ぐそこまで迫ってきて、もう駄目だと思い目をつむった瞬間
キンっと金属音が夜の町に響いた
俺は何が起きたのか、全くわからなかった。
ゆっくり目を開けて視線を前を向けてみると、そこには大きな鎌を持ってナイフを受け止めている白髪の少女が立っていた。
暗くて顔がよく見えないが結構小柄で、俺よりも年下に見えた。
少女が男性の持っていたナイフを鎌で振り払うと、男性は振り払われた衝撃で少し後ずさる。
すると動かなかった足が急に動くようになった。
『えっ、動く!?』
突然の事に頭の処理が追いついていない状況だったが、俺を全く気にせずに少女が男性に質問をした。
『院長はどこにいるの?』
その質問に男性は何も答えなかったが、質問とは裏腹に男性がまた襲い掛かってきた。
襲ってくる時、男性の目が一瞬、青白く光った様に見えた。
俺は二人から距離を置こうと少し離れようとしたが、また足が動かなくなる。
『くそ、何でまた動かなくなるんだよ!』
俺は焦りながら叫ぶが、それに対して少女は冷静で、口元が薄っすらと笑った様に見えた。
『なるほどね』
と、少女がつぶやくと同時に近付いてきていた男性の両目を鎌で切り裂いた。
道路に血が飛び散り男性の叫び声が夜の町に響いた。
『うぁぁぁぁぁ、目が、目がぁぁぁ!』
男性が目を抑えながら叫び後ろに後ずさると、少女はそのまま男性に近づいて行き、男性の首を跳ねた。
道路に跳ねた頭部が転がり、少女にも男性の返り血が掛かる。
少女が鎌を天に突き出すと男性の遺体から緑色の球体が出てきて鎌に吸収されて行った
顔に掛かった返り血を手で拭い取ると少女が俺に振り向き近づいてくる、怖くて足が動かなかった。
(次は俺が死ぬのか、嫌だ死にたくない)
心の中で俺はそう思っていると、街灯の明かりで少女の顔が照らされる。
その少女は小柄な体で髪は白髪のロングヘア、黒いゴスロリの様な服を着ていた。
俺は少女の顔を見た途端に、昔の記憶がフラッシュバックして少し記憶を思い出した。
施設にいた頃に仲が良かった俺と亮介、そしてもう一人、施設でいつも一緒にいた小鳥遊凛と言う少女にがいた。
『凛?』
小さい声で言葉が漏れていた。
すると少女が驚いた顔を見せた、遠くから警察車両のサイレンの音が聞こえてきて、こちらに段々と近づいてきている。
『生きていてくれた‥‥』
小さな声で少女は言うと、その場から立ち去っていった。
正直、俺には何が起きたか全然わからなかったが、少女が施設にいた頃の凛に似ていた事と、去り際に少女の瞳から涙が流れるのが夜の街灯で薄っすらと見えた。
俺は家に帰宅してドアを開けると血相をかいた亮介が出迎えてくれた。
『雪那!、お前ずいぶん遅かったけど、なんかあったのか!?』
心配してくれている亮介に、先ほど起きた事を説明して更に心配を掛けたく無かったので嘘をついた。
『大丈夫ちょっとバイトが忙しくて残業してただけだよ』
亮介はそうかと頷きながら胸を撫でおろす、ご飯の用意をしてくれている最中に俺はマスターから貰ったケーキを取り出す。
『これ店長から貰ったケーキ、二人で食べてってさ』
と言いながら亮介にタッパを渡した。
『マジ!、ラッキー』
喜びながらケーキ用の食器もテーブルに並べて二人で晩御飯を食べた。
その後、どっと疲れが迫ってきて風呂にも入らずにベッドに行くと、そのまま眠りについてしまった。
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