第36話 テイム・モンスター大会(3)

「オズ、頑張れー!」

「速攻でやっちまえ!」

「大丈夫だ。行ける」


 オズの順番が回ってきた。

 クラスメイトからの大きな応援が聞こえる。

 オズは、勝ち進めるか不安で緊張している。


「1年のSクラスに2年が負けるなよ!」

「余裕だっての!」

「相手、2年のSクラスなのか。絶対強いな」


 相手の見方からのガヤが聞こえてきた。

 相手は、オズの1つ上の学年で、しかもSクラスという初戦にして最悪の当たりだ。

 相手は、余裕そうに笑っている。

 それもそうだ。この人は、去年のこの大会でラッシュに負け、準優勝だったのだから。


「行け、俺のシュガー!」

「グワーッ!」


 相手のテイム・モンスターは、モンスターの中でも上位の強さを持つ、レッドドラゴンであった。


「レッドドラゴンかよ。ハム、頼んだぞ」

「お任せください! グワーッ!!!」

「……え?」

「どうしてそんなに静かになるんだ?」


 オズがハムを召喚した瞬間に、会場が一気に静まり返った。

 そうして、一気に騒がしくなった。


「あれって、バハムートだろ⁉」

「なんでテイム・モンスターになってるんだ⁉」

「みんな、ビビってるねぇ」

「なんでなの?」

「あ、アリアもオズと同じだった」


 オズのクラスメイトは、何度かハムのことを見ていたので、もう驚かない。

 しかし、伝説上のモンスターであったバハムートを初めて目の前にした他の人たちは、驚きを隠すことができない。

 オズとアリアは、何度も言うが元々の感覚が違うので、みんながなぜ驚いているのか分からない。

 オズに至っては、バハムートが今では弱いものとされているのだと思っているほどだ。



「こ、こんなの見た目だけだろ! シュガー、魔法でやっちまえ!」

「ぐ、グワー!」

「ハム、頑張ってくれ」

「期待に添えるよう頑張ります! グワー!!!」


 ドガァァン!!!


「終わったな」

「頼む、勝ってくれ」

「ハム、勝てるよね?」


 お互いの魔法がぶつかり合い、強風と共に砂埃が舞う。

 オズとアリア以外は、ハムの勝ちを確信している。

 2人は、ハムの勝ちを祈るように願っている。

 そうして、砂埃が収まり、景色がはっきりした。


「か、勝てました!」

「おぉぉ!!! よくやった!」

「ハムが勝った! やったー!」

「やっぱりこの2人は、変わってるよぉ」


 オズは、勝てたことに安心して、普段は見せないような笑顔で叫んでいる。

 ハムも、勝てたことに安心した様で緊張がほぐれたようだ。


「こ、こんなの無理に決まっているだろ……」

「ぐ、グワ……」


 相手は、登場の時とは打って変わって、弱々しくなっている。

 レッドドラゴンは、何とか生き残ったようだが、致命的な一撃を受けている。

 恐らく、このままだと死んでしまうだろう。


「シュガー! 大丈夫か⁉」


 レッドドラゴンの重症さに気が付いた相手は、急いで回復魔法を使う。

 しかし、傷が深すぎる為、ほとんど効果がない。


「クソッ、死なせてたまるか!」

「本気同士なので、やはりこうなりますよね」

「お前、何しに来たんだ⁉」

「僕の責任なので、治しに来ました」

「無理に決まっているだろ⁉ ふざけているのか!」


 相手は、オズが自分のテイム・モンスターをこの様な姿にしたのにも関わらず、澄ました顔で治しに来たと言ったことに憤りを隠せないようだ。

 オズは、そのようなことは気にすることなく、回復魔法を使う。


完全回復マキシマムキュアー

「それって……」

「グワーッ!」


 オズが回復魔法を使うと、シュガーはすぐに元気になった。

 相手は、オズが完全回復マキシマムキュアーを使ったことに驚いている。

 オズは、どうして驚いているのか分からなかったので、気にしなかった。

 実は、完全回復マキシマムキュアーは最強の回復魔法であり、使用すると傷や状態異常が全回復するという万能の魔法なのだ。

 しかし、オズは魔王時代から完全回復マキシマムキュアーしか使っていない為、これが普通となっている。


「あ、ありがとう」

「礼なんていいですよ。それじゃあ、また戦いましょう」

「あ、うん」


 オズは、次の試合に向けてハムを休ませる為、素早く去っていった。

 それからの試合は、1回戦と同じように、一撃で倒しては完全回復マキシマムキュアーを使うという流れで決勝戦まで勝ち進んだ。

 オズは、それまでの試合で一度も油断はしていなかった。


「この試合の勝者が、決勝の対戦相手か。片方はラッシュだな」

「ラッシュ様ー!!!」

「うるさい奴らだ」

「圧が凄いな。それで、もう一方はっと。って、マジかよ……」


 ラッシュが準決勝まで上がることは、試合の前から予想はしていた。

 しかし、もう1人が意外過ぎてオズは驚いている。

 それは、オズだけでなく、アリアたちSクラスのみんなも同じだ。


「私とオズ君との戦いが目前に迫っているよ! ここで貴方を倒しますよ!(キラーン)」

「なんだこいつ」

「ダリア、勝ち進んでたのかよ……」


 なんと、準決勝の舞台に1回戦敗退を予想されていたダリアが立っているのだ。

 みんなは予想外過ぎて逆に引いている。


「まあ、余裕だろ」

「行きますよ!(キラーン)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る