第37話 テイム・モンスター大会(4)

「なんだ、あのブタは⁉」

「あんなのが準決勝まで上がってきたのか⁉」


 客席は、ダリアのアウストヴァリリアが準決勝まで勝ち上がっていることに驚きを隠せないようで、会場が騒めいている。

 それもそうだろう。アウストヴァリリアは、ただのブタなのだから。


「でも、ここで終わっちまうな」

「相手が悪いもんな」

「こんなブタ、一瞬で倒してやる」


 観客は、この勝負の結果が分かっているかのように話す。

 相手がこの国の王子のラッシュだから、仕方のないことではあるが。

 ラッシュも、自信満々で勝ちを確信しているようだ。


「アウストヴァリリア、頼んだよ!(キラーン)」

「ブヒッ!(キラーン)」


 いつの間にか、アウストヴァリリアにも輝きが見え出した。

 この大会で飼い主に似てきたのだろう。

 アウストヴァリリアは、自信満々に立っている。

 ダリアも、ラッシュに勝つ気でいるようだ。


「出てこい、ソルト」

「ギュエー!!!」

「あれは、魔族じゃねぇか⁉」


 ラッシュが召喚したソルトは、なんと魔族だったのである。

 ソルトは、角が生えており、人間のように2足歩行をしている。

 ソルトが魔族と分かったのは、1年生だけであった。

 一国の王子が、魔族を使ってもいいものなのかとオズは思った。

 しかし、そのような心配は必要なかったようだ。


「あれが魔族じゃないって、嘘みたいだよな」

「ああ。でも、ラッシュ様が噓をつく訳ないしな」

「あいつ、嘘ついて使っているのか」


 ラッシュは、ソルトをただのモンスターと公言しているのだ。

 王子という肩書もあり、その信頼度は並ではない。

 1年生は、このことを聞き、ほっとした様子を見せている。

 しかし、オズだけはソルトが魔族だという確信があった。

 そうは言っても、この状況では誰も耳を傾けないので、様子を見ることにした。


「ソルト、一撃で倒せよ」

「承知致しました」


 ソルトからは、圧倒的な力を感じることができる。

 魔族を倒す為には、光属性魔法が必要だが、アウストヴァリリアが使えるとは考え難い。

 また、ダリアがソルトを魔族と思っていなければ、勝ち目はない。

 しかし、ダリアは余裕そうに笑っている。


「貴方が一撃で仕留めに来るのなら、私もそうしましょう(キラーン)」

「俺のソルトが負けるはずがない」

「本当は、オズ君と戦うまでは使いたくはなかったのですが、仕方がありませんね!(ギラッ)」


 ダリアの雰囲気が変わった。

 ソルトを魔族だと判断し、何か策を考えているのだろう。

 何があっても、この勝負は一撃で決まる。


「行け、ソルト」

「アウストヴァリリア、お願いします!(ギラッ)」

「ギュエー!!!」

「ブヒー!!!(ギラッ)」


 ソルトは、闇属性魔法を腕に纏い、力強く殴った。

 それに対してアウストヴァリリアは、その拳に向かって突進しているだけだ。


「ダリアの奴、考えなんかなかったのかよ」


 オズがダリアの負けを確信した時、アウストヴァリリアの身体に異変があった。


 ピカッ


「あの光は⁉」


 拳とぶつかる直前に、アウストヴァリリアの身体が強く輝き始めた。

 そう、この光は魔法によるものである。

 実はアウストヴァリリアは、光属性魔法を使うことができるブタなのだ。

 それも、かなりの実力で魔法を使うことができる。


「ソルト、力で捻じ伏せろ!」

「それは無理ですよ。勝負は、僕の勝ちです(キラーン)」


 パキッ、パキパキパキ!


「グワァァー!!!」


 ダリアが決め台詞を言うと、ソルトの身体が次々に砕けていく。

 そうして、ソルトは跡形もなく消え去っていった。


「ブタ野郎、やりやがったぞー!!!」

「革命が起きちまった!!!」

「あいつ、やりやがった」

「ダリア、やったねぇー」

「あのブタ、そんなに強かったのか⁉」


 ダリアの大金星を見た観客たちは、大きな称賛の声を上げた。


「俺が、負けた、だと? こんなブタに?」

「権力は、そうやって使うものではないんだよ(キラーン)」

「ブヒ!(キラーン)」


 ダリアは、ラッシュにそう告げると、オズのいるところへと向かった。

 決勝戦は、オズとダリアが戦う。


「優勝は、僕が頂くよ(キラーン)」

「無理だね。僕が勝つから」


 2人は、楽しそうに笑っている。

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