第7話 アリアの目標

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「お母さん 、お疲れ様です。かわいい女の子ですよー」

「はぁ……はぁ……ありがとうございます」

「本当にお疲れ様。頑張ったね」

「ありがとう」

「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 気が付くと私は赤ん坊の声で泣いていた。


「あれ、どうして赤ん坊に? 確か、シェリーにお酒を飲まされたんじゃなかったっけ」


 お酒に弱い勇者は、飲んだ後の記憶が全くない。


「シェリーのいたずらか何かだろう。肉体ごと変化させるなんて、すごい魔法を発明したわね。それにキャストまで呼んで、派手だね。種明かしまで待とうか」


 これまでにも勇者は、シェリーに飲んだ後にいたずらされていた。

 悪い笑みをしたシェリーがやって来るだろうと思ったため、特に気にすることなく待っていた。勇者が気にしなかった理由が、親にあった。


「この子の名前はアリア。そうしましょう」

「アリア、いい名前だな。これから元気に育てよ」

「なんか、赤ちゃん扱いに慣れないな」


 勇者の名前と同じ、『アリア』と名付けたのである。

 そのせいで、勇者はドッキリだと勘違いしているのである。



 ◆


 そのまま、1日が過ぎた。


「流石に遅すぎない? 忘れてるのかな。しかも、この魔法、私でも解けないんだよなー」


 勇者は、ほとんど全ての魔法を無効化することができる。

 そんな勇者が解けない魔法となると、魔王の必殺技しかないはずだ。


「もしかして、裏切り⁉」


 そう思ったが、シェリーがそんなことするはずがないと思った勇者は、あることを考えついた。


「もしかして……いや、そんなはずはないよね。まあ、一応確認してみようか」

再生リプレイ


 もしかしたら、転生魔法を使ったのではないかと思った勇者は、輪廻の転生リンカーネイションの付属効果を発動させてみた。

 使っていなければ、もちろん付属効果も発動しない。

 勇者は発動しないことを願っていたが、その願いは叶うことなく、映像が流れ始める。


『いいじゃん! まあ今日はいっぱい飲むぞー!』

『嫌だよ、私お酒強くないもん』

『はいはい飲んだ飲んだ!』

『え、えぇー』

「えっ、信じられないよ。これも、シェリーの仕業よね。そうよ、それしかないわよ」


 勇者は、このことを信じることができなかった。

 それもそうだろう。平和になった世界で、転生魔法を使う意味が分からないのだから。


『こらぁ! あんたはもっと責任感を持ちなさいって言ってるの!』

『えっ、急にどうしたの? もう酔っちゃったの?』

『酔ってないもん! ぐひひー』

「恥ずかしいよ! これが私な訳ないじゃん、絶対シェリーの仕業だよ!」


 自身の酒癖の悪さを話にしか聞いていない勇者は、この映像を偽物だと思ってしまった。

 そう安心した勇者は、少し恥ずかしながらも、楽しんで映像を見た。


『飲ますんじゃなかったよ。最悪だ』

『何が最悪だって⁉ 聞き捨てならんぞー』

『も、もう、風に当たるよ』

『大丈夫だってぇー』

「シェリー、今回は流石にふざけすぎだよ。ネタバラシに来たら仕返ししてあげる」


 いくら側近で何度もドッキリしているとしても、少しムカついた勇者は、仕返しを決めた。

 それは、絶対に無理なのだが。


『着いたわよ。風に当たりな』

『こんなとこに連れて来て、何をするつもりよ』

『何もしないわよ。それにしても、昔はここでよく決闘してたよねー』

『なに、決闘する気なの? いいわよ、相手してあげる』

『ええっ⁉ そんなこと言ってないよ!』

『来ないなら、こっちから行くわよ! 勇者様を舐めるんじゃないよー!』

『ちょっ、待て待て!』

『瞬間移動魔法! 輪廻の転生リンカーネイション!』

「うふふ、それ、瞬間移動魔法じゃなくて、転生魔法じゃん」


 ビュゥン!!!


「ここ、絶対面白い要素いらないでしょ」

『あれ、瞬間移動テレポートを使ったはずなのに、攻撃してこない。てか、どこに行ったんだろう?』

「このシェリー、わざとらしいなぁ。怪しいぞー」


『まあ、酔っていたし、違う所にでも瞬間移動したのだろう。明日になったら帰ってくるよね。帰ろ』

「おいおい、帰ったらダメでしょ! つい、ツッコんじゃったよ。まあいいや。それより、早くネタバラシ来ないかなー」

「……」

「……」

「……」

「……ん? 来ないの? おーい!」

「……」


 シェリーがネタバラシに来ないので、勇者は少しづつ焦りを感じて来ていた。


「もしかして、本当に……」


 バタバタ!


「やっと来たよ! 遅いってー!」


 誰かがこちらへやって来る足音がした。


 ガチャン!


「来た! え……」

「アリアちゃん、ご飯にしようねー」

「ってことは、本当なんだ……」


 シェリーだと思われた足音は、母親のものであった。 

 本当に転生してしまったと分かった勇者は、意外にも冷静であった。


「アリアちゃん、ご飯いらないの?」

「いる」

「よかった、食べてくれた」

「まあ、仕方ないか。もう1回勇者になってシェリーをボコボコにしよう。それまでは生きているだろうしね」


 意外にも勇者は、現実を受け入れて『アリア』としての人生の目標を立てた。

 その目標は呪いの様な冷たさがある。この感じ、シェリーはひどくやられそうだ。

 まあ、目標があるのはいいことである。


「これからが楽しみだ」


 アリアは気味の悪い笑みを浮かべながら、食事をした。


「まあ、よく笑う子だね」

「バブバブ……」

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