第6話 街の平和
「かんぱーい!」
「今日は宴だー!」
魔王が居なくなってから1週間が経った頃の
街はいつも以上に賑わっている。
「やっと平和に暮らせるぞー!」
「今日は飲むぞー!」
人間の世界に平和が戻った。ということは、魔王が居なくなったことが人間界にバレたのである。
魔王が居なくなったことが分かり、みんなは喜んでいる。
もちろん、王城でも同じである。
「勇者よ、よくぞやってくれた」
「いいえ、そんなことないです。魔王城に攻めに行ったら、誰もいなかったので」
「運も実力の内だ。お疲れだった。今日は、存分に楽しむが良い」
「ありがとうございます! それでは失礼します」
王城では、勇者が王様と話をしていた。
勇者一行が魔王城に攻めに行った。しかし、そこには何もなく、静寂に包まれていた。
こんなことは、今までに一度もなかったことで、初めはフェイクであると思っていた。
しかし、毎日魔王城に行っても誰もいなかった。
それだけではなく、魔族が占領していた場所にさえいなくなっていたのだ。
そうなると、考えられることは1つしかない。魔族が絶滅したのだと。
「これでようやく羽が伸ばせるよ」
「勇者様、最近は忙しかったですもんね」
「シェリー、その呼び方やめてよー」
「手で頭をかいてる。照れてるじゃん」
「そんなことないって!」
「私は騙せないからね」
『勇者様』。そう呼ばれているのが人間界最強と言われている『アリア』だ。
アリアは、自身にしか使えない、魔王すら懼れた瞬間移動魔法を上手く使って、最強へとなったのだ。
さらには、性格、顔も最強クラスである。まさに、『高嶺の花』だ。
そんな彼女とともに歩いているのが『シェリー』である。シェリーは魔族の血を引いているのもあって見た目は魔族に近い。
そのため、戦闘能力はアリアと変わらない。このことは2人だけの秘密である。
しかし、のんびり屋で楽観的なシェリーはリーダーには向いておらず、代わりに観察眼が良いので、側近としてアリアを手助けしている。
「いいじゃん! まあ今日はいっぱい飲むぞー!」
「嫌だよ、私お酒強くないもん」
「はいはい飲んだ飲んだ!」
「え、えぇー」
アリアは、シェリーの勢いに逆らえず、酒場で無理矢理に飲まされてしまった。
お酒に強くない。それは真実だが、アリアがお酒を飲まない理由は他にある。
それは……
「こらぁ! あんたはもっと責任感を持ちなさいって言ってるの!」
「えっ、急にどうしたの? もう酔っちゃったの?」
「酔ってないもん! ぐひひー」
アリアは酔うととても面倒くさいのだ。アリア自身はどのように振舞っているのかは覚えていない。が、周りから話を聞いていると酷いので飲まないでいたのだ。
そんなことは気にも留めていなかったシェリーは、お酒を進めたことに後悔していた。
「飲ますんじゃなかったよ。最悪だ」
「何が最悪だって⁉ 聞き捨てならんぞー」
「も、もう、風に当たるよ」
「大丈夫だってぇー」
そうして2人は街が見渡せられる展望台に行った。ここは、2人が昔によく決闘していた場所だ。
今日は、街でみんなが飲んでいるので、周りには誰もいない。
雲が星を隠し、ゴロゴロと叫んでいる。
「着いたわよ。風に当たりな」
「こんなとこに連れて来て、何をするつもりよ」
「何もしないわよ。それにしても、昔はここでよく決闘してたよねー」
「なに、決闘する気なの? いいわよ、相手してあげる」
「ええっ⁉ そんなこと言ってないよ!」
「来ないなら、こっちから行くわよ! 勇者様を舐めるんじゃないよー!」
「ちょっ、待て待て!」
「瞬間移動魔術!
ビュゥン!!!
アリアの勘違いで戦いが始まってしまった。こうなってしまっては、誰も止められないので、決着が着くまで続くだろう。と、思われたのだが……
「あれ、
シェリーは急な戦いで焦っていたため、アリアの詠唱は聞こえてなかったようだ。
ただ、急に消えただけ、と思っている。
「まあ、酔っていたし、違う所にでも瞬間移動したのだろう。明日になったら帰ってくるよね。帰ろ」
その日から、アリアが姿を見せることは無かった。
魔王に続いて、勇者まで居なくなったため、人々の間で騒がれるのは言うまでもないことだ。
しかし、2人ともが間違えて転生してしまったことなど、誰も知る由も無い。
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