23:温かい飲みもの
ランディがそっと扉を開くと、ちょうどトリスが身を起こしたところで、慌てて後手に扉を閉める。ポットとカップを載せた盆が傾いていないことを確認して、ベッドの上のトリスに声をかける。
「起こしてしまっただろうか?」
「ううん、今、目が覚めたの」
ぽつ、ぽつ、と言葉を落としながら、トリスは大きく見開いた目でランディを見上げる。彼女にはいつものことなのだが、今ばかりはどうにも気恥ずかしくて、つい視線を逸らしながら盆を小さな机の上に置く。
「紅茶はいるかな」
「うん。ありがと、ランディ」
トリスの分はミルクも砂糖も多めに。自分の分はミルク多めで砂糖が少なめ。そうしてトリスにカップを手渡して、自分もベッドに腰掛ける。横並びの姿勢で、あたたかなカップを手に、しばし柔らかな沈黙が流れる。
横目で様子を窺えば、猫舌のトリスはカップの中の紅茶をふうふうと冷ましながら少しずつ飲んでいる。カップを支える細く折れそうな手を見ていると、昨夜のことがまざまざと思い出されて、いても立ってもいられない気分になる。しかし、その同様を面に出すこともできないまま、自分の分の紅茶を半分くらい一気に飲み下す。
すると。
「あのね、ランディ」
ぽつり、と。トリスが名前を呼んだ。ランディは、今度こそトリスの顔を真っ直ぐに見た。そして、トリスは彼女には珍しく血の気の通ったほの赤い顔で、ランディを見上げて言うのだった。
「これ、飲み終わったら、……また、ぎゅっとして」
片手がランディの手に重ねられる。そのちいさな手をそっと握って、ランディは笑う。まだ、気恥ずかしさは残っているけれど、それでも。
「君が望んでくれるなら、喜んで」
(アシュベリー家のとある朝)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます