22:冬将軍

 窓の向こうのアレクシアは、いつになく楽しそうに笑っていました。

「ああ、叔父さまの間抜け面ったらなかったね! 全く、叔父さまと話していると飽きないな」

 最近のアレクシアの話題は、もっぱらわたしたちの叔父に当たるあのひとのこと。アレクシアの口から語られる「叔父さま」は、とても愉快なひとのように思えます。

 けれど、ただそれだけのひとでないことを、わたしも、それにアレクシアも知っているはずなのです。

「どうした、ニア?」

「……シアは、叔父さまが怖くないのです?」

「怖い。なるほど、そういう考え方もあったか」

 アレクシアは本当に「考えたこともなかった」という顔をしました。知っていても、考えに上ることはなかったのだと。わたしには、アレクシアのそういうところがどうしてもわかりません。

「怖いと思ったことは一度もないな。最低でも、叔父さまがわたしやニアを傷つけたことはないだろう?」

「それでも、叔父さまは」

 わたしは、あのひとを思い出します。わたしが最後にあのひとを見たのは、三年前の夏の日。空気も人も熱に満ちていたあの場で、たった一人、ひどく冷たい影を落としたあの姿が、忘れられずにいるのです。愉快そうに笑っていながら、目だけは氷のような色をしていたあのひと。漆黒の剣を左手に提げ、何もかもが凍りつく、冬の気配を纏っていたあのひと。

 ……わたしとアレクシアはお母様似で、つまりあのひととよく似た顔をしていて。もしかすると周りからあのひとと同じ風に見えているのかもしれない、なんて。そんな風にも考えています。

「ニアには、叔父さまがそういう風に見えていたのだな」

 アレクシアは少し驚いたように言いました。

 それはそうです。今まで、アレクシアにも言ったことはありませんでした。あのひとのことを話すアレクシアがいつになく楽しそうだったので、なかなか言い出せなかった、というのが本音だったのですが。何しろ、こんなに楽しそうなアレクシアは、生まれた時から一緒にいるはずのわたしも知らなかったのですから。

「けれど、わたしはやっぱり叔父さまを怖いとは思えないよ。……寂しいひと、だとは思うけれど、それだけさ」

 寂しい。……寂しい。

 アレクシアの言う「寂しい」という言葉は、わたしの中に鈍く響きました。どうして、アレクシアが叔父さまを慕うのか、何となくわかってしまったような気がして。しかし、その理由を言葉にすることはできないまま、わたしはただ、変わらず楽しげにしているアレクシアの言葉を聞き届けるのです。

「雪が降ってきたね。……叔父さまは、寒くないだろうか。あの塔は、きっと冷えるだろうからね」

 

(女王国首都にて、窓越しの双子)

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