18:毛糸

 ころん、と毛糸玉が転がりました。

 ころん、とそれを追いかけていた子猫が転がりました。

 そんな様子を、先生は口元を緩めて見守っていました。

「先生、動物は好きですよね」

「無邪気なもんですからね。人間よりはよっぽど好きですよ」

 ネイトの言葉に答える先生ですが、その視線――正確には色眼鏡に隠れてよく見えないのですが――はどこまでも、前脚のかたっぽだけが白い黒猫に向けられているのでした。

 先生が、家主のマシューと行方不明になってしまったご近所さんの飼い猫・くつしたを探しに行ったのが少し前の話。その時に、くつしたの元にいたのが産まれたばかりのこの子ともう一匹の子猫でした。屋敷に引き取った今はエールとアールという名前がついているのですが、何せ先生は覚えていられないので、片脚が白い「かたっぽ」、反対の足が白い「もいっぽ」と呼んでいます。

「いやー、かたっぽはかわいいですねえ」

「そっちはかたっぽじゃなくてもいっぽですよ」

「ん? そうでしたっけ?」

 オタクどっちでしたっけねー、と子猫を見下ろす先生はいつになく優しげですが、少しだけ。ほんの少しだけですが、子猫から距離を取っているようにも見えたのでした。

 

(鈍鱗通りの作家と編集)

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