第33話 現在、パーティ結成中!

「まともな部屋がないなら白雪城の空き部屋を使えば、とプルルスが言ってくれたので、今日からここが私たちのお部屋でーす」


 私は白雪城の外縁に位置する部屋の扉をあけた。

 四人で済むには広すぎるけど、アテルとウィミュは目を輝かせているし、ミャンは言葉を失って突っ立っている。


「リリ様、この部屋を本当に使ってもよろしいのですか!?」

「うん。プルルスが貸してくれるって。奥に小部屋を四つ用意してもらったから、アテルも好きな部屋を一つ使って」

「すごい! こんなに綺麗な部屋を貸してくれるなんて。教祖プルルスは、もうリリ様を心酔してるんじゃないかって思えるほどですね。指導にますます興味が湧いてきました!」

「ま、まあ……その辺は、プルルスも話すと意外といい人だったの……うん」

「ウィミュもお部屋を使っていいの?」

「いいよ。どこがいい?」

「じゃあ、真ん中のどっちか!」

「あれ? 端の部屋じゃないの?」

「端? ウィミュは隣に誰かいた方が楽しいもん。村だとみんな一緒の部屋だったし」


 なるほど。

 ちょっと驚いた。パーソナルスペースがあった方がいいかと思って、シェアハウスっぽいつくりに改装してもらったけれど、ウィミュはそういう生活か。

 まあ、共有スペースがあるから、何とかなるか。


「ミャンはどうする?」

「私は端の部屋にしようかしら……」

「ミャン? どうしたの?」


 猫耳の彼女は赤茶色のくせっ毛を何度も落ち着きなく触り、猫のようなアーモンド形の緑の瞳を輝かせている。長めの尾がせわしなく腰元で揺れている。


「こういうの……楽しいですわ」

「楽しい?」

「私は……ウィミュさんとは逆で、大きな部屋に一人の生活が長かったですから。こういう間取りが……もう、楽しい生活が想像できて……楽しみなのです」


 ミャンは空間を見つめながら、ゆっくりと言葉を探すように口にした。

 ウィミュとアテルが互いに顔を合わせて、にっこり微笑んだ。


「みんなで色々やりましょう!」アテルが言った。

「アテルの言う通り。みんなでご飯食べて、甘いものも食べて、お酒も飲んで!」

「ウィミュさんは、だいぶリリさんに毒されてきてますわよ」

「そうかな?」

「あなた、お酒なんて飲まなかったじゃありませんか」

「楽しいから、ウィミュは問題ないよ?」

「まあ……そうなんですけど、私は、銀帝をやっつけるという目標がありますもの! 食べて飲んでばかりではいられませんわ!」


 ミャンが闘志を露わに拳をぐっと握り込んだ。

 相変わらず、彼女の目標は変わっていない。自らヴァンパイアになり、今も修行という名の道場巡りを続けている。

 そして、行き詰まりを感じていることを知っている。


「じゃあ、部屋を決めようかな。ウィミュは真ん中二つのうち一つ。アテルは?」

「私はリリ様の隣ならどこでも大丈夫です」

「……私の隣、ね。じゃあ、アテルは右端で、その隣が私で、その隣にウィミュ。左端がミャンで決定かな。それと、みんなに伝えることがあるの」


 私は全員を見回して、これからのケーキ店の出店、目的、雑な計画を告げた。

 アテルとウィミュは、頷いていたけれど、ミャンだけは修行の時間が減るのは困ると言った。


「ミャンがそう言うとは思ってた。だから、私たちは率先してケーキの材料を集めに行くつもり」

「材料を?」ミャンが眉を寄せた。

「ええ、ケーキに砂糖は絶対に必要だけど、危険な場所にあるの」


 私がそう言うと、ミャンが目を見開き、楽しそうに微笑んだ。


「修行ね!」

「私たちでパーティを組んで、冒険者ギルドに登録だけしておいて、依頼を受けがてら砂糖を集めにいくの」

「そして、出てくるモンスターをやっつける」


 ウィミュが納得とばかりに言う。

 私は、説明を続けた。


「いくら頼まれても、私じゃミャンに強くなる方法を教えられないけど、モンスターと一緒に戦うことはできる」

「盗め、ってことね。わかりましたわ」

「で、それと同時に材料集めもする。了解しました」


 アテルが頷いた。


「ということで、私たち四人でパーティを作るけど、パーティ名に希望はある?」

「真祖with3とかどうでしょう?」

「却下。真祖って名前使わないで」

「ミャンミャンミャンはどうかしら?」

「ちょっとかわいいけど、それパーティ名じゃなくて個人名でしょ」

「そうです。ミャンは自己主張が激しすぎます」アテルが眉を寄せた。

「ブラッディ=クロスは?」


 ウィミュが得意満面で言った。

 ミャンがすかさず突っ込んだ。


「ウィミュさんだけ、ヴァンパイじゃないのに、それでいいんですの?」

「ウィミュは気にしないよ」

「ヴァンパイアってアピールするのはやめとこっか。色々と目をつけられそうだし。でもクロスはかっこよくて好きかも」

「ではリリ様、クロスフォー(X4)というのはどうでしょう?」

「クロスフォーか……いいんじゃない? あんまり主張してない感じがいいかな」

「まあ、問題はパーティ名より実力の方ですからね」


 ミャンも納得。

 決まった。ヴァンパイア3人とウサギ族1人のクロスフォー。

 今日から始動します!


「じゃあ、役割分担決めよっか」

「私は、前衛で体術使い。ペルシアン家は代々体術のスペシャリストですわ」

 ミャンが得意げに言った。

「私も、前衛ですね。同じく体術……というか体術しかできません」

 アテルが少し照れ笑いを浮かべて言った。

「ウィミュは魔法使いがいい! 体術の方が得意だけど」

 ウィミュはずっと一貫している。まあ、魔法使いでいいだろう。


「か、偏ったねー。誰か回復魔法とかは?」

「できません」


 全員が見事に首を振った。


「じゃあ、後衛は私とウィミュね。私は自動的に魔法使いか」

「ちょっと待ってください。リリ様の魔法って……アレですよね?」


 アテルが厳しい視線を向けた。


「うん……まあ、アレ意外使えないし」

「リリ様が魔法を使ったら、私たちの出番はないです。ミャンの修行にもなりません」

「じゃあ、リリには前衛やってもらう?」

「待ってください、ウィミュ。リリ様の体術って見たことないですが、真祖様で、レベル70超えでしたよね? 前衛でも並外れた強さなのでは?」

「ま……まあ、多少は……」


 そういえば、レベルの話は70台設定だったの忘れてた。

 焦る私をしり目に、三人の瞳が、悲しそうに曲がった。

 そして、同時に小さなため息を吐かれてしまう。

 どうして一番のお荷物が私みたいになっている?


「ちょっと待って! 私だって、クロスフォーの一員だから!」


 悲愴な声をあげた私に、アテルが「もちろんです」と力強く頷いた。

 そして――


「リリ様は後衛でお願いします。できたら……弓はどうでしょう?」

「弓っ!?」

「魔法は危険がない限りは、できれば禁止の方向で」

「私、弓なんて産まれてから一度も使ったことないよ!?」

「ですが、前衛にリリ様が立つと、普通のモンスターでは勝負になりませんし、後衛で魔法を使うと、たぶん敵は消滅するかと思います。ですので、これが最善です」

「狙いが逸れて、誰かに当たっちゃうかもしれないのに!?」

「……れ、練習をお願いします。ワルマーさんが多少の心得があったはずです」


 血界術の失敗をよく知ってるアテルの顔が青い。

 前衛でモンスターと戦っていたら、背後から味方の矢に討たれる――なんてひどい話だ。

 そもそも、私の矢が真っ直ぐ飛ぶと思えない。そんなイメージが全然わかない。


「リリ様……練習、お願いします」

「わ、わかった……がんばって練習してみる」


 こうしてクロスフォーは難題を抱えて発足した。

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