夢を見て空を見る少女16

目の前の少女は血をだらりだらりと垂れ流しながら、左腕が使い物にならなくなりぶらりと垂れ下がろうが、髪の毛が血の色に染まろうが、膝に手を着くこともなく、目線が下に向くこともなく、杖を支えにすることなく


ただ一人でぎらりと顔を上げ続ける、敵をにらみ続ける


負けないように、心が折れないように、血がいくら流れようが、臓物を出されようが、壁に打ち付けられようが


魔術師一人で立ち続ける




勝手についてきた分際でお荷物になっている現状に頭を回す


不甲斐ないわね…


ヒイロは目の前の戦闘に目を向ける、どうしたものか、立ち上がろうとしても能力の過度な使用によりうまく力が入らない


私の能力は余りにも燃費が悪い、燃費が悪いために何度か使用しただけでこのように体に不調をきたす


全く使えない力だ


「ツバメ、そろそろ起きなさい」


頬を叩くが、一向に目を覚ますことはない、死んでしまっているのだろうかと思ったがしっかりと息はしている


言葉を発する数秒でさえ、戦況は変わっていく


ウィルフレッドが剣を構えルディアに突撃したと思えば途中で鎖で止められ、鎖が意思を持ったように暴れ始めウィルフレッドを壁に何度も何度も叩きつける、叩きつけられるたびに地面が大きく揺れた


がすぐさま黒い人型が剣を振るい鎖を断ち切り


もう一人の黒い人型が間髪入れずに斧をルディアに振るう、その攻撃を辺り一面に散ったルディアの血が形状変化し盾のように薄くルディアの目の前に広がる


斧の攻撃を受けて余りにも脆くその場で粉々に砕け散り瞬時に空中上で血液に変わるが、ルディアは盾が作った須臾の時間を使い回避行動をとり、斧の攻撃範囲から抜け出す


だがそれだけでは終わらない血液に戻った後も利用される、盾が砕かれ空中に散った血液は瞬時に形態を変え、無数に鋭利な突起状の棘へと姿を変え、斧を振るった黒い人型に向かって目で追うことができない速度で貫抜く


予想谷しない一撃だったのか回避行動をとることも叶わずに黒い人型は貫かれる


貫いた直後に黒い人型の身体、内側から赤黒い色の棘が何本も何十本も生成された、それは言わばバラの茎の用だった、数多の血の槍に貫かれた黒い人型は力を失ったようにぐらりと地面に倒れ伏せた後ゆっくりと黒い人型の身体が黒い粒子を空中にまき散らしながら消えていった


だが終わらない、そんな様子を見てもウィルフレッドは攻撃の手を緩めずに、剣をもった黒い人型は攻撃の手を緩めずに、間髪入れずに息を付ける暇さえ与えずに攻撃が何度も何度も何度も続けられる


その間に先ほど倒されて散った、斧を持った黒い人型は再生し、もう一度攻撃に参加しようとしている


その様なセットを何度も何度も繰り返している、ギリギリのところで持ちこたえている様子が見てうかがえる



そろそろツバメには起きてもらわないと本格的に状況が好転しないため、起こすために拳を握りしめ高く上げたところ


ゆっくりと瞼が動いた


「ん‥………」


「ツバメ早く起きなさい!」


すっと透き通る激しい声でヒイロはツバメを起こす


「は……っへ?………どんくらい気を失ってました!?」


ツバメは勢い良くがばりと起き上がる


「そこまで経ってないわ、それよりもあなたは救援を呼んできてちょうだい」


ツバメは周りの様子を一瞬だけ俯瞰し今の言葉を理解する、そして一瞬だけ思考し言葉を紡ぐ


「ヒイロさんはどうするんですか?」


「どうするって?そりゃ救援来るまでルディアと耐えるわよ」


「……撤退っていう選択肢はないんですか?」


「そもそも今だって話している選択肢がないわよ」


この数秒だってルディアがただ一人で持ちこたえている上で成り立っている時間だ


いつまでもつのかが不明だ


動かない体に気合を入れて無理やりにでも立ち上がる、多少のふらつきはあるが数十秒休ませてもらった


だから動くしかない


「ふむ、だったら尚更撤退しましょうか」


「もう行くわよ?救援はよろしく」


了解の声を聞かずに私は戦闘に戻る


能力は使えなくともまだ技能と魔術は残っている、それに話している間に疲労は抜けた


そもそもソフィアが大事にしているこの国で勝手に魔術を展開し、勝手に横暴に生きている、ウィルフレッドという存在がいるのが気に食わない




「‥‥頭でっかちめ、悩むそぶりでも見せて欲しかったですが‥‥‥さて戦闘は苦手ですけど‥‥逃げることだけを考えればそこまで引けを取らないと思うんですよね、ただどうにも逃がしてはくれなさそうなんですよね~」


さて、どうしたものか


私だけ助かることは簡単なんですけどね・・流石にそれは私の心が痛みますし・・・


ていうかなんであの二人はあんな命を削るような戦い方をしているんですかね、なんというか自身の命をどっかにほっぽり出している戦い方をしているというか、命を散らしているというか死を恐れていないというか


な~んで、全くお二人には撤退という二文字がないんですかね~



ここで私が戦闘を離脱した際には5分の確率で生残り、5分で確率で二人ともただの死体になっているでしょうね


7の確率で生き残っているんでしたら、ちゃっちゃか救援を呼びに行くんですけどね


だが私がここに残っていても多分状況的にはひっくり返らない


よし、こうしましょう、強引に撤退させます


私は剣を持ち直す


「はぁこなけりゃ良かった」


ツバメはぼやきながら飛び出した




ルディアは何度も何度もはじき返す、はじき返し、はじき返し、一瞬の隙間を細い糸を通す感覚に近い一手で、そしてそこで一発で通さなければ痛い反撃を食らう一手

をルディアはしかりと決め、相手の調子を崩していく


それがルディアが生き残れている、戦闘を続けられている理由


…‥‥ツバメさん、ヒイロさんが居なければ、この空間を崩れ落として生き埋めとかの手を取れるんですが‥‥


流石に私以外の人間がいる状態でそれはできませんよね


本当に決め手がない、倒しても倒しても黒い人型は復活する、ウィルフレッドを狙うにも黒い人型が魔術を確実に切り伏せられる、ただウィルフレッド自体はそこまで強くはない


いえ強いんですけど、なにか上辺だけの強さというか・・・


ルディアの魔術とウィルフレッドの魔術、剣術 黒い人型の剣術によって室内がぐらぐらと揺れる


「ルディア大丈夫?」


私の背中を守るようにヒイロさんが後ろに立った


「大丈夫ではないですね」


話しながら、自身の能力で空中に生成された鎖が黒い人影を巻き捕らえた


鎖を蛇のように動かし、地面に叩き、壁に叩きつけた、そのたびに地面が揺れる、床や壁に叩きつけられるたびに轟音が鳴り響く


最後には巨大な鉄球よろしく、黒い人型をウィルフレッドに向けて叩きつけにいった


だが一切ためらう様子なく、ウィルフレッドは黒い人型ごと斬り伏せる


片方の黒い人型が突っ込んでくる、同時にウィルフレッドも巨大な火の魔術を放ってきた


巨大な炎は私の水の魔術で打ち消す


右腕から大量の水が絶え間なく打ち出される、それとほぼ同時に黒い人型と私たちの間に一人の影が割って入り、剣で綺麗に攻撃を受け流し、華麗な蹴りで黒い人型を壁に打ち付ける


黒い人型は致命傷を負ってはいなかったが黒い粒子を空間にまき散らしながら消えていった


打ち付けられたために伴い轟音が鳴る地面が揺れる


「っと‥‥」


ツバメが蹴りを入れた体制から戻し、一息入れる


「なんでここに居るのよあんた」


「ひどいですね〜まぁあれですね、戦況を判断した結果ですね」


「あんたがここに居たってどうにもならないでしょ」


「そんなこと言ったら、ヒイロさんが居ても、私が居ても変わりませんよ、というわけで私はお二人に撤退させることを提案しますよ」


「しないですね」


「しないわ、流石にこんなやつ野放しにできないわ」


「はぁ、そうですか、だったら強引にでも撤退させます」


「だから、しないって言ってるじゃない」


ぎゃいぎゃいとあーだ、こーだ言っている間も地面が揺れている、轟音が鳴り響いていた


そう、周りを見渡すが誰一人として動いていなかった、だが空間は揺れ、轟音は鳴り響く、音の震源を探るようにウィルフレッドを警戒しながら見渡した


音が反響していてうまく音の位置を特定できないが、ウィルフレッドも何かを探るようにぴたりと攻撃を止めていた


相手にとってもこの音はイレギュラーらしい


だが、その音は敵であるのか味方であるのかが分からないため迂闊に動けない


誰一人として動けない現状において一人の少女メイドが打開する


その間に既にヒイロは動きだしていた、一瞬の隙をも逃さない、一歩、二歩と踏み込むほどに加速していき、近づいていく、音もなく、片手の短剣を構えウィルフレッドの首を狙いに行った


がいつの間にか復活していた黒い剣を持った人型が、ウィルフレッドよりも数倍手練れの黒い人型がヒイロの一閃を完璧に防ぎ、一瞬の均衡を見せた後に軽々しくヒイロを吹き飛ばす


瞬時に動けない代わりに衝突によるダメージを軽くするためにヒイロが激突するであろう地点に瞬時に鎖の網を作った


吹き飛ばされると同時に音が、轟音が止み、頭上からぱらぱらと砂が降ってくる


吹っ飛ばされていたヒイロが瞬時に、瞬きを入れた瞬間に視界から消えた


消えた後、ツバメとルディアの丁度真後ろにトンと小さな足音が聞こえてきた


「三人ともお疲れさん、最強の吸血鬼が助けに来たぞ」


そこには腰に二振りの剣を携え、先まで吹っ飛ばされていたヒイロをお姫様抱っこをした吸血鬼の王様ソフィアがいた



「何でここに?」


時間を有効活用しようとゆっくりと治癒魔術を自身にかけながら、私は当然の疑問を口にする、ヒイロさんが居るにしたって、ヒイロさんは誰にも言わずにここに来ていた様子であった、だからソフィアさんがここにいる事を知りえるはずがないのだが‥‥


ウィルフレッドを睨みつけながらソフィアは軽く口を開く


蛇に睨まれた蛙の如くウィルフレッドは一歩たりとも動けていない、それまでにソフィアの存在感、プレッシャーは凄まじい


「勘だよ、勘」


ヒイロはぼぉーと惚けている、先程の殺気は何処に行ったのやら、雰囲気が既に柔らかくなっている、というか


瞳が何処かに行ってしまってる


心ここに在らずですが大丈夫なのでしょうか?


「ヒイロ、現在の状況を簡潔にまとめて教えてくれ」


「‥‥‥‥?・‥‥!はい!」


ヒイロは一瞬でぼぉーとしている顔を瞬時に引き締め、瞳に光を宿す


簡易的に現在の状況を話す


一つが今目の前にいるのがお昼の元凶であること

一つが魔術ではなく、能力であること

一つが黒い人型が二体、または黒い化け物が無尽蔵に湧き出てくること、黒い人型を倒したとしてもいつの間にか再生している事

一つがウィルフレッドの力は未知数であるが、今のところ黒い人型が二体以上は出現せず、なおかつ黒い化け物も出現しない、これが能力の制限ではないかということ


と淡々と述べていった


メイド服の少女がお姫様抱っこされながら・・・


顔は引き締まっているのだが、どうにも格好が恰好なだけに気が緩むような雰囲気が漂う


「いつまでその格好でいるんですか?ヒイロさん?」


ツバメが溜まらずに言葉を入れる


「なによ、これが私の本来の姿なのよ、貴方は普段通りに過ごしている人間に、普段通りにしてくれなんて言うのかしら?」


「何言ってんですか・・」


ツバメは呆れながら言葉を吐いた


そんな二人を尻目に見ながら私は助っ人、ソフィアに話を振る


「ソフィアさん、そのまま警戒したまま聞いてください、先まで私たちの力は油断をしなければぎりぎりの所で拮抗していました、理由としてはただ一つ黒い人型があまりにも強すぎるという点です」


ソフィアはヒイロをゆっくりと下ろしながら返事した


「ふむ、それで?どうして欲しいんだ?」


「黒い人影を一人で相手してください、もう片方はヒイロさんとツバメさん二人で抑えてもらいます」


ルディアは少しだけ考えこみ、鋭い眼光でウィルフレッド達を睨むような形で見つめる


「…‥‥ふむぅ、そうだな、分かった」


「ではお願いしますね、ルディアさん、お二人も大丈夫ですか、てかそろそろ始まりますよ?」


未だに裏でギャーギャー騒いでいた二人に声をかける


緊張してがちがちに動けないよりかは良いですが・・・


「大丈夫よ」


「聞いていましたよ、この脳内お花畑の人間と一人の人型を相手すればいいんですね」


「うるさいわね、ほらとっとと私の肉壁になりなさい」


「なんつーことを言うんですか!」


大丈夫ですかね?


「それよりも私の事を信用していいんですか、ソフィアさん」


「信用も何も、こちら側にヒイロが付いているんだ、信じる理由なんてそれだけで十分だ」


「ソフィア様‥‥」


ヒイロはとろんと人には見せてはいけない顔になっている


朝に出会った時のイメージは何処にいったんでしょうか・・このぬぐい切れないポンコツ感


私はそんなことを考えながらソフィアに一言返す


「そうですか・・では改めてお願いします」


「あいよ、任された」


ソフィア、ヒイロ、ツバメは一斉に動き出した、己に課されたものを処理するために刃をそれぞれ構えた

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