夢を見て空を見る少女15

ルディアが「後ろ!」と叫んでいる


何かしらあるのだろうと考えすぐさま武器を構えるが反応に遅れた


目の前には先ほど消えたはずの黒い人型がおり、私に向けて既に斧が降り下げられていた


だがツバメが庇うように私の目の前に入り、剣を強引に割り込ませる


嫌な金属音をかき鳴らし、一瞬の均衡を見せたのち、ツバメは斧を逸し、パリィをして見せたが斧の斬撃によって壁に向かって吹っ飛ばされる


「バースト!」


と切羽詰まった声と共に風の魔術が発動し少しだけ、ほんの少しだけ速度を落としたのち、強烈な打撃音と共に壁に打ち付けられた


ただツバメが残してくれた数秒を見逃すほど柔な私ではない


態勢を少しでも崩しているのならば!


ヒイロの黒い目、獣のように尖らせた黒い目は一瞬もの隙をも逃さない獲物を刈り取る目をしていた、実際には出ていないが、それは正に目から炎が出ているように見えただろう


メイド服が宙を舞いながら、その一瞬を逃さずに獲物を刈り取る勢いで瞬時に詰め寄る


逃さない一撃、見逃さない一撃、引き裂く一撃


銀色に輝いた短剣で黒い人影の首元を豆腐を斬るが如く抉り斬った


黒い化け物の頭が華麗な放物線を描きながら宙を舞った、だがヒイロは勝てたなんて一つたりとも思わない


以前に戦った黒い化け物も再生能力を持っていたのだから、頭を飛ばしたところで消えるはずがない


ただ少しの隙を見せてくれればいい、なんなら目が潰れていて状況把握能力を格段に落としておいてほしい、その瞬間さえ稼げればツバメをたたき起こすことができる


ただそれは叶わなかった、首なし人型は頭が無いのにも関わらずヒイロがしっかりと見えているかの如く斧を正確無慈悲にヒイロの腹に振り下ろした


ぎりぎりの所で能力でもう一本の銀の短剣を呼び出し、その短剣で器用に斧の斬撃をはじき返す


が斧をはじき返しただけで威力までは殺せない、ツバメと同様に壁まで威力を一切殺せずに叩きつけられる


「っは!」


空気が押し出される、凄まじい衝撃に意識が一瞬持っていかれる



意識が飛んでいた、その中で声が聞こえてくる


「ツバメさーん起きていますか!」


声が聞こえる


「ここから逃げて応援を呼んできてください!私達三人じゃ勝てないです決定打があまりにも薄い、だから助けを…応援を呼んできてください!」


ルディアが叫んでいる


ゆっくりと顔を上げる、ルディアから叫び声、ほんの数秒気を失っていたようだ、くらりとする頭を強引にたたき起こす


状況を把握するが、あまり変わっていなかった


黒い人影は何もせずに佇んでおり


先ほどとは打って変わり、ルディアとウィルフレッドは何かを話していた


内容までは聞き取れない


近くにいるツバメの方を見る、ぱっと見でも擦り傷や打撲痕があるだけで軽症だが気を失っている


起こすためにゆっくりと動く、ヒイロの行為はウィルフレッドや黒い人影は一切の興味を示さない


先ほどの言葉をツバメに伝えるためにゆさりゆさりとゆっくりと身体を揺らす・・ルディアが言っていたことは正しい


三人では力が足りない、このままの状況を続けていれば誰かが確実に犠牲になる


だから一番この状況を打破できるツバメに起きてもらわないと困るが、一向に目を覚まさない


そこに突然異様な音が聞こえた


炎が薪をもらい暴れ狂っているかのような音が耳に入ってきた


顔を瞬時に上げる


直径が男の大人ぐらい、人一人分くらいある大きな、大きすぎる炎の塊が床を削りながら、弓で放たれた矢のようなスピードでウィルフレッドに向かっていった







「じゃあ始めましょうか?」


右腕に収まっていた物を形にする、大きな大きな火の玉、全てを削りとる火の球、魔力を十分に練りこんだ一級品の魔術


飛んでけ!


右腕から瞬時に形になり、尋常じゃないスピードでウィルフレッドに飛んで行った、火の玉は床を熱で削るほどの威力で、凄まじい轟音を立てていた


ウィルフレッドとの間に剣を持った黒い人型が瞬時に割って入る


何かさせる前に止める


右手の甲が青く光り始める、光った個所に幾何学模様が浮かび上がる、ルディアの力になるため、ルディアの意思に応えるようにその輝きは増していく


剣を持った黒い人型を全力で止めに行く


四方八方至る所の空中から鎖を出現させ、射出する


が案の定、鎖は断ち切られる


そんなことは知っています!


鎖を止めどなく出現させる、斬られても切り伏せられても幾つも幾つもの鎖を放ち続ける


火の玉は真っすぐに轟音を立てながら真っすぐに飛んでいく


同時並行で瞬時に右腕に魔力を集める、雑でもいい、イメージするのは球体の風、荒れ狂う風、誰にも止まらず止められないほどの風、だがすべてと同調するほどの風


私は右腕をウィルフレッドに向けて、火の玉を追うように、火の玉が黒い人影に着弾する前に風魔術を発動させる、時間がなく制御のためだけに簡単な詠唱をする


「ウィンド!!」


何の問題もなく右腕から先と同じくらいの風の球体が真っすぐに発射される


火の玉は着弾と同時に膨らみ、全てを焼き尽くす勢いでウィルフレッドと黒い人影を飲み込む、そこに風の魔術、風の球体を送り込み


火の玉はゴウゴウゴウと喜ぶように笑うかの如く膨らみ勢いを増して、それは正に竜が暴れているようだった



今ので数秒の世界


自身のペースに永遠と誘い込め、引っ張り込め



ブンと鋭い音が聞こえた、自身の右手側から斧が振るわれていた


だが瞬時に強化魔術を自身に掛けウサギのように華麗に飛ぶ、同時に鎖を空中に出現させ、斧を持った黒い人影を拘束するために何本も何十本も何百本も射出する


斧という思い枷を持っていても黒い人型は鎖を華麗に捌く、叩き伏せる、避ける、一本たりとも命中しなかった


とんと静かに着地する、だが休む暇もなく、キーンという聞いたことがない甲高い音が聞こえた


音の方向を見ると、数秒間、猛威を振るっていた炎が真っ二つに、言葉通りの意味で割られる、炎の裂け目から真っすぐに黒い人型と視線が交差する


その炎から剣を持った黒い人型が飛びだし私に向かって弾丸の如くのスピードで走ってくる


「ちっ!」


鎖を出して足止めしようとするが、接近した鎖から華麗に切り落とされる


右腕に魔力貯める


イメージするのは大きな単体の岩、尖った岩、頑丈な岩、それを複製する、複製、複製する、複製、複製、複製、複製!


黒い人型の剣の射程に入った瞬間に一歩後ろへ大きく飛ぶ


「ストーン!!」


真上から下に向けて何もない空中から岩を出現させる、雨の如く岩のマシンガンの如く凄まじいスピードで岩が地面にたたきつける


黒い人型が岩の雨に

潰され、潰され、潰され、黒い人型の残滓、黒いかけらを空中に向けて霧散した


が余韻に浸るどころか、行き着く暇もなくシャと剣と布が擦れる音が左から聞こえた、目だけ瞬時に向ける


そこには低く屈み抜刀の形を取っていたウィルフレッドがいた


いつの間に!


少しでも離れるためにもウィルフレッドが居ない方角へ一歩ステップを瞬時に取る


だが剣の間合いからは当然ながら逃れられない


だから!


両腕に魔力を瞬時に集め放つ


片方は曖昧でもいい、形になっていなくてもいい、魔力を十分に使い、威力だけ出せればいい


片方は制御するために形を、冷たさをイメージし続ける、それは雪国に存在する氷の塊、氷の隕石


「アイス!!」


両腕の魔力を、イメージしていたものを開放する


だが叫ぶと同時にウィルフレッドの剣が抜かれる


剣が凄まじい速度で迫りくる


その一撃は剣豪のように研ぎ澄まされた無駄のない一閃、こちらの命を刈り取るためだけに鍛えられた一閃


剣が胴体と接触する須臾の時間


その須臾の時間に魔術が現実に現れる、一つは空中に氷の塊として直径ほどの十数個の塊が、一つは魔術を放った本人でさえ制御が聞いていない風の魔術


片方の腕からは制御を失った風の魔術が形を持たずあたり一面を巻き込む形で出現した、誰も立っていられない、地面に足をつかせることを許さないほどの強風が


ウィルフレッドとルディアは風の魔術でお互い引き離される形で吹き飛ばされる、吹き飛ばされながらも目はギラリとウィルフレッドを捕らえる


発射!


が飛ばされながらもルディアは空中に出現させた氷の塊を飛ばす


自身の意思通りに氷の塊はウィルフレッを目掛けて弾丸の如く飛んでいく


風の威力が強く、ゴロゴロと二三転床を転がりながら体制を立て直すために床に強く爪を立てる


砂埃を立てながら、爪から血を出しながら、床に血の跡を描きながら体制を立て直す


氷の着弾する音を聞いた、着弾と同時に地面が揺れる、この空間が揺れる



これでまた数秒、数秒の世界




背筋に冷たいものが走る、背中側から丁度真後ろにいつの間にか復活していた剣の人型が剣が振り下ろしていた


緊急防壁!!


身体の内側にある魔力を身体全体を包み込むように外側に取り出す


瞬間的に人型の剣技が身体に叩き込まれ、身体の自由が奪われるほどの力で壁際まで飛ばされる


緊急防壁により痛みなどはないが地面に足が着かないために体制が整わない・・このまま壁に激突する


ぶつかってから考えればいいか


それよりも次の手を考えなきゃ・・・・・


飛ばされている途中、目の前に大きな人型がいきなり現れた、それは斧を持った人型だった


対応できなかった、魔力を練る隙など与えられずに問答無用に斧がお腹のあたり目掛けて振られる


パキンと無比時な音がなる、緊急防壁が粉々に散っていく


「っつ!」


お腹の中がぐちゃぐちゃになる、平行感覚なんてものはなくなり、ぐらりぐらりと先とは真逆の壁に吹っ飛ばされる


大きな、大きく鈍く気色が悪い音が室内に響き渡りながら、人形が壁に叩きつけられるようにルディアは壁に叩きつける


「かっは!------がぁ」


壁に叩きつけらると同時にお腹の中から込み上げてくるものがあり、止める気力もなく口から吐き出す


酸味が口の中に広がり、固形物がどしゃりと胃液と共に地面に広がる


そこに力なく壁からぐらりとルディアは落ち、粘着性が伴っている水の音を立てながらルディアは地面に倒れ伏せた


まだ・・・・・


休む暇を与えずにルディアの目の前には大きな大きな、先ほどルディアが唱えたものと同じぐらいの速度、大きさの炎の球体が迫ってきていた


迫りくるほどに熱量が凄まじく、肌がピリピリと焼けていく


詠唱の時間さえない、魔力でカバーしていくしかない


倒れながら地面に倒れながら右手を前に伸ばし魔術を発動させる


「・・・ウォール」


土の魔術を瞬時に発動し、目の前には四角形の大きな乱雑で分厚く、だが表面はぼこぼこな土の壁が出現する


土の壁は炎に負けじと一切削られずに炎を両端に流していった、炎の威力は凄まじく、倒れている状態でも吹き飛ばされそうになる


数秒後、炎が命を枯らし、魔力を使い果たして、消えた


ゆっくりと立ち上がる


お腹の中はぐらりぐらりと揺れ、左腕は激痛が走り、ぷらりと力なく垂れさがる


「んっぷーーーっぺ」


口から血がどろりと溢れ出る


どこかの臓器が傷ついてるんでしょうね‥‥きっと


既に床を汚していた自身の吐瀉物と混ざっていく、透明だったものがどんどんと赤黒くなっていく


どこもかしこも痛い、能力の使い過ぎか平衡感覚がなくなっている感じがする


壁に激突した際に打ち所が悪かったのか左腕は確実に折れている


額から血液がゆっくりと垂れていく、ドロリドロリと止めどなくゆっくりと垂れていく


何処かで切ったんでしょう・・・


ゆっくりと息を吸う 


まだ行けますね・・


全身が壊れなければ、動けなくならなければ、まだ戦える、動けるのであれば、四肢が動くのであれば、最後まで


目線を真っすぐに向ける


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