夢を見て空を見る少女14
ぱちりと夢から覚める、吸血鬼が夜中に目を覚ますのも可笑しな話だが私はもうこの生活に慣れてしまった
そんなことはどうでもいい
運命が悪い方向へ進んだ気がした
これまで長い事自身の能力と向き合ってきたが未だに慣れない、まだ潜在的な能力が残っていると感じられるぐらいに扱いきれていない、手を持て余している感がする
気がするだけだ・・・・感覚でしかない、だけど私が動かなければ悪い方向へと延々と続いていってしまう
「変えないと・・・・」
深紅の目を光り輝かしてベットから静かに降りる、隣で寝ている妹を起こさないようにゆっくりと
簡単な身支度を済ませ、愛刀のヒイロとアオゾラを手に取り、自室のベランダから自身の黒い羽根を大きく広げる
何が起きているのか分からないが、何をどうやって改変すればいいのか分からないが、ただまずは魔道具店に行こう
そう思い、ソフィアは真っ黒い翼でアルの魔道具店に飛び立った
ソフィアの妹はぽつりと一言、ベットの上から声を掛ける
「行ってらっしゃいお姉ちゃん」
青い目の少女はベットで一人、外に飛び立った姉を思い一言呟いた
私たちはウィルフレッドの魔術によって重力を弄られ一歩も動けない状況に直面していた、それに加えツバメは黒い人型に腕を綺麗に斬られ血が永遠と溢れ出していた
暗い室内の中で床に強制的に伏せられている状態で自身の能力をフルで使いウィルフレッドを探し出す
かつんかつんと何十本もの鎖が室内を縦横無尽に走り回る、壁に着いたのならばその瞬間ゴムボールのように進路を変更しまた進み始める
時間は掛からなかった
一本の鎖がぐいっと何かを掴んだ感覚を受け取った、空中に広がり続けていた楔が空中で何かに当たり巻き付いた音も聞こえた
「地面に撃ち落せ!」
力を込め、声を響かせる、空中に浮かんでいる何かを地面へと叩きつけるように鎖を操作した
良い音を立てながらその透明な何かは打ち付けられる、奥に突っ立っていたウィルフレッドが瞬時に消えた、幻影が消え、消えていた本体が鎖に巻かれている
鎖でウィルフレッドを撃ち落した後、重力がふっと軽くなり身体を動かせるようになった
「これで」
ツバメさんを応急処置できる・・・
と私は瞬時に立ち上がりツバメに視線を移す
「ルディア!ツバメよりも真ん前見なさい!」
ヒイロの声が室内に響く、脳内に響く
やらかした・・完全に頭から抜けた、まず把握しないといけなかった、黒い人影、二人がどこにいるのかを・・
ブンと斧を振るった音、それと同時に視界の端に高速で降り降ろされた剣の残像が見えた
間に合わない、ここで避けたとしても間合いからはどうあっても抜けられない
能力を使用したとしたも手から射出するために後ろから鎖で引っ張らない限り止められない
私はとっさに右手を突きだし「緊急防壁」という魔術を展開しようとした
しようとした・・・・しようとした・・・・しようとした?
あれ?だめだ、それはだめだ、だめなんだ、やってはいけない選択だ、取り返しがつかない選択だ
嫌な結末を辿る気がした、悲しい結末を辿る気がした、夢を見れずに、私が欲した青空が手に入らないような気がした
死に近いためか、時間が長く感じられた、長く長く、一秒という時間が長く長くそれが永遠に感じられるぐらいに延ばされたようだった
その中で何度も何度も考えた
辿れるように上を向けるように、そんな未来を迎えられるように
不意に心の中に暗いどす暗い感覚が流れてくる、それは言わば経験だった、どこかで体感した経験だった
自身の能力 「鉄の鎖を生成、自由自在に操る能力」
それはまだ真価を発揮していない、気がした
いつもいつも手から鎖を出していたが、考えてみれば拘る必要なんてないんですね・・・魔術に関しても手を介してだが空中で出ているではないか
だったら自身の能力だって空中から、何もない空中から鎖を出せるのではないのだろうか
やってみないと分からない、失敗したら次がないけど・・・
やる前から失敗することなんて考えてどうするんですか!
失敗して嫌なことを考えるぐらいだったら成功した時のことを考えよう!失敗した時のことを考えてどうする!
だから私は失敗なんて絶対しない!
突き出した右腕が、右手の甲に幾何学的な模様が、いくつもの線が光り輝きながら表れた
感覚を研ぎ澄ます、能力の幅を、イメージで増やす
空中で何もない空間に手を伸ばし何かを掴むイメージだ、元々出来なかったことをするという事はこういう事なんだろう
グッと手のひらで掴み取る
確証なんてもの一切なかった、イメージだって曖昧だった
だけど私にはできる!
掴み取り、感覚を自分の物にする
手の甲に浮かび上がっていた幾何学模様の光の強さが増す、眩しい訳ではない、だが力強く、火力が上がったかのように光が増した
装填完了、射出準備完了
なんだ、やっぱりできるじゃないですか
「鎖!武器を止めて!」
声を発すると同時に空中の至る所から鎖が高速で光の速さで武器を縛り上げ固定する
それと同時に黒い人影ごと動けないように一本、一本の鎖で巻き付け縛り上げ、楔が地面に突き刺さる
不意打ちであったためか、予想外の所から鎖が出現したためか黒い人影達も反応できなかったようだ
別段大きな一歩でもない、小さく小さ過ぎる一歩なのかもしれないが能力が進化した
世界的に見た時間はたったの一秒なのかもしれないが今までの生きてきたなかで一番長い一秒だと感じられた
至る所から汗が出てくる
「はぁーーーーーー」
それと同時に大きな息が口から出てきた
心臓がバクバクと鳴り止まない、この室内で全員に聞こえるぐらいに響いているのではないかと感じるほどに心臓は鳴り止まなかった
数十秒たっぷりと息を整えると次第に思考がクリアになっていく
ルディアは瞬時に見渡す
「ツバメさんは!?」
「はいはい、大丈夫ですよ〜」
奥からやつれた声が聞こえてきた
「血はごっそり出ちゃってるけど腕が繋がっただけよしとしなさいよ」
「ありがとうございます〜、本当に感謝しきれません〜」
ツバメは気だるそうに返事をする
「おぉ、えらいえらい、貴方って感謝の言葉なんて物言えたのね?」
「言えますよ!?ヒイロさんって私の事をなんだと思ってるんですか」
「鳥」
「なんちゅうこと言うんですか!?なんちゅう事をいう言うんですか!」
なにか心の中があったかい気持ちで溢れてくる、まだであって間もない人たちではあるが死んでは欲しくはない部類の人間だと認識した
あぁオーローンさんとシャルルさんにどこかしら似ているんだろう
ツバメがこちらに向き直る
「ルディアさん怪我とかはありませんか?」
「えぇ多分大丈夫だと思いますよ・・・むしろツバメさんの方こそ大丈夫なんですか?」
「そこは心配しないで頂戴、ツバメ自身に関しては私はどうも思わないけど、人が怪我するのはあまりいい思いしないからね」
「一言余計なんですよ、もっと私に関心持ってくださいよ」
ヒイロがツバメの腕をバシバシと叩く
「ほら?この通り問題ないわよ」
「叩く必要ありましたか!?」
「ないんじゃない?」
「なーんで叩いた本人が疑問符を浮かべてるんですか、全くもう・・・感謝はしてます」
二人のやり取りに少しだけ顔がにやけてしまう
「はいはい、そんなことよりウィルフレッドは?」
「・・・・動きはないですね・・・気絶してるんじゃないんでしょうか」
透明になっていたウィルフレッドを地面にたたきつけから動きはない、鎖は言わば私の一部でできている、意識を手放せばそれはただの鉄の鎖ではあるが、意識を注いでいればある程度の鎖の動向は分かる
そのため黒い人型、二体が何もせずに佇んでいるのも理解している
能力が進化したからでしょうか、黒い人影は一歩も動けないようですね・・・というか一歩も動かしませんし
「さて、これからどうしますかね・・・」
「話を聞くにしてもまた暴れられそうなのよね・・・アルのところかしら」
「あぁそれがいいかもですね、だったらさっさと運んじゃったほうがいいですね、ルディアさん、鎖ってもっと頑丈に巻くことできませんか?えーとほらミイラみたいに」
ツバメが言葉を切った直後にパンっという何かがはじけ飛んだ音がした、それと同時に黒い人型たちの感覚も消える
三人とも瞬時に戦闘態勢になったが、特段何も起こらずに時間が数秒過ぎ去る
静かな空間において自身の心臓の音だけが耳に入ってくる
何もなく、音もなく、三人の息遣いだけが時を重ねていった
「気絶して、ようやく魔術が解除されたのね」
ヒイロが戦闘態勢を解いて、肩の力を抜く、ツバメとルディアもほぼ同時に構えていた杖と剣を下げる
「魔術でいいんですかね?私、あんな魔術というか黒い化け物やら黒い人型とか初めて見ましたよ?」
「知らないわよ、そこんところを含めて聞かないといけないんでしょう?」
「そうですね・・・もう一度聞きますが、ルディアさんいけますか?」
「・・できますよ、じゃあアルさんの家に運ぶでいいんですね?」
二人ともこくんと頷く
やだなぁ、私を殺しに来ていた人をアルさんの家に、私が現状寝泊まりさせてもらっているところに連れ込むのは・・・・
今日は疲れた、帰ってゆっくりとお湯につかりたいな
など無駄なことを考えながらとことこと歩いてウィルフレッドの近くに歩いていく
装填完了 射出準備完了 さてとお腹がすきましたね、ほんと今日は疲れた
射出っと!
その鎖を出そうとしたところでウィルフレッドの目がギラリと開いていることに気づいた
「誰が幕引きなんて言いました?」
ボソリと聞こえた
「ヒイロさん!ツバメさん!」
危機的状況を仲間に知られる、まだ何かやるつもりだ
バッと振り返る
ツバメとヒイロは気づいていなかった、どこから現れたのか二人の背後には先ほど消えたばかりの黒い人影が迫っていた
「後ろ!!」
大声で叫ぶ!
反応して欲しい、どうにかして欲しい、どうにかしなければ!
能力は間に合うのだろうか、何もない空中に鎖を射出する、精度があまりいいわけではない、だがやってみないと分からない
「させるわーけないじゃないですか」
鎖で縛っていたウィルフレッドがむくりと立ち上がり、鎖をぼろぼろと腐食させながら私に突っ込んできた
・・・・・・・・・・・・・私なんてどうでもいい
黒い人影に狙いを定める、距離感を掴み、失敗しないように射出する
空中にでた鎖は黒い人影を追う
がすでに気づいていた黒い人影の一人が鎖を切り伏せる
これ以上手がない、魔術で打開できる状況ではない
パッともう一度目の前に目を向ける
目の前にはウィルフレッドがいた
ウィルフレッドの手にはいつの間にか剣を握っており、その剣は頭上高く構えられて振り上げられていた
緊急防壁!
魔術を展開する、その魔術はしっかりと機能する、身体全体に薄い膜のような壁が張られた
だがその壁はウィルフレッドの剣によって無比時に割られ、ゴムボールのようにはじけ飛んだ
「………つ」
飛ばされながらちらりと視界の隅に移りこんだ、壁にもたれ掛かって、うなだれているツバメさんとヒイロさんが
何も変わらない、変えられない
止まらずに止められずに壁に打ち付けられる、体中に残っていた空気がすべて押し出される
「ぐふっが」
壁に打ち付けられた後に力なく床にぐったりと倒れこむ
痛みで頭がスッキリした、駄目ですね、流石に気を抜き過ぎました、三人じゃ勝てませんね
ツバメさんと話合いましたがこの黒い化け物たち召喚魔術の類の何かだとは思っていたんですが・・・・違いますね
詠唱が無く、魔力の流れに変わりがない・・・となると私と同じで能力ですか・・
全く掴みようがない、デメリットが何なのかすら分からない
ただ出し入れが自由であり、形も自由、潜在的な能力、筋力、や戦闘スキルなども自由ときたものです
ゆっくりと立ち上がる
さてと私の限界は何処まで何でしょうね?試してみるのもいいかもしれません
視界の端、どちらかがゆっくりと動いたような気がした、どちらかには意識があることを祈ろう
「ツバメさーん起きていますか!」
返事を聞いている暇はない、聞いていて欲しいですが・・・
「ここから逃げて応援を呼んできてください!私達三人じゃ勝てないです決定打があまりにも薄いだから助けを・・応援を呼んできてください!」
返事はやはりない
これ以上人に迷惑なんてもの掛けたくないのですが、ツバメさんとヒイロさんを助けるには助けを求めたほうがいいですね・・
「すいませんね、お待たせしましたウィルフレッドさん、なぜ手を出してこなかったか不思議で溜まりませんがお気遣いに感謝いたしますね」
「おーやおや、ふふ、いえいえ、少女には優しくするのが男としての務めですとも」
「それじゃあこのままあの二人の事を見逃してもらってもいいですかねー」
「?別に構いませんよ、もとより貴方だけが私どもの目的でありますので・・・ただあそこの夢たちが逃すとは思いませんが・・」
あそこの夢?
「夢って?黒い人型の事を指しているんですか?」
ウィルフレッドはにっこりと笑い私の言葉には返事をしなかった
ま、どうでもいいんですよ、返事をされても否定されても
ただただぶっ飛ばせばいいだけですし
私は詠唱を始める、空気中に漂っている魔力を存分に使い、杖を用いて魔力効率を最大限、最高率で練っていく
魔術において詠唱は必要だが完全に絶対的に必要なわけではない、詠唱というものは本来、魔術をコントロールするものであり、かつ魔力量を効率よく使うために行う行為であり
そもそもコントロールを強引に行いかつ魔力量の消費に目をつむれば詠唱というものは必要なくなる
さてと、もう撃てる、これを撃ってしまえば、地獄が始まるんだろうなぁ
「ふぅーーーーー」
深く息を整える、緊張によって高鳴っている心臓を強引に押さえつける
これから痛い思いをするだろう
これからお腹がひっくり返る思いをすることもあるだろう
これから血が、臓物が溢れ出ることもあるだろう
ただまぁ巻き込んだ人、善人の血を見るよりかは私が血を流した方が‥‥
怖い・・・・・痛いのは嫌だ・・・・・・・・・・・死ぬのは相変わらずに直視ができない‥‥
・・
・
さてと覚悟はできました
さぁ開戦の狼煙を上げましょうか
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