夢を見ず空を見ずただ一人だけの少女

目の前にこの夜に似合わないメイド服が飛び込む それと同時にキンと金属が重なり合い高い音が鳴り響いた


瞬間移動してきたヒイロが斧の一撃をいつの間にか持っていた剣で悠々と私に向かってきていた剣を弾き飛ばす


剣はぶれて私に届くことが無かった


同時に私のすぐ真横から風の塊が通り抜ける、剣を振るった人型が風の塊の勢いに負け一歩、二歩、三歩と後退した


ツバメが右手を突き出していた、彼女が魔術を唱えて人型を後退させてくれたようだった


「全く、今回だけは特別なんだからね」


「えぇーヒイロさんはケチですね」


二人は緊張感無く会話を交わす


「すいません、ヒイロさん、ツバメさん助かりました」


「いいのよ、気にしなくて、一人で耐えてくれたんだから」


「そうですよー、気にしないでください」


ツバメとヒイロが私の前に立っていた、人型のプレッシャーにも負けずに、屈せずにいつも通りの態度で立っていた


ツバメをちらりと見る、切り落とされたツバメの腕はしっかりとそこにあったのだ、あるべき場所にツバメの腕はあった


何故と思った


回復魔術に関しても怪我の具合から見るに時間はもう少しだけ掛かるだろう


その疑問にヒイロは答える


「私の能力よ、ツバメの腕をくっ付けたのは・・だから安心しなさい、貴方にもやってあげる・・・それまで一人で耐えなさいツバメ」


「人使いが荒いですね…といいたいところなんですがこの状況、ルディアさんの惨状を引き起こしたのは私ですし‥‥少しの間耐えて見せますよ」



そういうとツバメは跳ね、黒い人型のプレッシャーに負けずに果敢にスピードをだして飛んで行った


大丈夫だろうかと思った、私も行こうと思った


だが痛みに震える膝を押さえつけ何とか立とうとするところ肩に手を当てられた


肩に手を置かれただけで私は立てなかった


力が入らなかった、入れられなかった


それと同時に暖かな物が私の肩、ヒイロが触れている部分から流れ込んでくる


「少しだけ静観してなさい・・・腕までは直す時間は無いけれどもお腹をふさぐぐらいはやってあげる」


「あ、ありがとうございます」


掠れた声でお礼をする


それと同時に暖かな力がヒイロの手から流れ込んでいるのが分かった、お腹がじーんと暖かな力に飲まれていく、広がっている


ヒイロさんは中々多彩なんですね…


づづっと塞がるはずがなかったお腹が徐々に回復していった


一分、二分、三分と時間が過ぎていく


お腹を塞いだ瞬間に動きださないと、ツバメさんが持たない…早くしないと…


時間だけが過ぎていった





大方傷が塞がった所、あと少しで動きだせるという所で重く鈍い音が響き渡った


壁に誰かが埋まる、ぼろり、ぼろりと壁が崩れていく


いやいやながら、首を動かし埋まったものに目を向ける


暗すぎてぱっと見ではわからなかったが壁に埋まったものは人のように思えた


ぺたりと頬に何かが垂れる、それは真っ赤な水滴だった・・・


黒い人型は血はでない


だったらウィルフレッド・・・いえ、私が今もなお縛っている私の感覚が、能力が縛り付けていることを脳内が理解している


だったら黒い人型・・・・


何度も何度も堂々巡りの思考を重ねる、目の前の現実を受け入れたくないから


壁にめり込んだ人間の腕はたらりと力なく垂れ下がり、体が壁からゆっくりと離れ地面へとぐしゃりと音を立てながら落ちる


まだ少しでも命が現世に留まっているなら、魂がここにあるのならば・・私とヒイロさんでどうにかできるはず


「あ‥‥‥‥‥」


気づいた、気づいてしまった


黒い人型、斧を持っているほうがボールみたいな球体を持っているものが見えた


何を?


その球体はだらりだらりと何かを流していた


それは真っ赤に見えた


床に真っ赤な水溜りが出来ていった


誰の・・・いやだ見たくはなかった


だが見るしかなかった、ぐちゃりと力なく転がった死体に目を向ける


その壁に埋まっていた人だったものは首から上が無く、断面からは勢いよく血しぶきが吹いていた


断面は赤く、それは噴水のようだった


人型は持っているボールをこちらに向けて乱雑に投げつけてきた


見たくなかった、どんなものなのか、投げられたものが何なのか分かったから


だけど目は無意識にも投げられたものに向かってしまう


水が交わった生肉が地面にたたきつけられる音が響く、ごろりごろりと足元に転がってきた


惨たらしかった、目がギラリと、口も驚愕のあまり大きく開いている、首から下からは脳内に残っていた血がすべて出ていこうと唯一の出口から出ていこうと止めどなく血が溢れだしていった


肩に乗っていた手がぎゅうと力がこもる


どうしようもなかった、魂がすでにない、即死だったのだろう


任せたのが悪かった?私が致命傷を食らってしまったのがいけなかった?それとも私がここに連れてきたのが間違いだった


悶々と永遠と思考がループする


思考を繰り返そうが、たらればを何度考えようが行き着く先は私が原因だ


私が夢想教に狙われているのが原因なんだ



私がツバメさんを殺してしまった・‥‥敵の能力を誤った、私がツバメさんの事を止めていれば!!!!


ぐつぐつと怒りが湧いてくる、人間を殺して楽しいか?と、なぜ私に絡むのかと・・・・だったら私だけを殺せばいいじゃないか!!この国の人達を!!アルさんを何故巻き込む!!


「ウィルフレッド!!!」


私でも出したことがない声が腹の底から出た、それと同時に私は走り出していた、腹は塞がった、だったら戦闘に戻れる、片腕が死んでしまっていても構わない、どちらか片方が残っていれば・・


瞬時、私の真横に風が流れる


誰かが私の真横を通り抜けた、攻撃されると思いとっさに防御するが何も起こらない


鋭い音が響く、閃光、剣の速度があまりにも早かったためか一瞬室内が光った


何が起こったのか瞬時に理解した


「ヒイロさん!!」


名を呼ぶ、もうすでに聞こえていないかもしれないが一縷の希望を乗せて彼女の名前を叫ぶ


剣を持った黒い人型がヒイロの近くに佇んでいる


剣の血を払うように横にぴっと鋭く降る


ヒイロの血が綺麗に空中を舞った




ばっと振り返るそこには首がはじけ飛ぶ寸前、言葉通り首一枚で繋がったヒイロがばたりと倒れていた


「・・・・・・・・かは・・か・・っす」


強引に息を吸おうとするが首から切られた位置から空気が漏れていく、血液もだくだくと零れていく


黒い人型、剣を持った人型は興味がないかの如く、無慈悲に剣をヒイロの胸に向けて突き下ろす、ぐりぐりと執拗にさっさと絶命するように


突き下ろした個所から当たり前だが血が溢れていた


私は見るしかなかった、動けなかった


じーっと事の顛末を追うしかなかった、ここでヒイロのそばにいる黒い人型をどかしたところで状況が好転するわけではないと頭で考えてしまった


いや言い訳ですね


足がすくんだ、動けなかった


見るしかなかった、動けなかった


身体が固まってしまった 動けなかった


ヒイロはこちらに向けて手を伸ばす


口からは血が溢れ、首からも血が溢れ、背中からは剣が生えているにも関わらず、不敵な笑みを浮かべる


絶叫する所をぐっと抑え、ただただ歪んだ笑みを浮かべた


ヒイロの手が光りだす、真っすぐと私に向けて光っていた


(ただ負けるのは嫌だから、置き土産よ)


とヒイロの笑みはそのように意図していたように感じられた


そのすぐ後に黒い人型がしぶとく生き残っているヒイロの首を豪快に跳ね飛ばす


ヒイロの首からは尋常じゃないぐらいの血が溢れ出す、どぷりどぷりと命の源が溢れ出していく


あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、嫌だ嫌だ嫌だ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ


なんで?なんで?私が関わったから死んだ?私が殺した?


床には2人の死体が転がっている、どちらも首がなく床には血が撒き散らされている


動いて、動いて、動いて


あぁぁぁぁ!


魔力を身体中に駆け巡られせる、無理矢理に身体中の魔力を回し続ける


腕がはち切れそうになる、頭が真っ白になっていく


殺す、殺す、消し飛ばす


今まで能力の限界というものが見えなかったが、今なら何故か手に取る様にわかる


能力を限界まで回していく、腕に、身体に、至る所に楔を装填していく


能力の解釈を広げていく


だがある一点、能力がガクンと止まる、これ以上先には行かせない、そう言ってるように感じられた


セーフティなんてものあるんですね………


セーフティなんてもの、越してしまえ


身体に電流のような、身体がひび割れていくような線が浮き出る、それは言葉通りのように感じられた


動く度に身体が千切れる痛みが全身に回る


「だからどうしたんですか」


さぁ、私の目の前から消えたください、悲鳴を上げながら、この世に生まれたことを後悔させます、私が手を下します



あぁ頭が冴えている、戦闘を終えたからだろうか?終わったためだろうか?・・・何がきっかけだったかは分からないがすべての記憶が戻った・・・・・・・


は、はっ、ふふふ、あっは


気分がいい、気分が悪い、後悔しかない、後悔なんて無い、勝手に死んだんだから、私が殺したんだから


頬についたウィルフレッドの血を払う


汚い血だ


空中には無惨に殺され、楔で吊るされているウィルフレッドがいた


ウィルフレッドはぶらりと力なく魂なく空中に浮かんでいた


ウィルフレッドに突き刺さっている楔を動かす


ウィルフレッドが形を保っているだけで吐き気を催す、視界に入るだけで嫌悪感が湧いてくる


鎖を動かし、トマトの様に柔らかく、ぐちゃぐちゃに捻り潰していく


ウィルフレッドに残っていた血液がドロドロと垂れていった


さ…て


ルディアは二人の死体を目に入れる


どうしましょうか…


あ……あぁ


二人の死体を鎖で丁寧に引き寄せる


ルディアはそのあまりの惨状の酷さに膝から崩れ落ちる、力が抜けた


ごめんなさい、ごめんなさい、そう心の中で呟きながら二人の体に手を触れる


冷たかった、魂が完全に抜け、血液が冷え切り、冷たかった、何時間も放置されていて冷え切っていた


目からぽろり、ぽろりと涙が溢れ出した、止めどなく、止めどなく


オーローンさん、シャルルさん、ヒイロさん、ツバメさん………ごめんなさい、ごめんなさい


全ては私が蒔いた種


私が殺した、私が殺したんだ…




魔力の流れを感じる、ある一点に向けて微かに、ゆっくりと微弱な流れを感じ取った




はっはっは、まだ戦闘があるんですか


ゆらりと立ち上がる


もう誰にも手伝ってもらうわけには行かない、自分自身でこの戦闘に蹴りを付ける


400年前から続いた夢想教との蹴りを一人でつける


もう一度能力をフル稼働するために意識する、セーフティを外し、能力の限界値を超えて、身体に幾つもの光り輝く線を浮かび上がらせる


数時間使って分かった


身体の線、浮かび上がっている線は命の灯火だ


その命の灯火を使い、現在の能力を使っている


それに加えて私の腕は楔に飲まれ、楔の先端がいくつも生えてきていた、動かすだけで肉に刺さり、肉が裂け、肉を抉る、隙間からは血液が至るところから溢れ出る


通常の人ならば叫ぶであろうところをルディアは気にしない


死ぬこと以外気にしない


心が死んだ、自身に対する心が死んでしまった


右腕は真っ赤に染まっていた


だからどうした?



微弱な魔力の道を辿り、私はまた暗闇に歩き出す


もう、一人で十分だ


犠牲は私だけで十分だ…





彼女は一人で突き進んでいくだろう


これから誰の手も借りずに、永遠と闇の中を彷徨い続ける、心が壊れてしまっても、身体が壊れようとも自身の目的のために一人で走り続けるだろう


彼女は覚醒をした


見間違えるほどに彼女は最強になった


彼女はもう誰にも頼らず、彼女は一人で今回の目的を完遂するだろう


その程度には彼女は強くなった


彼女は夢を見ない少女となった、幸せな夢は見ない


彼女はもう空を見ないだろう、だってオーローンもシャルルもいないんだから


だって自身のせいでまた人を殺してしまったのだから


彼女は目的のために突き進む


夢を見ずに空も見ずにただただ目標、目的を叶えるために突き進むだけだ


心を捨てて・‥‥

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