夢を見て空を見る少女17

黒い人型の相手はヒイロさんツバメんさんで斧の人型を、もう片方の黒い人型、剣を持った人型はソフィアさんが二刀の剣を持って圧倒的な強さによって抑えてくれている


私はその三人が開けてくれた道を歩く


杖を持ち直す


目の前にはウィルフレッドがいる


ツバメさんかからは風の魔術が聞こえてくる、ヒイロさんは短剣でタイミング良く斧をはじく音が聞こえる、ソフィアさんは二本の剣を使い一度も相手に攻撃を許さないように立ちまわっている


とんとんと歩いて近づく


魔力を練り上げる、先の戦いで大型の魔術を何度か出したがそれでも私の魔力は余裕を持っている


回復魔術を使い、左腕の負傷は治した、完全に治っているわけではないため動かすたびに痛みが身体に走るが誤差の範囲、気にしなければいい


まだまだ戦える


服に豪快に血がこべりついているが、止血はできていて既に一滴たりとも零れていない


鎖も、私の能力もまだ余力はある


「ウィルフレッドさん、降参っていう手はありませんか?」


最後の慈悲で聞いておく、どーせろくな返答は帰ってこないだろうでしょうけど・・


「何を言うんですか!?これからが楽しいところじゃないですか!?」


「そうですか」


ウィルフレッドとの魔術の応戦が始まった、ウィルフレッドが火の魔術を放ってきたのならば、水の魔術を放ち、土の魔術、土で作られた槍を放ってきたのならば土で作った壁で防ぐ、水の魔術を放ってきたのならば、火の魔術を使用して水を瞬時に蒸発させる


全ての魔術を防ぎ、消し飛ばし、消し去る


そんな攻防を何回か続けた後にルディアの頭には一つの考えが思い浮かぶ、ウィルフレッドの魔術、技術を受けて思い浮かんだ、一つの考え


瞬時に右腕に魔力を集める、イメージをするのは大きな太陽な火の玉、全てを焼き焦がす、全てを抉り削る火の魔球


魔力で強引に押さえつけ魔術を形にする、相手にはどのような魔術が飛んでくるかはわかってしまうが魔力量を多少なりとも抑えるためにも一節の詠唱をする


「ファイヤ!」


杖の先端からは、魔術を唱えると同時に空間に巨大な火の球体が出現し、ウィルフレッドに向かい弾丸の如く飛んでいく


「その魔術は見ましたよぉ~」


飄々とウィルフレッドはその球体を一本の剣で真っ二つに切り伏せられる


次の手を瞬時に組み立てながら、私はその様子をじっくりと眺める


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ここからですね、息次ぐ暇なんて与えませんよ?


斬られたと同時に魔術を展開していく、右手に魔力が集まる


イメージするのは砲弾、その中には大きな水が、魔力によって形を保たせている砲弾のような水が装填されている、削るわけでもなく、焼き焦がすわけでもない、ただただ質量を持った水の塊


これまた強引に魔力で押さえつける、形にする、イメージを詠唱ではなく魔力で補う


一の単位に満たないほどに早い秒数で魔術を組み立て放つ


「キャノンボール・ウォーター!」


右腕からとてつもない水量が押し出される、大きな水の塊は一切水をこぼすことはなくウィルフレッドに向かっていく、炎の球体と同様の速さ、弾速の速さでウィルフレッドに向かっていく


と同時に私もウィルフレッドに向かって走りだす


着弾する前にウィルフレッドが先と同じように切り伏せる、切り伏せられたことによってあたり一面に、ウィルフレッドの足元周辺に大量の水が広がる


叩き込まれ使い慣れた魔術を走りながら展開する、小さな風の刃を一つ自身の手のひらに向けて放つ、風は小さな傷を作った後に空中に霧散した


傷跡からはぽろりぽろりと微小ながらも小さく血液が零れてくる


ウィルフレッドに向かって走りながら、その垂れた血液を触媒に使い魔術を展開する


吸血鬼が好んで使うらしい血液の魔術、私の仲間だったシャルルさんの魔術・・・


頭で考えるのではなく、感覚で魔術を繰り出せるほどにコントロールなどは身体に染み込んでいる


だから余った脳みそで思考する、イメージを重ねる、何重にも何重にも重ねて威力を上げ続ける、上げて上げて、脳みそがはち切れるほどに重ねる


「ブラッド・ソード」


魔力と血液を使い一振りの剣を作成する、その剣は赤黒くされど、どす黒いわけではなく、綺麗な水のような透き通りを見せた赤黒さを持った、綺麗な一振りの剣であった


この魔術は自身の魔量の質、魔術に対する技量、魔力のコントロールによって剣の質が変わってくる


私のはまだ甘い、木や氷などは斬ることができるが岩までは斬り伏せることはできない


シャルルさんが作ったブラッド・ソードならば岩は簡単に斬れるでしょうね・・・・・・・・・




ウィルフレッドの意識が一瞬、血液の剣に向けられる


意識が揺らいだ・・・・・・・・・その隙だけで十分です


走りながらあたり一面に広がった水の手前で鎖を左手から射出し水溜りが広がっている地面に突き刺す


別の、イメージしていた魔術を発動させる、重ね重ねた魔術


「雷撃!」


指向性を持たない電気を鎖で強引に大量に広がっている水溜りに電気を流し込む


電機は瞬時に広がり、パン!と大きな音を立てながら、ウィルフレッドを貫く、水は蒸発し水蒸気がほわり、ほわりと空中に浮かんでいる


ウィルフレッドはしびれて動けなくなっている、ウィルフレッドの片腕は雷撃を食らったためか不自然に膨れんでいる


筋肉が切れたんでしょうね・・・


動けないことを確認しながら私はウィルフレッドに詰め寄る、一歩一歩、加速していく


だがいつの間にか、視界の端に黒い人型がいた


一回消滅させて、自身の近くに再召喚させましたか、でも斬るしかない!


私は模倣する、以前見た、吸血鬼の剣捌きを、彼女の・・・シャルルの剣の動作を!


黒い人型は尋常じゃない速さで間に入り剣を防ごうとするために防御態勢を取った


それがどうした!私は止まらない!彼女も!私の仲間だった彼女はこんな事で止まらない!


「詰まんねぇことをするんじゃねえ!」


瞬間にソフィアが黒い人型を全力で蹴とばす、黒い人型は壁に打ち付けられ跡形もなく黒い粒子を飛ばしながら散っていく


ソフィアは黒い自身の羽を伸ばし空中に浮かんだ後、新しく出現した黒い人型に刃を下す


飛び立つ前の一瞬だけソフィアと目線が合う


やってこい、そんな風に言ってるように感じられた


ありがとうございます、ソフィアさん


私は全力を込める、一から模倣できるわけでもない、御座なりな部分はもちろんあるだろう、だけど心があれば!


ウィルフレッドは目だけを動かしギラリとこちらを睨んでくるが、そんなもので私は止まらない


ウィルフレッドに剣を、シャルルの剣筋を真似て振り下ろす


ブンと良い音が鳴り、風をも斬り、空気すらも斬りながらウィルフレッドに迫る


膨れ上がった腕の付け根に剣の切っ先が触れ、豆腐を斬るかの如くスッと刃が通り、切り落とした


腕がぽちゃんという音とともにと重力に従って地面に落ちる


切り落とした断面から血が止めどなく噴水の如く溢れ出る、血液と床に広がっていた水と合わさり瞬時に広がっていく


もう一撃!


ステップを踏み、くるりと周り、勢いを付けながら剣を振るうが甲高い音が響きわたる


剣先をガチリと止められる


瞬時に剣先を見る


そこには真っ黒であり、形を保っていない流動している獣のような手が剣先を抑えていた、黒い手と剣先が拮抗し、オレンジ色の火花が飛び散る


「・・・・・ちっ」


瞬時に剣の形状を解除する、剣は液状になり、足元の水と同化していく


黒い流動している獣のような手は掴んでいたものがなくなり、自由になった黒い手が暴れだす


それは鞭のように、早く鋭く地面を空間を抉り取る


私はそれらから距離を取る、私の事を狙っていなかったために避けながら後ろに下がるのは苦労しなかった



ゆっくりと息を整えながら状況を把握する


未だにソフィアと剣を持った人型は剣を打ち合っており、ツバメとヒイロは斧の人型を相手にしている


じゃあ誰が?なんて疑問符は浮かばない


目の前の人物、先まで敵対していた人物に目を向ける


ウィルフレッドの身体には幾何学模様が浮かび上がり青白く光っていた、それに加え落としたはずの腕の断面からは流動する黒い腕が伸びていた


ゆらりゆらりと腕が揺れる


生き物のように、あたり一面を食らわんとするように、全てを飲み込む、食らいつくす龍のように


腕はウィルフレッドを徐々に飲み込んでいく、ウィルフレッドだった部分が徐々に黒い物が侵食していく


ウィルフッドの目は苦しそうに歪んでいる、だが口元は汚らしく涎が垂れているが笑っていた


笑っている、自身の身体が得体のしれないものに置換されて行っているのに関わらずに笑っていた


「何に笑っているんですかね・・」


「あぁあぁ、一段階上の位に進めるんです、その喜ばしさが貴方には分からないんですか?あぁあぁ最高ですね」


同化?をしている影響だろうか、声が二重になって聞こえてくる


辛そうに重々しく声を絞り出していたが、その裏には幸せそうな感情が乗っていた


慈悲なんてものはありませんし、待つ道理なんて物もありませんね


「そうですか・・・貴方の変身シーンは余り興味がないんですよね・・ウィルフレッドさん、一つだけ進言しときます」


ウィルフレッドからの返答はない、この話している時間ですら侵食は進んでいく


「上っ面の技術だけじゃ私は殺せませんよ?てか殺せるわけないじゃないですか」


ルディアは言葉を続ける


「貴方の能力は良くわかりませんが・・借りていますよね?技術において・・誰からかは分かりませんが」


そう、ウィルフレッドからは何も感じなかった、魔術を斬られたとて、一体一で対面した時でさえ、何にも感じなかった、想いという名のブーストが・・・・技術に対しての感情が


技術を見せつけられても、魔術を見せつけられても、それは模倣した何かのように感じられた、要するに空っぽだった、上っ面だけの技術


だからソフィアに黒い人型を任せた、あれは本物だった


剣技においても戦闘スタイルにおいてもすべてが本物であり、対面するだけで、居るだけで身体が竦む、身体が震える・・


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


不気味な声が聞こえた


ウィルフレッドは黒い物に全身飲み込まれ、大きな咆哮を室内に響かせる


彼の身体は既に正に獣だった、それは禍々しく、黒く流動していた、人の姿を捨て今はただ四足歩行の獣であった


「威嚇をされたとて、獣になろうとて、私はあなたに対しては何も感じませんし、やられることはありませんよ」


きっぱりとさっぱりと言い切る


傍から見たら彼女の格好はボロボロである、服装は所々穴が開いていたり、血がべっとりとついていたりと悲惨な格好だがそれでもなお彼女は二本足で立っている


誰に支えられるわけでもなく、ただ一人で立っている


獣の圧力に負けずに、ただ一人で少女は立っていた


「最後です、手を引いてください、これ以上私たちに被害を・・・・私たちに手を出さないのであればこれ以上の事はしません」


「らぁあああああああああああああああ!がぁあああああああ!」


考える素振りすら見せずにただただ瞬間的に獣の咆哮を被せてくる


理性なんてものはあるのだろうか?人としての脳みそは残っているのだろうか?


そんな様子すら見えずに全てが獣に置換されているように感じられた


・・・・・・・・・・・ふぅ


右手の甲に幾何学模様が浮かぶ、その幾何学模様は爛々と青白く光り始める


能力が私の事を鼓舞してくれているようだ、不思議と力が湧いてくる、以前まで出来なかったことが出来るようになっている




空中、ウィルフレッドを囲うように鎖を配置する


装填!発射!


心の中の掛け声とともに何もなかった空中に現れ化け物と化したウィルフレッドの周りだけを囲うようにして、ギリギリギリと金属が重なりあいお互いを削りながら勢いよく展開していく


鎖は一本たりとも一切ウィルフレッドに向かない、ウィルフレッドを避けるように鎖の世界を作り出していく


化け物であったウィルフレッドを囲い覆う鎖の球体がガチリと最後の一本の鎖が止まり完成する


黒い化け物となったウィルフレッドは鎖の世界で暴れまわり、鎖を断ち切ろうと攻撃をくり出す、くり出しくり出し続ける


鎖は引き千切られ、壊され、破壊する


がそのたびに鎖は補充され、補充され続け、綻びを見せないように、鎖という小さな世界に留まって貰うために能力を使用し、隙間を見せないでいる



今までは感じなかったが、いつの間にか感じられるようになっていた


鎖は私の一部であると・・鎖は手であり足であり聴覚であり、目であった


鎖の球体に入っているウィルフレッドの動きは手に取るように分かる


捕らえました、もう負けません


詠唱を始める


時間はあります、猶予もあります、最高の魔術を見せつけて上げましょう


「暗き世界にて、世界を創る、汝は血の世界の王なり、汝は全てを統べる王なり、汝は生と死を超えた者なり、汝は生と死の狭間に存在するものなり、汝は不死者の王なり、ならば血の世界の王は汝なり、血は民である

ならば、民は王に従う、民は王に従わせる、王は貴様なり、王は自分なり!王は自分自身なり!」


声を紡いでいくと魔力が集まる、詠唱をしていくと頭に直接イメージが流れ込んでくる、それは強制的に、言葉を紡いでいくごとに強制的に形になっていく


操り人形の如く、思考が魔術の一点に強制的に注がれる


形なかったものが形になっていく


歪だった流れが形になっていく


私は気合を入れ、かつて彼女が・・・シャルルが唱えた姿を模しながら最後の一節を唱える


「さぁ我が意志に従いたまえ!ブラッドワールド!」


鎖の世界の中にある血だまりが生物の如く動き出す、その血はウィルフレッドを中心として血が壁を・・一つの小さな血の世界を作成していく


血の壁なだけで触れるだけならばただの血です、血のカーテンができているだけですが


その血の世界の外には鎖の世界が展開していますが、早々には逃れられないでしょう





ウィルフレッドは血を払うように爪で何度も何度も振るうが血の世界は揺るがない


形が出来上がりました


ウィルフレッドの周りには二つの小さな小さな世界が出来上がっていた、一つは朧気で軟弱な球体の世界、もう一つの世界は鎖で何重にも何重にも巻かれた綺麗な球体の世界


その二つの世界にウィルフレッドは閉じ込められている


ここからが私の独壇場、ここが私のゴールライン



杖をトンと地面に突く、それだけで血の世界は起動する、血の世界は球体を維持しながら姿を変える、ある一部は赤い槍を出現させてウィルフレッドに目掛けて飛んでいく、ある一部は赤い剣の形に姿を模してウィルフレッドに向かって飛んでいく、ある一部は紅い大剣に姿を変えてウィルフレッドに向かって飛んでいく・・姿を変えて・・・姿を変えて・・・・


紅い血の世界はルディアの意思によって姿を変え、ウィルフレッドに向かって弾丸のように高速に飛んでいき切り刻む、四方八方から、何十回、何百回、何千回と血の武器は出現し、ウィルフレッドに一撃を加え、血の世界へと消えていく、同化する


この世界から抜け出さない限りこの悪夢は終わらない、単純に自己蘇生の能力を持ち合わせていたとしても、この世界はそれすらも上回る


ウィルフレッドが息絶えるまで、感覚がなくなるまで、何度でも殺す、殺し続ける





何時間立ったんでしょうか?いや数秒かもしれませんね・・・もうちょっとだけ立ったんでしょうか?・・・数分?数十分?どのくらいこの魔術を使っていたんでしょうか?


集中をしていると時間の感覚が薄くなる・・



鎖の中にいる、ウィルフレッドの反応が薄くなったため、全ての世界、もとい魔術と能力を解除する


爛々と青く輝いていた右手の甲は能力の解除と共に光は消え去る


あたり一面に球体を維持していた血液は飛び散り、真っ赤な絨毯を引いた、その血液の中心にばたりとウィルフレッドらしき人影が倒れ伏せる、その人影は血だらけで人の判別が付かないほど真っ赤だった


だが致死量の血液を出していたウィルフレッドは未だに生命活動を維持していたのか胸のあたりが上下していた


「まだ生きているんですか・・・流石にしぶと過ぎますよ」


ルディアはぽつりとつぶやくと同時に湯上りに似た体のふらつきが来るがぎりぎりのところで踏みとどまる


少しだけ疲れましたね・・・


持っていた杖を支えにして、ゆっくりと地面に座り込む


「ふぃーー」


疲れからか口が勝手に動く


さて、なんの因果か分かりませんが、未だにしぶとく生きているんだったら、ウィルフレッドさんには聞かないといけないことが沢山ありますしね、回復魔術を掛けて上げますか


のんびりと周りを見渡す


ツバメとヒイロはまた言い合っている、ソフィアはそれを腕を組みながら苦笑いで眺めている


ぎゃいぎゃいと耳に声が聞こえてくる


その騒がしさが、シャルルとオーローンの姿になって見えた


なぜ私はここにいるのか?なぜ二人はいないのか・・・分からないことばっかりだ


胸がきゅーと締め付けられる


あぁ二人に会いたいなぁ


目頭が熱くなるのをぐっと抑える




そんなことを座りながら数分座ってぼぉーと考えていたルディアの肩にぽんと手が乗せられた


誰が乗せてきたのだろうと顔を見ようと顔だけ回し確認を取る


そこには杖を持ち、真っ黒な幅広い帽子を被った寝間着ではなく、しっかりと魔術師の装いをしたアルストロメリア、アルがいた

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