夢を見て空を見る少女12

まず初めにツバメが動き出した


ツバメの周りに風が巻き起こった、バネが弾けた様にツバメが老人に剣を構え迫る


その姿はまさに雷の様だった


速度を維持したまま、ツバメの剣が老人に迫る


ガチんと鉄が重なり合う音が聞こえた、いつの間に現れたのか黒い化け物がツバメの剣は老人の一歩手前で止められていた


「おやおや!これは失礼な事をしましたねぇ、私の名前はウィルフレッド と申します、以後お見知り置きよ」


ツバメの剣が間近にあるにも関わらず、そんなもの一切気にしていないのか目に入れずにこちらに悠々とお辞儀挟む


「バースト!」


ツバメは空いている左手を緑色に光らせ、風魔術を前方に唱えた


目には見えないが莫大な風が前方に射出され、同時にツバメも後退してきた


化け物、ウィルフレッドは強烈な風を浴びても足一つ動かずに涼しげな顔している


「‥・駄目ですか」


ツバメの声が漏れる、その声と同時にウィルフレッドを囲うようにここに至るまでの道中でいくつも見てきた魔法陣が展開されていく


魔法時からはぬるぬると黒い化け物がいくつもいくつもこの部屋を埋め尽くさん限りに出現していく


「どうしましょうね」


ツバメの思案が声に出ていた


ルディアはその様子を見て一つ提案する


「ツバメさん私が全て止めます、もう一度突っ込んでください」


「ルディアさん、中々酷な事を言いますねぇ、良いですけど」


ツバメは言葉を発した後に空中から拳一個分浮いた、いつでも動けるように、すぐに動けるように


先のように氷の魔術を使い地面一帯を凍らせてしまいたいですが‥‥ツバメさんは飛べるために問題ないのかもしれないがヒイロさんがもし私の魔術を食らってしまう可能性が捨てきれない


だから私の権能、私の能力を使用します!


敵は32、それを全て引き止める


「全てを繋ぎ止め、全ての歩みを止める我の鎖!」


手のひらから一本の銀色の鎖を射出する、手のひらから出た銀の鎖は一本の鎖から何十にも枝分かれしていき、それぞれが化け物へと向かっていく


化け物達にも多少なりとも個体差があるようで避けられる化け物と避けない化け物がいた


だけど避けても変わりませんよ?


この鎖は私の意思


私の身体の一部、身体能力の一つです


鎖は足の様に、手の様に、目を持っている様に自由自在に動けます


避けた化け物達にも鎖は追尾し、瞬間的に捕縛し、捕縛した鎖がまた枝分かれし地面に深く突き刺さる


全てを地面に繋ぎ止める、


一歩も動かせませんよ?


ツバメはその間に化け物の間を縫う様に這う様に低空で近づきもう一度剣を自身のスピードを乗せて振るう


ヒイロがそれに合わせて指を一つ鳴らす


パンっと高い音がした後にウィルフレッドの膝あたりに矢が突き刺さる


ウィルフレッドも驚きの表情を見せる


ヒイロさんのは魔術なんでしょうか?ここに連れられてきた時と同じ事をしている感じがするんですが……何ともまぁ摩訶不思議ですね


ヒイロは涼しい顔をしている、冷静沈着、その言葉が似合うほどに静かだった




ツバメは鳥の様に化け物の間をくぐり抜け、剣を振りかぶる


今度は化け物にも止められないだろう


後方の方で指が一つ鳴る


目の前のウィルフレッドの膝に矢が一つ刺さる


ヒイロさんですね、いい仕事をします


私はただの端くれの情報屋です、あくまで剣を握ってスピードを乗せて斬り伏せる事しかできません、なので剣術なんてものは素人レベルのため動体視力が高い人には簡単に避けられてしまうでしょうね


だけどそれをヒイロさんは理解して、援護射撃を入れてくれました


ヒイロさんやルディアさんに殺さないでくださいと行った手前あれですけど……殺さなければいいんですよ、最悪アルさんの魔術でどうにかしてもらいましょう


ツバメはギラリと歯を見せ笑う


だからこそ!私の最大の一撃を入れる


殺す一歩手前、死なない一歩手前!


「たぁぁぁぁぁ!」


私の最高速度、速度なら誰にも負けない随一の一閃


刃がウィルフレッドの腹を削ぎ落とす、雷の様に、光の柱のように、刃を振るいながら一直線にツバメが飛び抜けた


だがそこにツバメは確かな違和感を感じ取った


たしかに刃がウィルフレッドを切り裂いた、だが明らかに軽い


人間の軽さではない、例えるならばそう、雲を切ったような軽さだった


全体的に実態が無いような感じでしたね、いわば星のように掴めそうなのに掴めない


では?本体は何処にいるんでしょうか?はたまた


私の攻撃だけを選んで透過している?


ただヒイロさんの矢を受けて驚愕はしていましたね


そんな事ができるんでしょうか?


矢を受けてはいるんですよね……


ごたなゃごちゃと考えるのを後にし、ツバメは構え直す


情報を伝達した方が有利に進むかと思ったが、ルディアさんとヒイロさんのことだ、敵の状況について考えていることだろう、考えることは任せて私は今、私にしかできないことをやろう


そうして私は地面を蹴り、鳥のように敵を避け、ウィルフレッドに剣を振りかぶる





ツバメさんが剣を振るう音が聞こえて来る


だがその剣の音は空を切る音しか聞こえない、ウィルフレッドを斬っているにもかかわらず


私は増え続けている化け物たちに気を配り現状の敵の情報を整理する


一つ、ウィルフレッドに物理攻撃は無効、一つヒイロさんの攻撃は通っています、一つ弓矢から血液などの傷口からの出血がゼロ


「ヒイロさん、人って矢を受けた場所から流血しますよね」


小声で後ろにいるヒイロに聞く


ヒイロは特に何かするわけでもなく、ただただ後ろで腕を組み状況を俯瞰している、よく見てみると片手に短いながらも銀色の剣を持っている


短い剣をトントンと自身の腕に当てペチペチと暇そうに音鳴らしている


私の声かけに気づき、ヒイロは口を開く


「何言ってるのよ?人なんて傷付けば簡単に血を出すんだからそりゃあ矢が刺されば血が出て当然でしょ?何?ツバメの馬鹿が伝染したのかしら?」


「伝染してませんし、一応の確認です」


矢は食い、だがツバメの剣はウィルフレッドに対して傷一つ、付けられていないそれに加えて出血などもなし



「もしもしもしもし、そろそろそろそろ手札が割れそうなので行きますねぇ」


アホなのかは狂っているのか分からないがウィルフレッドからの行動の宣言、そしてウィルフレッドの声が響いたのち魔術の気配を感じ取る


「魔術きます!」


ツバメは私の声を聞き瞬時にウィルフレッドから離れ、私達がいる場所まで戻ってくる


備えろと言うしかない、防御に特化した魔術使いがいるわけでもなし、ただ完全にできないわけではないです、一応齧った程度で攻撃を防ぐ魔術を展開できますが……あんまり強度はないんですよね……


魔力がウィルフレッドに集まっていく


ぐるぐると渦を巻き、ウィルフレッドに取り込まれていく


魔力を取り込めるんですか……面倒くさいですね


ウィルフレッドがアクションを起こすのを待っていた、ここで不意に動き出すよりも対応にリソースを割いた方が良いと考えたからだ


相手は何をやってくるんでしょう……

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