夢を見て空を見る少女9
普段道理に、いつも道理に、時間が過ぎ去る、いきなり黒い化け物が出てきたりなんて物もなく、私は二人分の夕食を作り、お風呂に入り、何一つ変わることなく、日常を過ごした、夜中
アルさんは自身の寝室へと入り、私もアルさんから貸していただいている、角の部屋に入る
アルさんは一度部屋に入れば、ほぼほぼ自室からは出てこない
だから夜、私はいつも手を余していた
ただ今夜は私は外に出る
少しだけ冷え込むため、あの家、私達が以前に住んでいた家から魔術で使い慣れたローブと私の体ぐらいある杖を持ってくる、この魔術に関しては難しいものではない、生き物でもなくただの物質の移動、時間を掛ければできることを運動するためのエネルギーを使わずに代わりに魔力を使い行っているだけだ
そのため水を出す、土を出す、火を使う、そのあたりのことは魔力を使えば簡単にできてしまうが
ビームを出すやら筋力を上げるやらそのあたりの魔術はしっかりとした術式、または詠唱などなどが必要ですが・・・まぁ例外もありますが・・
ローブがばさりと体を包み込む、懐かしい肌触りに目を細め、腕を通す
私の背中がピンと伸びる、あぁ本当に懐かしい感覚です、杖を取り扉をゆっくりと開ける
アルさんに気付かれた様子はない、化け物を倒した時の彼女は強く見えたが、彼女は強く見えてもただの一般人だ、だからこれ以上巻き込めない、私の事情に巻き込まれるのは私だけで十分だ
それに部屋まで借りている身としては本当にこれ以上の厄介ごとに巻き込まれないで欲しい
だから私は一人で外に出た
店の扉をゆっくりと閉じ、大きく外の空気を吸う、冷え切った涼しい空気が肺に流れ込んでくる、お月様が道をこの世界を明るく照らしている
人っ子一人もおらず、人間の足音一つもない道の真ん中を私は一人歩く
さて、これからどうしましょ?
私が見つけるべきは夢想教、またはそれらの生き残り、要するに個人、はたまた全く知らない第三者に狙われたか・・・・・
ただあの黒い化け物を召喚するには一定以上のルールが考えられます、ツバメさんが話していましたがまず一つが生物を召喚する行為はそれ相応の魔力が必要であること、既存の生物であるまたは知恵を持っていないまたは生物としての力を持っていなければ、そこまで魔力は掛かりませんが
想像上の生物であるか、はたまた知恵があるもの、要するに人間とかですかね、または生物としての力、生き残るべくして鍛えられた力が強いものを召喚するには莫大な魔力が掛かります
と考えると生残りの線、私に恨みを持った個人も限りなく薄くなりますね
てか400年前の生き残りがいたらいたで怖いですが
次に第三者の仕業の線を考えてみると、アルさんやツバメさんの言動、態度からそれもないことが伺えます
だから考えるべきは夢想教、または名前を変えた夢想教に準ずる宗教を潰すことですね
潰してまだ化け物が出てくるんだったらまた考えればいいですし
「おやおやおや~一人でこんな真夜中にお散歩ですか?ルディアさん?」
真上から声がした、朝に聞いた声だった、少しだけ大きな茶色の帽子を被っている女性、黒い夜中と相まって以前よりも濃い黒い髪の毛が目に入り、手にはメモ帳、腰に剣を携えており、剣には一羽、綺麗な鳥の装飾がなされている
「こんばんわ、ツバメさん、朝方ぶりですね」
笑顔で返す
「えぇこんばんわ、さてもう一度質問です、なぜにこんな夜中にお散歩しているのですか?」
「そうですね、夜中に歩きたかったからじゃだめですか?」
「ふふ、だめですね~~最近のこの国は物騒でしてね、未だに捕らえられていない正体不明の殺人鬼がいたり、黒ーい真っ黒な化け物がいたりと・・こんな物騒な真夜中に行動しようなんて目的が無ければしないもんですよ~」
彼女は真っすぐにこちらに目を向けてくる、こちらに釜を掛けてきているわけでもなく、訝しんでいるわけでもない
「はは、そんなに物騒なんですね」
この国には殺人鬼が未だに捕まってないのかい、ソフィアさんは何をやっているんだか・・・そしてこの人は何故に私に話し掛けてきているんでしょうか?
「さてさて、ではでは一つ面白い話をしましょうか、私もルディアさんが戦っていた黒い化け物と対峙しました」
「ん?それは本当ですか?」
私だけが狙われているわけではないのでしょうか?
「あぁ誤解しないでほしいのですか、あくまで黒い化け物が召喚する魔術を強引に発動させただけです、そのため私たちが狙われたわけではないですよ」
強引に発動させた?どうやって?
ツバメは話を続ける
「それでですね、やられた手前すこーしだけお灸を据えてやろうと思いましてね、私も一枚噛ましてください・・・・何か知ってるんでしょう?」
ツバメはぎらりと目を輝かせる
さてツバメさんはどうやったら帰ってくれますかね、ここまで杖やらローブやらを持っているところを見られたら敵陣に行くなんて一目瞭然ですもんね
「あまり巻き込みたくないんですが・・」
「大丈夫ですよ、断られても付いていきますし」
この人は・・・・
「だったら私も付いて行っていいかしら?」
また増えた・・・
今度は真後ろから声が聞こえてくる
必然的に後ろを向く、そこにはこの夜中に対照的な真っ白な髪の毛にちょっとそこらでは見かけないメイド服を着ている人物、ヒイロがそこにいた
「えーっとヒイロさんは何故ここに、偶然にしてはこんな夜中にばったりって感じじゃないと思いますが・・・」
私はヒイロに至極まっとうな疑問をぶつける
「ツバメについてきただけよ」
「へ?」
ツバメが間抜けな声を出す
何ちゅうことをしてくれてるんですか・・・
「ヒイロさんも帰るって選択肢は?」
ルディアが申し訳なさそうにヒイロに聞いた
「ないわね、断っても付いていくだけよ」
「私からも帰って欲しいんですが!」
「あなたからのお願いなんてなおさら聞くわけないでしょう、大体今回の騒動に関しての情報を高く売りつけるつもりなんでしょうから」
「だからですよ~本当に帰ってくれませんか~」
「いやよ」
「はぁ~」
ソフィアはため息一つ吐き出し、これ以上押し問答していても埒が明かないと思った彼女は一人で歩き出す
当然ながら、ルディアの後ろもそれに気づいて言い合いながら付いてくる
まぁしょうがないですね、私が甘かっただけですし
静かだった夜がいつの間にか後ろが賑やかな夜になった
付いてくるんだったら仕方ない、使えるものは使ってしまおうの精神です
そんなことを考えていたらツバメが話し掛けてきた
「ルディアさん、記憶が戻ったんですね」
「えぇまぁ・・・・記憶を失う直近の出来事はまだ戻っていませんが・・でも何故に分かったんですか?」
「一様、私は情報屋の肩書があるんですよ?これでも頭は回るほうでしてね」
「私の尾行にも気づかない頭が何を言ってるんだか」
「ヒイロさんは気配を消すのが上手過ぎるんですよ、私だってザルな尾行だったらすぐに気づきます!」
ヒイロはツバメの文句を一語も聞かない様子で私に話し掛けてきた
「あなた記憶が無かったのね、初めて知ったわ」
多少なりとも驚くような情報だと思うが平然とヒイロは言葉を返した
「はは、お昼の時はあまり喋れませんでしたしね」
「そうね、あの時はソフィア様が話していたし、それに耳を奪われていたから仕方ないわね」
耳を奪われていた?どういうことでしょうか?
「スルー推奨ですよ、ヒイロさんの言葉を真に受けていると脳が破壊されます」
「なんてこと言うのよ!っは拗ねちゃって可愛いらしいこと」
「先の文句がスルーされたのも腹立たしいですが、こちとら商売一つダメになってるんですよ」
「じゃあなんで付いてくるんですか・・・・」
余り本当について来ないで欲しいのだが・・
「目的なんてものは決まってますよ・・そこに未知があるからに決まってるからじゃないですか、行かなきゃ情報屋の名が廃れますよ」
「さようですか・・・・・ではツバメさん、情報屋の腕を信頼して一つだけお聞きしてもいいでしょうか」
「ほうほう、何でしょうか?」
「一つは夢想教を知っていますか?もう一つは夢想教から改名したもの、またはそれに準ずる宗教、そして宗教があるのだったら何処に拠点を構えていますか」
「・・・・・・ふむ、ちょっと待ってくださいね」
ツバメはそういうと懐からメモ帳を取り出し、見始めた
「よくこんな真っ暗な中で見えますね」
「ただちょっとだけ目が良いだけですよ」
ふむ、魔術をバリバリに使ってますね
メモ帳を見る目が右に行き、また戻り左に行き、もう一度右に行く、その行為を数回繰り返した後に、ぴたりと目が止まり、ツバメは口を開く
「ふむ、ありますね~でもなんかパッとしないところですよ、以前までは少しばかり勢いがあったようですが、今じゃ見る影もありませんね~この夢想教ってのが今回の黒幕何ですか?」
ツバメはルディアに対して数ある宗教の中でなぜこれが?と聞き返す
「記憶が戻って私に因縁つけてくる相手はそいつ以外いないんですよ・・・・ほら来ましたよ」
ツバメの足元が紫色に輝き始める、淡い色を出しながら地面に一つの魔法陣が展開されていく
トラップを踏んだようだ、一体いくつあるんだか
私たちはすぐさま距離を取る、距離を取ったところで魔法陣は消えずに作動し続ける
「おわぁ!これはなんか見たことありますね!!」
「そんなこと言ってる暇があるんならその腰に飾ってある剣を抜きなさい」
ヒイロさんは既にどこから出してきたのか分からないが既に弓を構えていた
私も私自身の魔力を体中に回し始める、懐かしい魔力のうねり、久方ぶりに感じる感覚、あぁ問題なく打てそうですね
そんな感覚に浸っているのも束の間、魔法陣からぐにゃりぐにゃりと不定形の黒い人型の化け物がぽつりぽつりと浮き出てくる
私は浮かんできた人型に向かって杖を向け、一つの魔術を放つ
規模や制御、複雑な魔術でなければ詠唱なんてものは必要ない、詠唱は本来、魔術をコントロールするために使うものだ、結果だけを生み出す魔術において魔力の消費を無視すれば詠唱もなく魔術を使うことも可能だ
だから
私は他人よりも少しばかり魔力量が多いらしい、そのため多少なりとも無駄遣いしても問題ない!
「真っ白な世界!!」
鋭く私は叫ぶ
杖は細く鋭く尖った氷を生成し、黒い人型に向けて射出する、音一つ立てずに鳥が飛んでいくような素早い速さで化け物に向かっていく
だが化け物は俊敏な動きで避ける、その化け物の速度は人型であるが通常の人では出せない速度であった
当たることもなく化け物の横を通り過ぎた氷の球は壁に突き刺さるわけでもなく、通り過ぎた瞬間にパリンと綺麗に破裂する
その瞬間に私たちの目の前は一瞬だけ真っ白になり、すぐさま先まで見ていた景色に戻るがそこには魔法陣から出てきていた化け物は綺麗な氷の彫刻と化し、魔法陣、地面や壁に至るまで凍り付いた世界を広げた
魔法陣は未だに動き続けているが分厚い氷があるために黒い化け物は召喚されない
「さて、行きましょうか?ツバメさん、ヒイロさん」
二人は目の前の光景が一瞬で変わり唖然としている、そんな二人に声をかけ現実世界に呼び戻す
真っ白な世界
氷が破裂した瞬間に少しばかり範囲は狭いが破裂したあたり一帯を分厚い氷で覆う、無機物、有機物構わずに全てを何もかも氷漬けにする
私が作り出した一つの魔術、オーローンさんに教わった魔術を応用して作り出した魔術だ
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