夢を見て空を見る少女8

時間が来た、目を覚ます時間だ


何もない空間にパッと映像が流れ始める、私は何もない真っ暗な空間で体育座りをして映像をぼぉーと眺める


夢を見ましたオーローンさんと過ごしてきた日常の夢を


夢を見ました一面真っ赤の世界を、空は赤く、国は荒廃し、人々の目がうつろな世界を


夢を見ました、私が魔術を使っている場面を、その感覚を・・・思い出した


夢を見ました、オーローンさんと冒険をした楽しかった思い出を・・・


夢を見ました、みんなで囲んだ食卓の暖かかった光景が


消えていた光景、忘れていた光景が浮かんでは消え、消えた後に新しい光景が浮かびだされる、そしてまた消える


何もなかった空間には綺麗な色をしたシャボン玉が浮かんでいた


シャボン玉に触れるとパンっとシャボン玉が砕け散り、新たな映像が目の前で流れ始める、そして記憶が定着していく


身体の動かし方、魔力の通し方、魔力の使い方、魔術の使い方、私は魔術使いだった


新たなシャボン玉に触れる、また新たな映像が流れる


目の前には私とオーローンさんで住んでいた小屋が見える、上を見上げると真っ赤な空が広がる


オーローンから聞いた・・・夢想現実教、夢想教が作り上げた新たな世界


もう一度シャボン玉の思い出に触れる


夢想教と・・・世界と私たちは戦った、三人で、三人だけで


世界をひっくり返した?まだ私が記憶を失う前の記憶が曖昧だ、まだ靄が掛かっている


完全勝利というわけではなさそうですよね・・・


全滅した?いえ、引き分けだったんですね、引き分けに持ち込んだんですね


シャルルやオーローンさんが現代にいないこと、青い世界になっているのが引き分けの証明をしている


だったらなぜ私がいる?


そんな疑問が浮かんでくるが、今はそんなことは後回し


大方の記憶を思い出した、ずーっと昔の物語を、私のために、私の両親のために、世界のために、戦う理由を探すために、戦った人たちの物語を、青い空を見上げるために、綺麗な夜空を見るために戦った人たちの物語を


400年前の話だった



今じゃ戦った面影なんて一切ありませんが、現在の年と過去の年を照らし合わせるとそのぐらいになる


傷つきながら、悲しい思いを持ったことなんてこともあった、幾たびの戦場、幾たびの戦いを経てきた


耐えて、耐えて、耐えて、戦って、戦って、戦った


夢を叶えるために、三人が見た青い空を見上げるために、蒼い空の下で笑顔でいるために・・・・最強の二人は世界を敵に回した




私はゆっくりと目を開ける、蒼い青すぎる空が目に入ってくる、気持ちいい風が頬をなでた


私は空を見上げる、青い空に、白い雲、世界を照らす暖かい日差し、緑色の植物たちは日差しを得ようと至る所で手を広げている、小鳥たちは歌い、木々は風に揺れ、国の方へと耳を傾けると人が営んでいる声が聞こえてくる


「世界って綺麗ですね、オーローンさん、シャルルさん」


静かな声で呟く、誰にも聞こえてないだろう、だけど呟きたかった


隣にいるアルさんは帽子を頭に乗せて日差しを遮って寝ている、静かな寝息を立てている


呑気な人だ、全く


私はきょろきょろと辺りを見渡す、国から少しだけ離れたところ、現在記憶が戻ったために現在いる土地が見覚えのある丘の上にいることに気づいた、これは単なる偶然、だけど運命力なのかもしれないが


この丘って・・・・・・


私は不可視の魔術の解呪を始める


ここに家がなければないだけで私の魔術が無駄になるだけ、だが、やるだけ無駄なことはない


オーローンさんは魔術に関しては無駄に優秀なためだけに不可視の魔術も自身でオリジナルに仕上げていて、解呪も骨が折れるぐらいにはしんどいものになっている


長ったらしい詠唱を終え、目の前の景色を見る


丘の上には今までまっさらな緑色の雑草が生えていたが、その丘に音もなく、ゆっくりと私にとっては見知った家が現れ始めた


私は躊躇いなく扉に手を掛け開ける


400年前の家だ、少しだけ汚くなるのを覚悟に扉を開けたがそんなことはなかった


家の時が止まっているようだった、まさに言葉通りの状況だ


私たちが去った後から何も変わっていなかった、全ての家具、道具、本、全ての物の時間が魔術によって止められていた


「あぁ、ほんとに夢じゃないんですね・・・」


私の中で確信に変わる、いや変わって欲しくはなかった、私よりも偉大な魔術使いは年を遅らす魔術でも開発して今の時でも生きて欲しかった、シャルルは吸血鬼であった、500年の歳月なんて一瞬の出来事でけろっとこの家にいて欲しかった


だけど誰もいない、誰かがいる気配なんてものは一切しない


あの時から時が止まったままであった


全てが懐かしく、夢のように感じられる出来事、強き二人に守られ続けた私がここにいる


机に触れる、シャルルとオーローンおじさんの声が聞こえてくるような気がした


もう会えない二人の声が耳を駆け抜ける


あぁ私がこの物語を終えなければなりませんね




自身が以前に使っていた杖を魔術で懐にしまい、扉から外に出る


まだまだお昼の良い天気が私を照らす、もう一度不可視の魔術を唱え、オーローンの家、私が住んでいた家を世界から隠す


これ以上私の思い出を荒らされたくはない、誰にもだ


ちょっとだけ離れたところでアルさんはすやすやと寝ている


起きないように小さな、本当に小さな声で不可視の魔術を唱え終えた


目の前から家が消える、音もなく、振動もなく、一瞬で消え去る


「さてと、そろそろ起こしますか」


あぁ私が襲われている理由がはっきりした、私が今この地に立っている理由がはっきりした、私がこれから倒すべき敵という物がはっきりした


さぁやっていこう





私は呑気に寝ているアルさんの身体を揺らす


「アルさーん、起きてくださーい、そろそろ帰りましょうー」


「ふが!んにゃ、うーん、どれぐらい寝てたんだ?」


「さぁ?でもそこまで時間は立っていないと思いますよ?」


太陽を指さす、太陽は私たちがここまで来た時点からはあまり傾いているようには見えない


「ん?んぎゃぁ!目がぁにゅわぁ!!」


「だ、大丈夫ですか?」


「ぬわぁー!目が痛い!!」


日光を直に見たらしいアルは草木が生え散らかしている地面をゴロゴロとのたうち回る


「ふふ」


少しだけ笑みがこぼれてしまった、呑気な人だ全く


この人には迷惑はかけられないな


「さ、帰りましょう?」


「うーん、そうだな、帰るか」


私は寝っ転がっているアルに手を差し伸べる、その手を躊躇いなくアルは取ったところでグイッと引っ張り上げる


「・・・・・・・・・何か変わったな」


訝し気な顔をしながらアルがそんな訳が分からないことを言ってきた


「・・・?何がですか?」


小首を傾げる、はて?何が変わったんでしょうか?


「雰囲気というか・・・うーん何だろうか?なんていうか・・・表面上に出ないもの?・・うーん?」


アルさんは帽子を被りなおしながら悩み唸っている、変なことで悩んでいるアルさんを見たら少し可笑しく感じてきて笑えてきた


「ふふ・・さぁ行きましょう?」


「うーむ?」


私は国に向かい歩き出す、その時、一瞬だが遠くの方でピカリと光った後に大きな爆発音かつ自身が経っている位置まで地面が揺れた


「わわ!な、なんですか」


一種で身構える、記憶が戻ってはきて、魔術は使えるようにはなっているが言ってしまえば500年前だ、実際に使えるかどうかは疑問である


だけど、やらないで死ぬよりも、牙ついて死んだ方が後悔がないですし


私は自身の中に巡っている魔力を回し始める、いつでも魔術を唱えられるように


「まぁうちの王様が何かやらかしたか、はたまた魔物でも攻めてきたか・・どーでもいいだろ、帰ろうぜ」


私とは対極にのほほんと肩の力どころか声までもが抜けきったアルがこちらに語り掛けてきた


「えぇ?いいんですか?」


「良いんだよ、どーせそこら辺の冒険者かはたまた王国の関係者が処理してくれるだろからさ、ま、一銭にもなりやしないことなんてやらんでいいわ」


「あの黒い化け物かもしれませんよ?」


「襲ってきてないうちはほっといても良いんじゃないか?ルディアが集中的に襲われているだけであって、本格的に原因がルディアに決まった訳じゃないしな、まぁ火の粉が掛かってきたのなら大量の水を持って制してやればいいしな、だから帰ろうぜ」


「はぁ、呑気は人ですね、全く」


「良いだろ別にー」


ちょっと焦げ臭い匂いが鼻を刺激するのを感じながら私たちは帰路に着く、一つの不安が胸の中を過ったが今の私ならばあの黒い化け物なんて取るに足らない、あんな奴にビクビクしていた自分が馬鹿らしく感じる

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