夢を見て空を見る少女6

私はゆっくりと瞼を開ける、今日も今日とて、また一日が始まる


かちゃかちゃと皿と皿がぶつかり合う音が聞こえて来る、ついでに水の音も


音の方角を見てみるとルディアが買ってあげたエプロンを着けながら皿を洗いつつ器用に朝食を作っていた


朝弱い私にとっては嬉しい事だ


むくりと起き上がり音がする方へ歩みを進める


「あ!起きたんですね!おはようございます!」


「んわぁ、おはよう、ルディアは朝に強いんだな」


「・・そうですね、なんか目が覚めるんですよね、日ごろの癖なのでしょうか、お眼目ぱっちりです」


「そっか」


うーんと私は肩を真上に伸ばす、最近は何かと動いて体がそこそこに疲れているらしい、ルディアがくる以前は少し動かな過ぎたのが原因か・・


まぁ少しぐらい忙しい方が人生を謳歌している感じがしていいがな


「アルさん、アルさん、この家にはパンとか牛乳とかはないんですか?ちょっと探したんですけどなくて」


「ないな、まぁあれだ、私は朝がすごく弱くてな、朝ごはんと昼ごはんがごっちゃになってだな、それにほらパンって朝ごはんしか食べないだろ?」


「そんなことないですよ・・・まぁだったら今度買いに行きましょう?アルさん」


「そうだな、、いろいろ足りてない物ばっかだしな」


「ほんとですよ、アルさんっていったい今までどんな生活していたんですか」


「はは、まぁ適当にすましていたなぁ」


笑って誤魔化す、一人で暮らしていたもんでどうしても自堕落になり、部屋がぐちゃぐちゃになりがちだからな


「もうー、っとそろそろ朝ごはんできますよ」


話しながら手を進めていたルディアはテキパキと朝ごはんを作り終え、テーブルに食べやすいように朝食を並べてくれる

どれもこれも焦げなんてものはついておらず、完璧な朝食だ


ルディアの家事能力が伺える


家の中だって、ルディアが来るまで埃臭かったのが、今じゃ前までの状況から見ても綺麗になりすぎている、埃なんてものは視界に映らない


ルディア様様だなこりゃ


そんなことを考えているときに店の扉がこんこんとなる音が聞こえてきたが返事をする前に扉がぎぎぎと床をこすりながらゆっくりと開けられた


開け閉めしやすいように扉をどうにかしないとなと思いつつ、入ってきた客を見に行く


ルディアも後ろについてくる、一通り朝食の準備が終わったため看板娘として客をもてなすのだろう


まだ開店の札を出していないため、私の身内だろうと思うが、知らん奴が入ってきたら迷惑な輩に違いないため首飛ばしてやる


「こんにちわー、誰かいませんかー!」


あぁ朝っぱらうるさい奴


「なんだよ、ツバメなんか用か?」


私の目の前には黒い髪のボブカットやな少しだけ大きな帽子を被っている女性

手にはメモ帳、腰に剣を携えており、剣には一羽、綺麗な鳥の装飾がなされている


「はいはい、こんにちわーアルさんっと後ろにいる方は見ない顔ですね」


興味深そうに、新しいことに少し声色が弾んでいた


「あっはい!初めましてルディアと申します」


ペコリと可愛らしく行儀良く挨拶を丁寧にする


「いやいや、ご丁寧にどうも……ダメですよーアルさん自身が力あるからって可愛い子を強引に誘拐するなんて」


「するか、アホ、変なこと言ってるとお前を焼き鳥にでもするぞ」


「おぉこわいこわい、おぉっと忘れてましたね、初めましてルディアさん、私はこの辺一体というかこの吸血鬼の国で情報屋の名前で知られているツバメと申します、以後よろしくお願いします」


私はツバメの自己紹介に補足を入れるために口を開く


「ただの情報に一定の価値をつけて売り買いしてるだけの人間だよ、こいつが持ってくる情報は大抵碌なことがない」


「な!なんて事言うんですか!しっかりとした重要かつ正確な情報なんですよ!!情報は命ですよ!!」


「わーかったから落ち着け、落ち着け」


ルディアもツバメの剣幕に対して苦笑いだ


「ってそんな事を言い合いに来たんじゃないんですよ、アルさん最近何か変わったことってありましたか?有益な情報が有ればそれに見合った金額を渡しますから」


黒い化け物、黒い人形、ルディア、他にも色々とあるが確定してるわけでもなし、お金に困ってるわけでもなし……


「……………特にないな」


「そうですか…………」


ツバメは少し悩んだ素振りを見せた後、口を開く


「いやありますよね?確実に何かしら」


「……………」


これまでのことを話すか迷った、シラを切っても良かったが……何かしらの情報は得られるだろう


ツバメが何を狙ってるかなんて分からんが出し惜しみしてもしょうがない


「いいぜ、情報をお前にくれてやるが、ただし条件付きだ、お前の言葉通りに情報に見合った金銭とお前が持ってる情報を私に渡せ」


「………ふむ、良いですよー」


ツバメは軽く二つ返事、頭の回転が早いのかなんなのか分からないがこいつが考えている事なんて一つもわからん


「でわでわ、アルさんからどうぞ、アルさんの持っている情報を吟味して私からも情報をお渡します、いきなり大量のそれも無駄が多い情報を渡されても困るでしょ?」


「それもそうだ、じゃあ先ずはルディアから聞いてくれ」


「えっ…あっはい、ではでは」


ルディアはこれまでに起こった事、自身が体験した一端を事細かく話す


化け物に二度襲われた事、自身が記憶喪失である事、自身が何かしらに狙われている事


ルディアに続き、私自身に起こった話をした、ルディアがいなかった先日の話、黒い人形と戦った事その時に自身の店を中心に魔法陣が引かれていた事などなど


ルディアは話し終えた後、やはりトラウマになっているのか少しだけ震えている、それを治めるように白い綺麗な白髪をゆっくりと撫でる


その行為を受けルディアはほうっと暖かい、リラックスした吐息を漏らし、震えがおさまる


トラウマはそう簡単に治るもんじゃない、いつかそれを超えられる日、自身の中で消化できる日が来れば良いのだが


「………少し待ってくださいね」


ツバメは考え込む、指を口に持ってきて、それはさながら探偵の考え込む姿だった


「あ、そうだ、後、オーローンって言う方を知っていますか?」


ルディアは唐突にそれを聞いた、私も知らない人の名前だ


「オーローン…………聞いた覚えはないですね」


悩むそぶりから姿勢を変えずにバサリと切り伏せる


「そうですか…」


「そのオーローンつうのは誰だ?」


「オーローンさんは私の、記憶がなくなる前、一緒に住んでいた大事な仲間です」


「オーローン?ふむ、多少なりとも記憶が戻ってきてるのか」


「えぇまぁ・・・断片的ですけどね」


少しの間の沈黙、それを破ったのはツバメだ


「そうですね、黒い人型、黒い化け物、どちらも聞いたことないですね・・・・全く分からないですね~」


「はぁ聞いといてか?」


「まぁあれですよ逆に情報がなさすぎるというのも情報の一つですし・・・・・・あぁそれと一つだけ言えることはありますね、あなた方が対面しているのは正真正銘化け物かもしれませんね」


「んん?どういうことだ」


「言葉の意味道理です、正真正銘の化け物かもしれないということです、まぁただの人ではないことは明らかですね」


「どうしてですか?」


「一つ、レストラン、それと先日の大規模な魔法陣です、レストランではアルさんとルディアさん以外は眠らされてしまったんですよね、こんな芸当できるのは大人数で魔術を起動させるか、アルさんみたいに強力な魔術師がいる状況であれば唱えることは可能ですが・・まぁいませんね、現状この国にそんな知性ある生き物は」


ツバメはまだ続ける


「それにこの国以外の国に関して考えてみても、ほかの国からの刺客、まぁ可能なのかもしれませんがアルさんとルディアさんだけを狙うっていうのも不自然です、なのでその線も省いていいでしょう、次に、そもそもなんですが召喚魔術というのは中々骨が折れるぐらいに難しい魔術なんですよ、黒い化け物一体でもです、それを何体も何体もぽこぽこと出していったら使用している魔術師が干からびますね」


「そうなんですか?アルさん」


「まぁ・・・ツバメが言うのであれば、まぁそうなんだろうな」


「そんぐらい把握しといてくださいよ‥‥」


「知るか、自分の専門外の知識なんぞ一々覚えてらんないだろ」


「貴方に関しては魔術使いでしょうよ…」


はぁと一息、ツバメは息をついてからまた話し出す


「さて話を戻しますが、召喚魔術、大規模な睡眠、用途不明ですが大規模な魔法陣の展開、同時にこなす、維持する、そんな芸当は人間、個人で行うという点では不可能に近いですね、というのを踏まえた点で大規模で魔術を行使している集団がいれば私が気が付きます」


最後にとツバメは話を締める


「ま!ごちゃごちゃ言いましたが、要するに人間業じゃないんですよ、化け物ですよ、あなた方が対峙している敵というやつは」


ふむ、どうしたものか、すっぽ抜けていたがそうか、人間ができる範疇を超えていたのか


「私の方でも少しだけ調べて見ます、何かあればまた報告しに来ますね…っとあ~と忘れてないですよ。オーローンさんに関してもこちらで調べさせていただきますね」


「え、あぁ、お願いします!」


ツバメはにこりと笑いルディアに笑いかける


「はい、任されました・・・やることやったんで・・ではでは」


「あぁ分かった、ありがとな」


にこりと笑い、帽子の箸を下げ一つお辞儀をして店のドアを出ていった


騒がしい奴だったな


「すいません」


ルディアは少しだけ顔に影を落としながらこちらに謝る、そんな顔をするな


「何がだ?面倒ごとを持ってきたという点に関しては面白いから問題ないぜ、私は面白いことが好きだから、そんなしょんぼりとした顔をするな、笑顔でいこうぜ」


「はい、そうですね・・・・朝食にしませんか」


「そうだな、もう冷めちまったかな、冷めたよな、暖かい朝食が食べたかったな」


「明日も作りますから、何ならお昼、少し豪勢にしましょうか!」


ルディアの声が上がってきている、元気になってきていた、その行動が少し微笑ましくて無言で頭を撫でてあげた、白い髪をわしゃわしゃとなで続けた


「な、なんですかー」


ルディアの頭を少しの間なで続け、私が満足したところでやめる


「撫でたかったから撫でた、さ、朝食食べようぜ」


「‥‥むぅ、食べましょうか」


私は食べかけの、いやまだ食べていなかった、一切手を付けていない朝食を食べに朝食が並んでいる食卓へと足を運んだ


そしてアルは途中で気付く、大きな大きすぎる過ちに…


「あ、金奪い取るの忘れた」


ルディアは苦笑いを浮かべた



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