前日譚 夢を見て空を見る少女

夢を見て空を見る少女

陽の光が一切入ってこない森の中少女は怯えていた、息を潜めていたがそれに反するように心臓がはちきれそうになるぐらいバクバクと音を鳴らしている


なんでこんな事になっているんですか


お願いだから今だけは鎮まって走らせてくれと少女は自身の体にお願いをするが叶うはすなどなく


そこに残虐が趣味な人がいたのなら嘲笑っているだろう


少女は逃げるしか選択肢がなく、ただの殺戮を映し出しているのだからそれはサーカスと同じで面白かっただろう


地面が揺れ自身に近づいて来ていることを感じとる、重い地響きがする、地面と一緒に自身も揺れる


同時に涙が溢れでる、自身の生を謳歌することなく幕を下ろすとなるとひどく残念だと感じた


追いつかれた


「何でこんな事になっているのかなぁ」


少女は鋭利な真っ黒な爪で腹を裂かれる


軽く軽すぎる体は爪の切り裂きで宙を舞い、二回三回と回転を繰り返しながら地面に落ちる、落ちるさなか中から臓物がぼたりぼたりとと地面へと落下する、腸は切れていなかったのか自分と繋がりながら大きく空中へと広がった


それと同時に自身の胃が少女の目に入る、真っ赤に染まった綺麗な胃だった


受け身を取る様子などなく力なく投げ出され、ぐちゃりと嫌な音を立て少女の周りには一瞬で赤い血だまりが出来上がる


光の差さない孤独な森の中


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・あ」


声が森の中に響きまわった、それは余りにも悲痛な絶叫だった、怖さからだった、痛さからだった、色んなものが混ざりあった声が腹なんて物はとっくに機能していなかったが腹の底から声が出た


あぁ痛い、痛い、痛い、痛い・・・・・・・


1秒という時間が永遠に感じられた、痛みという苦痛が少女の体内に存在している時計をいたずらに押とめ、苦痛を引き延ばす


だからだろうか少女は何も考えられなかった


「ちょ!?てか何こいつ!?あーもう!やるしかないじゃない!?」


大きな大きな地ならしとともに思考を遠うの昔に放棄していた少女は意識を完全に手放した




私はどこにでもいるただの人間の魔法使いさんのアルだ、チャームポイントはそうだな長い茶色い髪かな?ま、そんなことはどうでもいいが……今は吸血鬼が王様をやっている国で魔道具屋を運営している


こんな国にいるからか、どう足掻いてもイベント、厄介ごとなどはいきなりなんの前触れもなく起こるものである


ほんとにこの国にいると飽きないぜ





春の陽気な風と共に暴力的かつ乱暴に店の前の扉が開く、扉についていたベルも二回、扉が開いたことを知らせるために鳴った


扉の開け方的に明らかに客人じゃないことだけはわかる、これがもし客人だったら殴り飛ばしているところだ


「ちょっと!あんた回復魔術使えたわよね!?」


馴染みの声が聞こえてくる


「なんなんだよ?いきなり‥‥何があったか説明してくれて……も」


私の友人のルドが血塗れの少女を担いでやってきた、少女は白髪であり髪の長さは肩に掛かるぐらいの長さぐらいはあるだろう、体の様子を見るに13から14ほどの少女だと思うと同時に少女の腹に目が行く


その腹は裂け今にも中身が出る寸前だったその穴から少女の赤い血がどろりと垂れ流れ続けていた、傷口からは白い棒、骨が覗いていた、その骨も途中で折れているようだった


その折れた骨は体の中になく、どこに行ったかを簡単に予想をしてみても折れた骨は道端にでも転がっているのだろう


この悲惨な状態だけあって、当たり前だが少女の様子はひどく悪く、息が浅かった


少女の様子から友人に文句を言っている時間は無かった


私はルドにベットに横にするように指示をして少女に手が届く位置に立つ


「バックアップ任せた」


空いた穴と骨を同時に修復する、高度な技術が必要な訳ではないが、時間とそれ相応の代償は持ってかれる


「わかってるわよ、その辺はこっちに任せておきなさい」


頼もしい相棒を頼りにし、私は回復魔術を唱え始め使用する


私が手をかざすと少女の体はほのかに明るく光始める


魔術が正常に機能してることを意味する、少女の体は傷口の端からゆっくりとゆっくりと傷口が塞がっていく、骨も折れた箇所から新たな骨が伸びてきている


あぁやっぱりこれは苦手だ、この魔術だけは苦手すぎる、他の魔術や魔法だったら大雑把でも大方どうにでもなるんだが、人を再生するのは神経を使う、細い糸を何重にも乱雑に何層にもなっている細い穴に一つ一つ触れない用に糸を通すような感覚だ


それに加え、自身の魔力もごっそりと持っていかれる感覚にも襲われる、広大に真っすぐと続いた道を全力疾走している感覚に似ている、頭が重くなる


だから回復魔術は嫌いなんだ


だが効果はみるみるうちに現れる、仄かに緑の色を発しながら傷口がゆっくりと酷くゆっくりと治っていく様子を眺めている


ゆっくりとゆっくりと傷が塞がっていく




私とルドは全てをやり終えてお互いに一息つく、ここまで繊細な魔術を使った後は腕や頭がうまく回らなくなる


「これで終わり?」


ルドは聞く、あくまで私は空いた穴を折れた骨を復元、足りなくなった血液を足しただけだ、切り傷やら打撲までは手を回していない


「あぁ、見ての通りだ、あとは目を開けるのを待つだけだな」


「そう……少女を持ってきた手前私も目が覚めるまで待つわよ、だからお茶ぐらいだしてよね」


「図々しいことで、いいけど……何が飲みたい?」


「そうねぇ、紅茶かしら」


「ん、少し待ってろ」


手際良く紅茶を入れてテーブルの上に並べる、のんびりと紅茶をいそいそと入れている最中に少女がかずかに声を上げてから体を起こした


「こ………ここは?つぅ」


少女は痛さに顔を歪める


「傷口を閉めただけだからな、腕や足の切り傷や打撲なんてものは直してないからまだあまり動かないほうがいいぞ」


「はぁ、目が覚めて良かった、あ、紅茶ありがと」


「お前もどうだ?」


「え………あ、はい、いただきます」


少女は少し困惑していたがすぐに落ち着いて紅茶を受け取った


先まで重傷を負っていた彼女に紅茶なんて飲ませても良いのだろうか?と思ったが


知るか、腹の中に何かしら入れといた方が傷の治りも早くなるだろう、多分、きっと、そうに違いない


少女はゆっくりと息を吹きかけ熱い紅茶を冷ます、湯気が立っていた紅茶は徐々に湯気が消えていき、温度が覚めている様子がわかるのと同時に少女と同調して紅茶は波を荒立てる


少女からカタカタ音がした、歯と歯が何度も細やかに重なり合い音がなっていた


「あぁ……」


私とルドは話しかけずにゆっくりと様子を伺いながら紅茶を飲んだ


「………死んでないんだ」


ぽろぽろと少女の綺麗な瞳から涙がこぼれていった、止めどなく溢れていった、私とルドは声をかけずに泣き止むのを待った、恐怖には人間は早々に勝てない生物だからな泣きたい時に泣かないと泣けない体になっちまう



静かに私とルドは紅茶をすすった



泣き止んだのを確認してからルドは口を開いた


「貴方どうしてあんなのに襲われていたのよ?」


「わかりません………ああ!そうだ、助けていただいてありがとうございます!」


「え、あぁ、はい」


「てか何があったんだよ」


「そうねぇ、わたしの口から言えるのは真っ黒い大きな獣?でいいのかしら?まぁその化け物に気絶していたこの子が襲われていたことだけかしらねぇ」


「化け物に関しては疑問形なんだな」


明らかにルドが化け物容姿を伝えるに困っていた、何かがおかしかったのだろう、だからこうして少女の治療に私を選んだ


まぁ早急に直して化け物に関しての情報を得たかったんだろうという面もあるのだろう、まぁ?私の腕を見込んでもあるんだろうな


「姿は熊なはずだったんだけど、どうしてか周りに黒い靄がかかっていて全体がつかめなかったのよ、全体が真っ暗なのよ、しかもそいつ姿が一定じゃないのよ、移動時に何か四足歩行になっていたし…‥こっちに攻撃をする際には人型になってたし‥‥‥姿を固定できていなかったのかしら?」


「きもちわりぃなぁ」


「そうよね~ほんとこれじゃ家に帰っても不安しかないんだけど・・・・で?あんたなんか知ってる?」


「んにゃ、私は別段何にも聞かされていないな、この周辺には出てきてないんじゃないか?だからそこのやつに聞いたほうが早いだろ」


そうよねぇとルドはつぶやいた後少女のほうへと体を向ける


「あなたも何か知っている?些細な事でもなんでもいいわ」


「…すいません、私にもさっぱり」


ルドはその言葉を聞いて顔をしかめる


私から見るに明らかに面倒くさいことに巻き込まれたと思っているな、まぁ家の周りにバケモンが出たらどうにかしたいわな


「あぁそうだ、その化け物って結局どうなったんだ?」


「殺したわよ、もちろん、あ~でも不思議な事に身体は地面に横たわるとかじゃなく綺麗さっぱり塵一残さずなくなったわよ」


生物が死んだら当たり前だが亡骸はこの世には残る、だがルドと敵対した化け物は綺麗さっぱりなくなったらしい………


「つまりなんだ?」


「未知よね………はぁ、めんどくさ」


ルドはちらりとこちらを見てきた


「やらない、私はお前の家の周りなど知らないからな」


ルドに関しては私なんぞ必要ないだろうに、ただめんどくさいだけだろ、ルドよ


「なによぉ!もぉ、少しぐらい手伝ってくれたっていいじゃない、・・・はぁ面倒くさいわね」


言葉が終わると同時にルドは面倒くささを身体から吐き出すように大きくため息を吐いた

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