33.目立って仕方ないから隠さないと

 

 屋敷の正面側で“光”?

 さっき――日蝕が最大になった時に――見えた、ドス黒い圧みたいな物がまた?


 わたしは、小屋内部の立ち会いをアンに任せて、執事長らと共に屋敷正面へ向かう事にする。


「アン。くれぐれも倒壊には注意してね? みんなにも無理はさせないでね」

「お任せを。お嬢様もお気をつけ下さいませ」


 急ぎ足で屋敷を裏から正面に回り込むと、屋敷の中や使用人居住棟、騎士棟からも大勢の使用人や騎士が出てきていた。みんなそれぞれの場所から同じ方向に顔を上げている……

 大きな音がして、実際に小屋が壊れたのは屋敷裏手なのに、それを余所に何処を見ているの?


「お嬢様! あれです」


 わたしを呼びに来て先導した使用人が、指し示す先は屋敷の上層。三階――最上階の一室。

 その窓から真っ白な光線が窓枠の形のまま空に届くほど伸びていた。これまでに見た事も無いような光量で、またたくこと無く発光し続けている。

 これも太陽と一緒で、光を発している部屋の窓を直視することができない……


「なに……これ?」


 屋敷の裏手で見て来た光景とはまた違った異様な事態だわ。

 とにかく、使用人達が集まっている辺りに行って、話を聞かなきゃ。


「ワシは、強風で散ってしまった正面大庭園の草花の掃除をしておったんです」

「僕はその手伝いをしていました。そしたら……」

「裏手から凄い音が聞こえまして、ワシ等が屋敷に目を向けたら――」

「もうこうなっていました」


「私は騎士棟にいた時に音が聞こえてきて、駆け出てきたらこうなっておりました!」

「アタシ達はロータリーやエントランスの掃き掃除をしていたんですけど、裏手の音とこちらが光ったのは同時くらいでした」


 大体は小屋の破壊音で意識を屋敷に向けたら光っている部屋を見つけたっていう感じね。


「オリヴィア様、あのお部屋は旦那様の……?」


 そう。あの窓がある部屋は、たしか……お父様の執務室の当代当主だけしか立ち入れない什宝じゅうほう室。

 普通の武器庫や宝物庫とは別に、先祖伝来の武器や道具などの物品を納めてある部屋……のはず。


 お兄様はどうか分からないけれど、わたしは存在は知らされているけれど出入り口の位置も入り方も教えられていない部屋。

 ここにいる誰もどうする事も出来ないわ……


 でも、この空に伸びたままの光は目立って仕方ない。こんな光、床に蝋燭を敷きつめても出せないわよ?

 王城はもちろん、貴族区画にある全お屋敷――いや、王都の全域から見えるはず。

 何とかしなくては!


「とにかくお父様に連絡を! あと、エド……ワード殿下にも!」


 騎士に伝令を頼んで、残った人員で何とかしなければ!


 まずは外からあの窓を塞ぎましょう!


 煙突掃除や樹木の剪定などで高所に慣れた従者従僕に屋敷の屋根に上ってもらって――

 屋敷にあるレッドカーペットやカーテン生地など、大きい厚手の布を用意して――

 風になびいたり煽られたりしないように、重しを取り付けて――

 その布を隙間ができないように何枚も屋根から吊り下げて――


 一時間くらい掛かってしまったけれど、なんとか光線が外に漏れないようにすることができた。真下から見ない限り分からないでしょう。

 みんなのおかげでかなり早く対処できたと思うわ。


「みんなよくやってくれましたね。御苦労さま」


 みんなを労っているところに、お父様とエドが馬車と連ねて戻ってきた。

 ロータリーで二台を出迎えると、エドが馬車が止まらない内に飛び降りて駆け寄ってくれる。


「オリヴィー! 連絡をもらって驚いたよ。君は大丈夫だったかい?」

「エド……来てくれてありがとう」


 お兄様はお父様の名代として城に詰めているそうで、二人に現状を報告する。

 まずはこの場から屋敷を仰ぎ見て、三階の窓を示す。


「ひとまず屋敷の者のおかげで、外部からは分からないようには出来ました」

「うん。よくやってくれたね、オリヴィア。皆もよくやった」


 そして、アンに頼んでいて、正面の光の対応中に報告を受けていた事も伝える。

 倒壊寸前の小屋の中をいくら調べてもキアオラ翁の姿は無かったと……本ともども……


「小屋の解体の時に、再度確認させます」

「そうか……。解体はもう始めているのかい?」

「いいえ。お父様に現場を見て頂いてからと思いまして。今は記録に残すべく、絵師に現場をデッサンさせています。暗くなる前に見に行きましょう?」


 屋敷を通った方が早いので中を移動していると、エドが感心したように話しかけてくる。


「それにしても、この状況でよく冷静に対処できているね。素晴らしいよ」

「そうでもないのよ。うちの使用人がよく動いてくれたのよ」

「いいや。さっき聞こえたけど、あちこちからオリヴィーがいてくれて良かったってさ」

「まぁ! みんなお世辞が上手なのね」


 あまり褒められても照れくさいので、話題を変えましょう。


「我が屋敷以外にも異変が起こっているのでしょうか?」

「うーん。城にいる間に報告は届いていなかったけど、ここに来る途中で遠方からの狼煙や伝令鳥は見かけたから何かしらあったようだね」

「まあ……そんな時に来てくれてありがとう。エド」


 裏手に着いて小屋の状況を確認してもらった。こうなった理由も間近で目撃した従騎士にも証言させつつ伝えた。

 失踪したキアオラ翁も気になるし、小屋から飛び出て来た“蜘蛛みたいな怪物”も気になるけれど……

 目下の最大の問題は――


「だが……まずはこの――屋敷三階の――光か」


 再び正面に戻ったわたし達は、お父様の言葉で屋根から吊り下げられている幕を見上げた。

 幕の内側では、変わること無く煌煌と光が出続け、その光は微かに下に漏れ出ている。


「行きましょう。あそこへ」

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