15.あなた、協力してっ!

 

 交代で小屋に来た奴等の捕獲、帰る奴等の追跡、両方する決断をしたわたし達は、二班に分かれる。

 追跡は難しい面もあるので、人員を多めに割く。


 シドの班六名ほどが小屋を担当。

 捜索時にシドと一緒にわたし達の護衛についてくれた人の班が、追跡を担当する。


 わたしとエドも、キアオラ確保を見届ける為に、シドの班と行動を共にする。

 わたしもワンちゃん相手に頑張るわよっ!


 小屋付近の拓けた場所にいると見つかるので、小屋を囲む森に――しかも奥の方へ、風下から遠回りして移動。

 間隔を空けて散らばって息をひそめる。

 しかし……みんなよく気配を消しているわね。

 人間の姿のわたしだったら、上手くできる自信は無いわ……


 潜むこと十数分。

 やはりわたし達が来たのとは逆側の森から、食料を詰めたと思しき麻袋を担いだ奴と手ぶらの奴の計二人がやって来た。

 そいつ等の気配を感じたのか、食べ物の匂いにつられたのか、小屋の中のワンちゃんが吠える。


 森から来た奴が小屋のドアを、乱暴だけれど何か規則性のありそうなリズムで叩く。


「おう。遅かったな」

「数分だろ? こんなの遅れた内に入らねえだろ」


 小屋の中からドアを開けた奴と手ぶらの人間が、慣れた感じで言葉を交わしている。

 どうやら中には入らないで、ドアの近辺で交代するみたい。ワンちゃんは出てきていないけれど、ずっと吠えっぱなしね。

 色々雑談しているけれど、有益な情報は何ひとつ得られなさそうだわ……


「お? お前は新入りと一緒だったのか。二日間も……」

「ああ、ろくに話したこともねえのにな……。今回はついてなかったぜ。まぁ、俺の機嫌を損ねなかっただけマシだ」


 これから帰る方のひとりは新入りだったのね……情報源が減ったわね……

 それにしても、ワンちゃん……ずっと、『遊んで! ねえ遊ぼうよ?』って吠えている。

 きっと、遊んでもらえていないのね……少し可哀そう。


(ねえねえ! 遊んでよ! 早くぅ)


「うるせえなぁ! この馬鹿犬がっ!」

「キャウ~ン!」

(痛っ!)


 酷い! あいつらワンちゃんに何をしたの?


 ――ん! 別れた! 森から来た二人が小屋に入り、他の二人が森に向かう。

 小屋を離れる二人の後姿が見えなくなるまで、ジッと待つ。

 小屋では、相変わらず(遊ぼう! 遊ぼう!)と、ワンちゃんが吠えている。


 姿が見えなくなっても、シドの合図が出るまでは動かない。

 わたしもエドも、現場の指揮権を持つシドに従う。


 合図が出た! でも、それはシドの下に就く兵士への合図。


『殿下とオリヴィア様は、必ず遅れてついていらして下さい。決して先行されませんように……』


 作戦開始前に、釘を刺されている。

 兵士達が動いたあとを、ゆっくりと追う。


 小屋に辿り着いた兵士は、シドがドアを蹴破ったのをきっかけに、三人ほどが突入した!


「なんだぁテメエら!」


 しばらく物が倒れるドタドタとした音や、金属と金属がぶつかったような剣戟の音が続く。

 僕も混ぜてぇ! と言うワンちゃんの鳴き声も合わさり、傍で控えている素人のわたしには混沌とし過ぎていてハラハラする……


 そろりそろりと近づいて、ドア枠から覗き込む。

 よし! 敵二人ともを兵士に釘付けに出来ている! 地下には下りさせていないわね。

 でも、ひとりは手練れみたい。ナイフよりも大きい短剣を両手に持ち、軽々と兵士の剣を捌いている。それに、狭い室内での戦闘に慣れているみたい。

 中に入った兵士達は三人なのに、苦戦している。


「オリヴィア様、近づき過ぎです。お下がりを……」


 シドに注意されて、引き下がると、兵士の「負傷!」と言う声が響く。

 シド達は素早く負傷兵を引きずり出して、新たな兵を投入する。


 またしてもこちらの兵が次々に傷を受けると、遂にシドが中に入ることに。


「殿下、私も戦闘に参りますが、くれぐれも動かれまれせんように。オリヴィア様も」


「……わかった」

(はい)


 シドが中に入ると、こちらが優勢になる。

 相手のひとりに傷を負わせて無力化し、一対一の戦いに持ち込んだ。

 いつの間にかドア枠に近づいて見守っているわたしの目には、二人の手元は早過ぎて見えない。

 シドも相手も、相当な実力者ね……


 エドが二人の戦いの間隙を縫って、小屋の中にいた負傷兵や、無力化した敵一人を外に連れ出して拘束する。

 それが落ち着くと、「シド! 助けは?」と、シドに問いかけた。


「新米の助けなど不要!」


 シドは、エドが彼よりも上位の人間――ましてや王族だと知られないように、敢えてぶっきら棒に言い放つ。


 なおもシドと手練れの均衡状態が続く。


「チィ! なんだコイツは。俺のスピードについてきやがって! おい駄犬! 食いモンをやってる恩をここで返しやがれっ!」


 手練れが、ワンちゃんを一瞥して、命令を下す。


 でも、ワンちゃんは――


(え? ご飯? 遊び? どっち?)


 全然通じてませんけど?

 忠犬だったらどうしようかと、戦う覚悟をしなければと、思っていましたけど……これならイケそう!


(そこのあなた! わたしの言う事を聞いてくれたら、美味しいお肉を上げるわよ?)


 必殺『エサで釣る!』作戦発動よ!


(肉! 食う! どこ?)


 ワンちゃんは、ドア枠の陰に隠れているわたしを一瞬で見つけて、尻尾を振り振り聞いてくる。


(い、今ここにはないわ!)

(えー!? ウソなのぉ?)


 ちょっと賢いわね……


(分かったわ! わたしに協力してくれたら、お肉をあげるまで、一緒に遊んであげるわよ?)

(遊んでくれる?)

(そうよ!)

(ほんとう?)

(本当よ! だから、そっちの男に噛みついちゃって!)

(うんっ!)

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