第5話 妖刀の行方
妖刀が飛び去った空を俺ときらりちゃんは途方に暮れて見上げていた。
結界が消えて元の場所には戻れたがこれからどうすればいいのか。きらりちゃんに訊ねてみる。
「きらりちゃん、どうしよう?」
「どうしようも何も、あの妖刀を追いかけないといけません。あの妖刀は呪いのアイテムの中でも危険度が高いものです。放っておいたら大変な事に……」
「大変な事?」
「この世界が滅びてしてしまうかもしれません」
「そんな危険な物がなぜアマゾンに!?」
「知りませんよ、そんなの。おそらく前の持ち主もあれの危険性を知らなかったのかもしれませんね」
今のあなたのように。きらりちゃんの視線がそう言っているような気がして俺は黙ってしまう。
きらりちゃんは顎に手を当てて少し考えてから言った。
「とにかく行き場所が分からないとどうにもなりません。私はこれから祈祷を行って妖刀の居場所を占ってみようと思います」
「俺に何か手伝える事はある?」
「ここからは神職の仕事です。素人が手を出すべきではありません。後の事はこちらに任せておいてください」
「そう……か……なら仕方ないか……」
どうやら俺に出来る事はもう無さそうだ。きらりちゃんの邪魔になるわけにもいかない。
俺は彼女に頑張ってと伝えるとその場を後にする事にした。
家に帰ってから寝転がる。
「うーん、俺に何かできることはないか? きらりちゃんに喜んでもらいたいよ。そうだ、スマホで」
調べてみたが妖刀の目撃情報は無かった。
「そう都合よくはいかないか」
それに情報が無いと言う事は騒ぎが起こっていないという事で良い事でもある。
「何とか世界が滅びる前に収まるといいな。そういえば収まるといえばあれがあったな」
鞄を開けてみて鞘だけになった物を取りだす。飾ってみた。
「鞘だけだと様にならないな。お前の相棒はどこに行っているんだ?」
訊ねても鞘が答えてくれるわけもない。俺は結局やる事が無くなったのでゲームをやる事にしたのだった。
「妖刀ゲット~……ってゲームで手に入れてもな」
俺がゲームで敵を倒しまくってレア武器で知られる妖刀を手に入れた時、玄関の方でピンポンが鳴った。
「お、ひょっとして、きらりちゃんかな? 何か手がかりが見つかったのかも」
俺はもううきうき気分でドアが破壊される前に玄関を開ける。そこにはやはりきらりちゃんが酷く疲れ切った顔で……
「きらりちゃん? 大丈夫? 妖刀は……?」
その顔がぷるぷる震えて感情はすぐに爆発した。
「見つかりませーーん! 妖刀はどこに行ったんですかーー!?」
「俺に訊かれてもー」
「もう疲れたー! ご飯食べさせてーー!」
「じゃあ、チャーハンを」
「チャーハン以外がいいーー!」
「えええ!?」
どうやら相当参っていたようだ。今のきらりちゃんは留まるところを知らない。
考えてみれば世界が滅びるような物を押し付けているのだから無理もないかもしれない。俺ももっと真剣に向き合うべきだった。
とにかく今はきらりちゃんが食べたいと言うので、俺は数少ないレパートリーの中から作れるものを作る事にした。
チャーハン以外で食べられる物を……
数分後、そこにはとても満足した様子でオムライスを食べるきらりちゃんの姿があった。
「オムライス、おいしー! どうやったらこんなに美味しい物が作れるんですか?」
「いや、普通のオムライスだと思うけど」
前は俺の一番の自信作を食らわせてやったと思ったけど、この程度で喜ばれるときらりちゃんの普段の食生活が心配になってしまう。
神聖な巫女だからってまさか質素な食事しかしていないのだろうか。それでこんな子供のような姿に……
俺が考えていると、きらりちゃんはご飯を飲み込んでから言ってきた。
「これから毎日食べに来てもいいですか?」
「えええ!?」
「なんてね。迷惑ですよね。忘れてください」
「あああ……」
ここでなぜ毎日来いよと言えないのか俺。まあ、本当に毎日来られてもいろいろ大変そうなので言えないけど。
きらりちゃんは礼儀正しくごちそうさまを言うと、飾ってある鞘に目を付けた。
「あ……」
「食べ物以外にやっと目を向けたね。そう、あの妖刀の鞘だよ」
「その手があった!」
「どの手?」
きらりちゃんが言うには長く刀と結びついていた鞘から辿れば、去った妖刀の霊力を辿れるかもしれないという。
「これできっと分かるはずです」
「また神社に帰って祈祷するの?」
「いえ、長く妖刀の置かれていたこの家もまた妖刀にとっては鞘のような物。ここから辿った方がいいかもしれません」
俺は彼女に言われるままに飾っていた鞘をテーブルに置く。きらりちゃんは巫女服からお札を取り出して念を込め始めた。すると鞘が淡く光り始める。
「おお……これで……」
「鞘よ、あなたが長く納めていた刀の場所を教えたまえ!」
きらりちゃんがかっこよく呪文を唱え終えた時、いきなり部屋のテレビが勝手に付いた。俺は気の抜けた思いでリモコンを手に取った。
「なんだよ、今いいところだったのに。リモコン踏んだかな?」
「待ってください!」
俺はすぐに消そうとするのだが、きらりちゃんがストップを掛けてきた。彼女の目が真剣だったので俺もテレビを見る。
テレビのニュースは近所の動物園の様子を映していた。
「近所じゃん。知っている場所が映るのって何か不思議な気分だな」
「……」
きらりちゃんが無言だ。俺達はテレビを見続ける。それだけで終わればただの地元のニュースの一コマだったかもしれない。
だが、パンダが映された時、その隅っこにさりげなくあった物を俺もきらりちゃんも見逃しはしなかった。
「あれは……」
「妖刀です!!」
そう、それはまぎれもなく妖刀であった。パンダもニュースキャスターも気づいていないようだ。
普通に見れば玩具か遊具のようにしか見えないので無理もないかもしれない。だが、あれは世界を滅ぼす危険性のある妖刀なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます