第4話 妖刀との対決

「ここはどこなんだよ……」


 俺達二人は気が付けば見知らぬ場所に立っていた。まるで妖怪でも出そうな暗く荒れ果てた大地だ。

 もう誰も住んでいないと思われる小さな家屋ももう何十年も前からそうなっていると言わんばかりに朽ち果てている。


「ここは恐らく敵の作り出した異空間ですね。私達は閉じ込められたようです」

「敵って?」

「あの妖刀ですよ」


 きらりちゃんが指差す方を見るとそこには禍々しいオーラを放つ妖刀があった。そして、その周りには大量の小さな人影が見える。

 まるで人のいなくなって滅んだ町の中心で踊りでも踊っているような。


「あれは一体何なの?」

「小鬼ですね。あれらは弱いですが数が多いので厄介です」

「つまりゴブリンか」


 きらりちゃんが大変な目に会っている姿を想像してしまった。以心伝心していればやばかったが、幸いにもきらりちゃんの意識は敵の方にしか向いていなくて助かった。


「とりあえずあの小鬼達を祓ってしまいますね」


 きらりちゃんはお札を取り出して呪文を唱える。そして、それを小鬼達の頭上に向かって投げつけた。すると、そこから光の矢が降り注いで小鬼達は一瞬で全滅してしまった。


「これで片付きました」

「おい、もっと頑張れよ小鬼達!」

「え?」

「いや、きらりちゃんのかっこいい所をもっと見たかったなって」

「あれらは弱いですからね。私の力も大した事は無いのですが、それでもあの程度の雑魚なら簡単に倒せますよ」

「へー、そうなんだ。そういえば前にぶたれたお尻が痛いなあ」

「あれでも手加減したんですよ。人間だから」

「人間だから手加減したのか……」


 もし、俺が人間じゃなかったら……俺のお尻は今頃きらりちゃんに割られていたかもしれないな。


「さて、行きますよ。大変なのはこれからです」

「あの妖刀……俺が近づいて大丈夫なのかな? きらりちゃんだけで行った方がよくない?」

「私はもう警戒されていますから。むしろあなただけで行った方がいいかもしれません」

「嫌だ! ついてきて!」

「分かっていますよ。悪霊退治は私の仕事ですから。危なくなったら庇いますから、あなたはいつでも逃げられるようにしていてください」

「分かった」


 俺は凛々しく歩いていくきらりちゃんの後ろに隠れるようにしてついていく。  かっこ悪いけど仕方ないじゃないか。俺には悪霊退治の仕方なんて分からないんだし、専門家の言う事を聞くしかないんだ。

 でも、きらりちゃんが危なくなったら助けるぞという意気込みだけは持っておいた。




 やがて、何事もなく宙に浮いている妖刀の傍まで辿り着いた。全滅した小鬼達の代わりに何か得体の知れないモンスター達が現れるという事もなかった。

 それが安心したような残念だったような……いやいや、きらりちゃんが無事だったんだからここは喜んでおこう。もちろん俺も無事だった。


「ここまでは何も起きなかったな」

「あの妖刀はまだあなたの事を持ち主だと認めているのかもしれません。今のうちに……頼みます」

「よし!」


 ペットを捕まえるのは飼い主の仕事だ。きらりちゃんの指示に従って俺は妖刀を握った。

 さっきまでおとなしかった妖刀だが、俺が握るとさすがに反応した。もっとゆっくり握った方が良かっただろうか。だが、もう後には引けない。


「こら! 暴れるな! どうどうどう!」

「今のうちに封印します! 破邪封印!」


 きらりちゃんがお札を妖刀に叩きつけようとする。だが、それよりも早く妖刀から凄まじい光が溢れ出して剣が鞘から抜けた。

 古かった封印のお札が全部剥がれてしまった。抜け出すのを止められない。


「うわっ! 離さないでください!」

「そう言われても!」


 刀が飛び立っていく。鞘だけを残して天の彼方へ。

 結界を張っていた物がいなくなって俺達は元の場所に戻っていた。

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