第3話 きらりちゃんにプレゼントをする
朝一番に神社に行くと彼女は今日も境内で掃除をしていた。
「おはよう、きらりちゃん。精が出るね」
「おはようございます。その様子だと家の中でも何も無さそうですね」
「家の外に来ているの?」
「はい、一応まだ警戒はしているので」
「上がっていってくれればいいのに」
「そこまでお邪魔はできませんよ」
「チャーハンごちそうするよ」
「う……」
彼女の手が止まる。もう一押ししてみよう。
「おいしいよ? 俺もまたきらりちゃんと一緒にご飯が食べたいな」
「では、また次の機会に。もっと詳しく調べたいとも思ってましたし」
「おっけー、待ってるよ」
よし、約束ができたぞ。あまり喋る事が得意ではない俺だが思い切って誘ってよかった。
ありがとう、俺に『今すぐ彼女作りに行け』とおっしゃってくれたおみくじ様。今度もっと賽銭箱にお金を入れてあげよう。
しばらくきらりちゃんが掃除しているのを眺めてみる。巫女姿の彼女は絵になるなあ。
「きらりちゃんっていつも掃除してるの?」
「たまにですよ。あなたがたまたま私が掃除している時に来ているだけです」
「そうなんだ。掃除ってめんどくさいよね」
「でも、掃除しておかないといくらでも汚れていきますから」
それはまあ、自分の家で実感している。彼女に俺の家も掃除してと言うのはさすがに図々しいか。家の中の物を全部処分されそうだし。
あれらは断じてゴミではないのだ。
さて、今日ここに来たのはきらりちゃんにこの怪しい妖刀を見てもらう為なのだが、どうやって話を切りだそうか。
うーん、やはりコミュ症にはボキャブラリーが乏しい。考えて普通に話す事にした。
「あのさ、きらりちゃん」
「何ですか?」
「ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな?」
「え? は、はい。私で良ければ」
予想外だったようでちょっと驚かせたようだ。俺は思い切って誘う事にした。今のところは俺の行動は良い方に作用している。
おみくじだって運の良さを保証してくれた。ここは大吉パワーでいけいけどんどんだ。
油断するとトラブルに巻き込まれるという言葉は横に置いておく。
「じゃあさ、ちょっと来て」
俺は彼女を人気の無いところまで連れてきた。
「どうして人気の無いところへ行くんです?」
「いや、だって、怪しいし危険だと思って」
「怪しいし危険?」
彼女の目が警戒したように俺を見る。
「いや、俺が怪しいし危険だという意味ではないよ?」
「分かってますよ。あなたが悪霊の親玉だったらもうとっくに決着が付いてますから」
悪霊の親玉じゃなくてよかった。もっともこれを彼女に渡したら斬られやしないだろうかという不安もちょっとはあるのだが。
でも、彼女とおみくじを信頼して見せると決めたんだ。
「実はきらりちゃんに見て欲しい物があって来たんだ」
「はい、何でしょう」
彼女は俺が見せようとする物がよく分かっていないようだ。いや、俺にだってこの妖刀が何なのかよく分かっていないんだけど。
でも、彼女が何も感じていないという事はやはりこの妖刀はただ見た目が怪しいだけの木偶の棒なのだろうか。
とにかく見せてみる事にした。その封印された妖刀のような木偶の棒を鞄から取り出す。
「ほら、これだよ」
「きゃっ!」
突然の事で驚いたのか悲鳴をあげるきらりちゃん。
しかし、すぐに冷静になってこちらに話しかけてくる。
「あなた、何を考えているんですか!?」
「え? これただの木偶の棒だろ?」
きらりちゃんの反応に俺の方も驚いてしまう。さっきまで冷静だったきらりちゃんが生まれて初めて見るような勢いで慌てている。
「そんなはずありません! これは本物の呪われた妖刀です。それを何であなたが持っているんですか」
「えっと、アマゾンで買ったんだけど」
「アマゾンでって……」
「ああ、アマゾンというのはね」
「知ってますよ。それぐらい。私も利用していますから」
「ああ、きらりちゃんってメルカリとかそういうの使う系なんだ」
「メルカリ……?」
「……」
「とにかく! こんな危険な物を買ってどうするつもりなんですか?」
「飾っておくつもりだったけど」
「ば、馬鹿じゃないですか? とにかく早くお祓いを済ませてしまいますよ」
きらりちゃんがお札を構える。彼女の目が真剣だ。それだけこれが危険な物であり、
「俺の事を心配してくれてるんだな」
「は?」
きらりちゃんの注意が一瞬逸れた。妖刀はそれを見計らったかのようにきらりちゃんの手を弾いて宙に浮かび上がった。
外れかかっている古い封印のお札が風にはためいている。たまに吹き出る気配。この感覚に俺は覚えがある。
「これは霊力か?」
「妖力ですよ。気を付けてください」
だが、何に気を付ければいいのか分からないまま、俺達は妖刀が作った結界の迷宮に閉じ込められてしまった。
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