第3話 とりあえず帰宅

 俺は喫茶店でぼんやりしていたら、気が付いたら8時だった。

 腹が減ったから、メニューを持って来てもらって軽食を頼む。

 試しにさっきのHPを自分でも検索して、小説を読んでみた。



 間男は、妻の勤務先の社員の男性。50歳くらい。長身でイケメン崩れのような、くたびれた容姿をしている。その人は派遣を顔で選んでいるから、面接で妻の美貌に目をつけて採用したんだ。以前から派遣に手を出すと有名な遊び人で、妻はその毒牙にかかってしまったのだ。

 妻は最初拒んでいたが、会議中、人がいない所を見計らって、言葉巧みに給湯室に呼び出された。男は人が来るかもしれないその場で無理やり行為に及んだ。男のいやらしい手が、妻のスカートの中に差し入れられると妻はもう逃げられないと観念してしまったのだ。


 はぁ~。俺はため息をついた。完全に妄想だ。うちの会社の給湯室は廊下に面していて、扉がない。そんなところでやってたら、公然わいせつで通報されてしまう。それに、部長の俺が出てない会議ってありえない。何の会議だよ!と突っ込みを入れたくなった。会社で働いたことない人の妄想ってこんな感じなんだろうなと思う。


 それに、残業とかで2人なってしまうかもしれないけど、社員ならともかく派遣はない。

 しかも、派遣社員に手を出したら、処分されるし、最近では、セクハラにならないように仕事に関係ない話をしないようにと人事から言われている。廊下には防犯カメラがついている。二人で入って行ってしばらく出て来なかったら、疑われてしまう。そんなもん、誰も見てないだろうけど・・・。


 俺は彼女と4回くらいホテルに行ったけど、誘うのは毎回あっちだ。

 服の中に手を差し入れて来るのは、俺じゃなくて、いつもあちら。

 旦那が思っているような貞淑な妻じゃない。


 それなのに、俺は家に帰る途中で、車に撥ねられるんだ・・・。


 作中では、旦那が駅の改札で待っていて家まで尾行することになっている。外には、長年雇っている運転手の脇坂が車に乗って待っているのだが、長年勤めてくれた彼を殺人犯にはしたくない。旦那は運転を交代して、運転手を帰らせる。人殺しのくせに、運転手にはいい人ぶりたいのか・・・倫理観がめちゃくちゃだ。


 俺は静々と駅の構内を歩いて、エレベーターで地上まで出た。

 駅の近くは歩道があるから、その辺は大丈夫だ。

 車で撥ねようとしたら、他の人も巻き添えを食う。

 運転手に気を遣うくらいだから、何の関係もない歩行者を撥ねたりはしないだろう。


 ガードレールがなくなった所で、俺は一気に走り出した。

 家までダッシュすれば、車に撥ねられるリスクも減るだろう。

 これを毎日やらないといけないのか・・・俺は目の前が真っ暗になった。

 

 殺すなら早くやってくれ!

 俺は心の中で叫んだ。


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