目的は開かれる

1

「申し訳ないね、急に全員集合かけちゃって。」


 テーブルと椅子だけが並んでいるアルカナ作戦会議室。そこには僕らを呼び出した王である龍軌、リクロー、ゲッテン、僕、タケルさん、名留ちゃん、知影さんに月華ちゃんが勢揃いしていた。


「早速だけど本題へ移ろう、【審判】からミカエルから情報を得たという報告を受けたんだけど、改めて詳細の説明をお願いしたんだ。いいかな?」


「わかりました。」


 あの森の襲撃から時間が経っていない今日での呼び出した目的と揃えられたメンバーで大体予想していたから立ち上がって用意していた紙資料を手にした。


「先日の侵攻を防いだ際にミカエルの記憶を覗くことができました。尤も覗けたのは一部分だけのようで、中身は天使達が今集めている魂の行方についてでした。天使に対して信仰心が深かった魂は一様に天使達の住まう場所へ集められていました。本来ならそのまま人として転生する、という話だったのですが、彼らの力の源たる信仰心は集める条件も厳しく、欲と異なり意識しないと得られない等あって、このままでは悪魔を完全に制圧するには厳しいとも言っていました。」


 シンとした部屋には僕の声しか聞こえない中、見たままのことを淡々と報告していく。


「魂を守り力も確保する、2つの問題を解決する手段として魂を自分達天使と同化することを選んだようです。ミカエル自体も実際にそう言っていたこと、他、ミカエルと同じ力を持っているであろう天使を3体確認しました。容姿や天界の構造といった仔細まではうまく見えなかったのですが、見れたところまでを再生しますね。」


 杖を出して、僕は一振りする。テーブルいっぱいに僕があの日ミカエルの記憶を映し出した。その一部始終を流し終えると、ゲッちゃんが呆れの言葉を吐いた。ため息付きもついてくる。


「げえ……結局人間利用してるってことじゃん、やってること悪魔と大差ないね。」


「本当それな。ってか一面真っ白すぎて何も見えなかったんだけどあれいつもそうなの?」


「あ、それ思った。アレが天界ってこと?」


 リクローとゲッちゃんがお互い頷き合った。関心寄せるとこと同意するとこそこなんだ。


「報告ありがとう。まあ見ただけじゃわからないこととか、いくつか疑問が出てきていると思うんだ。」


 お喋りはそこまで、と言わんばかりにタッちゃんがパン、と手を1回叩いた。


「今回やっと出てきた天使の情報をもとに、天使のやっている同化と悪魔が人間を引き込んでる諸々の方法、何がどう違うのか整理して今後の対策を練ろうってわけなんだ。」


「あー、悪魔の因子とか天使の同化の違いねー……うーん、意識したことないけどさっきの話とか思い出したりしたら、ちょっと違うって思う……かも。」


 名留ちゃんが発言と同時に立ち上がると、ゲッちゃんがギョッとした。


「えっ、名留ちゃんってそんな頭いいことできたの?」


 ついうっかり、と言った体の呟きを名留ちゃんに拾われたゲッちゃんは、不運なことに彼女の隣に座っていたために右ストレートのパンチを頬でしっかり受け止めすっ飛んでいった。まあでも、鍛えているからすぐに体制立て直して何もなかったように着席するのだが。


「いやmeもそんなに意識してなかったけどね?思い返してみたら天使と悪魔の違いって結構でかいって思ったのよ、そもそも召喚できないできるででっかい違いよ?」


 そう言うと名留ちゃんは言葉を選ぶように、うーんとーと可愛く首を傾げた。


「悪魔は必要な供物に決められた時間、決められた手順での準備と呪文、何より人間が望む【欲】が強ければ、実は誰でもどの世界でも召喚できるのよ。」


「欲?」


「そ、支配欲とか物欲とか食欲とか、契約した人間の些細な【欲】でも魔力へ転換して使えちゃうから、実は【欲】が大きいと割とどうとでもなっちゃうの。」


 名留ちゃんは一度言葉を切って、タケルさんと視線を合わせる。タケルさんが微かに頷いたのを僕は見て、これが嘘じゃないことを確信した。


「けど、召喚した人間が死んだら魂もらって契約終わっちゃうじゃん?人間全てが悪魔の望むような【欲】を持っているって話でもないから、呼び出した本人や近親に【因子】を植えて自分の身体として次代を作るとか、召喚した人間に操れる程度に【因子】を植え付けて別の人間を支配する方向とか考えてるのよ。【欲】の増長と人間界に自分も馴染むための身体作りもできて一石二鳥ってわけね。あ、meがやらないのはシンプルに面倒だからって理由ね。」


「予め堕落を選んだ人間にやればいいんじゃないの、それ。」


「それよく言われっけど、真っ当な人間ほど欲に深く溺れるし溺れる時の苦悩もまた上質な欲を作り出してくれる、悪魔にとっては長期的な力の供給源になってくれるんだってよ。知らねーけど。」


「知らないけど……って、タケルさん悪魔っすよね?」


「そんなことしなくても生きていける超優秀な悪魔だからな、俺は。」


 名留ちゃんの話に付け加えてふん、と鼻で笑うタケルさんに、質問者のリクローは微妙な顔になった、気持ちはわかる。


「ふむ、改めて聞くと悪魔側の情報って結構揃っている……と言うより歴代と手法変わってないね。対策が取り放題なんだけど何で手法変えないんだろう?」


「【欲】に忠実過ぎるからだよ。」


 タッちゃんのボヤキをタケルさんが拾ってした返答に、僕も首を傾げてしまった。


「タケルさん、それどういうこと?」


「悪魔連中の力の源は【欲】、同時に弱点も【欲】だ。欲がないと動けないし、目先に己の【欲】があればそれを手っ取り早く摂取することに行きがち。目先のもんに囚われたら深く考えることはできねーの。」


「あー……なるほど、欲に忠実……うん……。」


「……なんで俺と名留を交互に見た、おい、心愛、目ぇ反らすなこっち見ろ。」


「えっ、ちょっと待ってmeとおじさん見て納得した?しちゃった系なの心愛ちゃん!?待ってme達そんな欲に忠実……忠実かもしれないどうしよう……。」


 彼らの日常を思い起こしてしまうと、仮説飛び越えた説得力ある説だと思った。そんな気持ちが視線に込められてしまったのか、使い魔2人、特に名留ちゃんは目に見えて落ち込んでしまった。タケルさんは自覚しよう。


「それに対して、今まで天使の情報入手は失敗に終わってきた。俺達が尋問する前に力尽きるか記憶が見れなかったのも悪いんだけど、こっちも殺せていたからそこまで問題視してなかったのもある。けれど、人間の魂が天使に使われていることが事実なら見過ごせない。」


 天使が人間を魂を取り込んで力を得ていること……これが信仰心の高い人間全員天使の力になることを本望と思っているならいいけれど、そうじゃないなら彼らのやっていることは、転生前から人の選択肢を奪っていると言える。考えを整理していると、タッちゃんは含みを持たせて視線を知影さんに向けて笑う。その意図に知影さんは当然気づく。


「……俺が連中騙くらかしてどんくらい情報掻っ払ってきたか知りてぇのね。」


「ははは、知影さんその辺抜け目ないじゃないですか。敵の弱みは握りたい性格じゃないですか。」


「あーまあ……俺が知っていることはお前らに共有しておいても損はねぇか。」


 本題を理解した知影さんが面倒そうな表情を浮かべたがそれも一瞬。すぐに真面目な表情へ変わった。


「今まで相手取ってた天使に対して、心愛ちゃんの【偶像化】が通じなかったのは無理もない。って言うのも天使のほとんどは神の御意志とか言うやつで生み出されたばかりで内部の詳しいことは全く知らねぇからな。」


「えー……それでよく人間がどうのこうのって言えますね。」


「人間像ってのが洗脳級に根っこ張っているからだな。取れないタイプのもん。」


「固定概念ってやつっすかね?いやそれよりもっと固まっている気もするけど。」


「で、だ。その神や天使が存在し続けるには存在を肯定する力、向こうで言う【信仰心】がいる。だから人間に正しく自分達を認知させることは重要なんだ。」


「……あれ、その話が本当ならどっちの陣営も魔力って要らなくないですか?欲と信仰心さえあれば、魔法的なもん使えるんじゃないですか?」


「さっきも言ったが、信仰心も欲も永遠に供給できるもんじゃねぇ。だからほぼ無限湧き状態の【調律の森】は予備のエネルギーとして必要なんだよ。魔力は人間人外問わず誰でも使えるんだからな。」


 リクローからの質問返答を知影さんは一度言葉を切る、そこでふと、何か違和感を覚えた。


「神も天使も人間の信仰心を糧として存在しいている、と言うなら……。」


「信仰心で成り立つ天使は、同じく信仰心で成り立つ神って存在から生まれている。天使の行動源は全て神の意志とかいうやつに基づいている。なのに今は人間の魂を使って天使の存在を確立させていて、それも神の意志だって言うのは、おかしいと思わねぇか。」


 話を整理する僕の呟きを拾ったかのような知影さんの言葉に頷いた。


「これから言えることは、天使側と天使が仕えている神が弱体化していて、回避するために用いた手は天使にとって悪手となった。」


 人間の信仰心を力とするために、人間の魂を取り込むことのどこが悪手だろうか、魂を取り込んでしまったら、信仰心も有限になるからだろうか、なんて僕は考えていたが、予想は全く違っていた。


「連中は人間を知らなすぎた、敬虔な魂は喜んで自分達を助けるために魂を捧げると考えていた。連中の意に沿った生き方をした人間全てが【欲】を持っていないとは限らねぇことに気づいていなかったんだ。敬虔な魂とされたそれを取り込んだ天使は逆に人間に取り込まれた。」


「なんだって!?そんなことが起こり得るんですか!?」


 説明された言葉に驚いたのは僕らも同じだが、それ以上に驚いたのはタッちゃんだった。ガタン、と派手に音を立てて立ち上がった顔色は真っ青で驚きに満ちている、彼にしては珍しい表情だった。


「天使は神の意志に忠実であるために余計な感情を削がれて作られている。人間みたいな『ああしたい』『こうしたい』って自発的な感情、性格が皆無だ。あいつらが選んだ魂は『ああしたかった』『こうしたかった』って想いが強かった連中ばかりだ。」


「……ちょっと待ってください、天に召し上げられるくらいに敬虔なのに、強い思いを持った魂なんて都合よくあるんですか?」


「『国を良くしたかった』『貧しい民に救済を与えたかった』。民から慕われた為政者や志半ばで処刑された奴らとか数多にいるだろ。」


 確かにとしか言いようがないし、そう言った人間は総じて賢い。知影さんの言っていることが有り得ないと言い切れなかった。


「知恵もあり意志も強い魂が未知の力を持つ奴と同化することを感覚的にでもわかったら、そりゃ手にしたいとか思うだろうな。しかも天使に自由意志がないから、簡単に人間の人格に成り代わることは可能と言える。」


 それが本当なら、今僕らが相手しているのは人間ってことになるのでは?と思っている中、知影さんの話は続く。


「最たる例がミカエルだな。選んだ魂は善政を行った者だった。」


「ねぇ、ミカエルってめっちゃ強い天使じゃないの?あれ見た感じめちゃくちゃ頭良さそうで落ち着いてて皆のリーダーみたいな感じでさ、乗っ取られなさそうに見えたけど……。」


「ああ、名留ちゃんの言う通りミカエルを始めとする4大天使は神が生み出した天使の中で最も神に近く忠実とされる。特にミカエルは神に近い力を持っていたこともあって、思想も思考もある意味神の写しだった。」


「へえー、本当にすごい天使だったんだ。」


「逆に言えば人間を尤も軽視していたとも言える。人間ごときに不覚をとらないなんて考えていて、神に近すぎた故に他の天使よりその偏見が強すぎた。」


「……あちゃー。」


 意味を理解した名留ちゃんから小さい呆れが聞こえた。ミカエルも他の天使と同じ末路を辿ってしまったその理由を察したようだ。


「ねぇもしかしてさ、天使が同化した魂って魔法使える世界からきたとか、そういうのもいたり……?」


「ミカエルとガブリエルと同化したのがその世界出身だな。」


 知影さんがはっきりと言い切る。知影さんはそのガブリエルから力をもらったというなら、その辺りを知っていても納得だった。


「知影さん、今までの情報は月華ちゃんか月華ちゃんのお父上から教えてもらったものですか?」


 タッちゃんが身を乗り出したまま知影さんに問うと、彼は首を振った。


「ガブリエルの力とある天使の手助けでこうなった際、いくつかの記憶が俺の中に継承された形だ。お前ら的にはその辺も知りたいんだろうが話すことは出来ねぇ、何せ話すなって約束なんでね。悪ぃな。」


 悪いって感情が乗っていない声で謝罪されたのはまあ置いといて、知影さんのもたらした情報は実りあるものだと思えた。最たるものとして、今僕らが相手しているのは天使であり人間でもあるという事実。


「いや、それを抜きにしてもとにかく得られた情報は大きいものだった。自主的に天使になったのを非難する権利は俺達にないけど、わざわざ今生きている人の生き方を歪めて引き込もうとするのは見過ごせないし、意図せず天使にさせられた人がいたならば、それを救う手立てを考える可能性も出てきた。」


 今回の話のまとめついでに今後の指針もタッちゃんは示したところで、ゲッちゃんが手をひらりと上げた。


「そういえば、知影さんって結局天使なんですか?」


「あー……なんて言やいいんだ、天使並の浄化の力もあるけど、天使を殺せる力も強化された……堕天使って部類とか言ってたな。」


 軽い雑談と言う空気に変わったタイミングで、ゲッちゃんは突っ込みたかっただろう疑問をぶつけた。実は僕もそれが気になったのだ。

 あの時、ガブリエルじゃないと言った彼は、天使として名前が別にあるのか、それとも天使ではないのかと気になっていたのだ。その回答は聞き慣れない部類のものだったが。


「確か人間の魂を食らったかどうかで悪魔になるとか言ってて、俺や月華の親父さんはそれをやってねぇから、揃って神の意志に叛いている天使って感じだな。ほら、羽もまだ天使の形を保ってるだろ。」


 そう言って知影さんは背中に羽を広げてくれた。遠目では鳥と同じ形の白い羽だと思っていたが、よく見れば雨雲のように灰色かかっている。


「ん?じゃあ神の御意志とやらがOK出したら知影さん天使になれるってことになりません?」


「さてな、仮になれたとしても月華にメリットなかったり離れることになるならなりたくもねぇ。」


「それだけ月華ちゃんが大事なんですね……。」


「当たり前だろ。」


 結構恥ずかしいことを至極当然な態度で答えた知影さんにゲッちゃんも苦笑した。ちらりと盗み見た月華ちゃんは無表情だったものの、ちょっと耳と顔が赤く色づいていた。


「それにしても何か……まるで悪魔と逆なことになってるんだね、悪魔って人間を自分に近づけるじゃん。あるいは自分に似た波長の人間乗っ取ったりして、なんていうか、悪魔は人間に主導権を握らせない感があるけどさ。」


「あ、ゲッちゃんもそれ思った?手法は固まっているけどさ、悪魔のが結構しぶとい感じするよね。天使は……天使よりも神がきな臭くないか?人間見下しているのに、自分達のために人間の魂を利用しろって言うのとか。」


「確かに……あー考えると訳わかんなくなってくる。意志の強さから言えば悪魔は結構な強さを持ってんだなぁ……あれ、悪魔って元は天使って説なかったっけ?」


 リクローとあれこれ話していたゲッちゃんが、また知影さんを見た。何を隠そうその仮説を立てたのは知影さんなのだからその答えはまだそのままなのか、彼ならわかるだろうと思ったのだろう。


「悪魔には、確かに天使もいるけれど、他世界の神が形を変えているものもあります。」


 しかし答えたのは知影さんじゃなくて、一切口を挟まず今の今まで沈黙を貫いていた月華ちゃんだった。


「天使を生み出した神の意志に叛いたり神に負けたことで悪魔となりました。普通なら殺したりするところだけど、神は自分の考えに自分も紐付けられていたこと、彼らが負かした神々には不死性が備わっていて完全に殺すことができなかった。」


「そっか悪魔の元が神様なら人間の魂より強いの納得いくわー……って、え、神様?神様って悪魔になるの?」


「人間の魂を一度でも食らえば悪魔になり得ます。侵攻を奪われた神が存在を維持するには、悪魔になるしか道が残されていなかったのではないかと思います。」


「別世界に行って信仰心得るとかできないの?」


「創造した世界から出るには、神としての自分を捨てるしかない。それに他世界に行ったとしても同じように天使が侵略してくる。天使と戦っても死ねないしただ消耗するだけ。神が死ぬ時は人から忘れ去られた時、悪魔という異形となっても、人の記憶に残りたいものだと母は言っていました。私は見たことがないけれど両親は神がいない世界を見たと言っていました。」


「え、月華ちゃんのご両親世界崩壊見たのに生き抜いたの凄くない?」


「気にするとこそこじゃないよね。」


 バカ真面目な表情のまま見当違いなところに感心するゲッちゃんへのツッコミが思わず出てしまったが、月華ちゃんは気にしていないようだ。


「父と母は……特殊?なので。世界を渡ることができるみたいなんです。」


 どう言う理論でそう言ったことができるかを詳しく知りたいが、知りたくない気持ちもちょっと出た。月華ちゃんの力を見たら深掘りするのって相応の覚悟がいる気がしたからだ。


「さて、話は終わったよな、ちょいと碧摺の区へ行きたいから心愛ちゃん扉開いてくれねぇか。」


「え?いいですけど……何か用事でも?」


 立ち上がった知影さんと月華ちゃんに問えば、月華ちゃんが答えてくれた。 


「私がこの世界のことをよく知らないから、ちぃさんが案内してくれる、と。」


「中央区以外の区に行ったことねぇんだ。【アルカナ】にもなったことだし、いずれ案内任務入れてくなら区の大まかについて知らねぇと。」


「確かに……けれど碧摺と錫朱を満遍なく回るとするなら森の方結構空けますよね、大丈夫なんですか?」


「分けて回る。碧摺はデケェし広いし、先に青碧様と梁摺様にも挨拶したいから今周るかって話になってな。」


「もうそれ新婚旅行じゃん……。」


「まだ結婚してねぇからそれを言うなら婚前旅行だろ。」


「あ、はい、そうですか。」


 名留ちゃんの呟いた言葉に知影さんも呆れ気味だが、切り返しの答えはそれでいいのか。と思った。すると、「けどな。」と知影さんが困ったような表情を浮かべた。


「案内するって意気込んだものの俺も天使になってから区に行ってねぇからあやふやでな……完全な案内ってのが出来るかわからん、心愛ちゃん達の誰か暇なら一緒に着いてきてくれねぇか?」


「いや、お前人間だった時から中央区か錫朱の区しか行かなかったろ、武器と飲み屋で。しかも森の調査に入ってからは中央と森の行ったり来たりで基礎くらいしか知らねーじゃん。」


 じゃあ、と僕が名乗り上げようとしたらタケルさんが余計な煽りを入れた。おかげで知影さんがムッとした表情で煽り返してきた。


「るっせぇ、じゃあてめぇ案内できんのかよ。」


「はっ、さんざん馬鹿にしてきた俺様に?道案内頼むってか?まあやってやってもいいけど?お前がどうしてもって床に手と膝ついて頭下げんなら?やってやってもいいけど?」


「てめぇの雑な案内に頭下げる価値あんの?」


「言ったな色ぼけ天使が……いいぜそこまで言うなら特別に案内やってろうじゃねーか、俺様の完璧な記憶能力にひれ伏せよ?」


 何故そうなったのか、どうしてそう言う流れになるのか誰もツッコミが入れられないまま何と案内役はタケルさんに決まってしまったのだった。


「……リクロー、お願いがあるんだけど。」


「まあ、タケルさんほぼほぼこの仕事してないもんねー、仕方ないか……。」


「ごめん、まともな案内ができるのって考えたら君しかいない。僕もついていきたいところだけど……。」


「仕事完璧なコーちゃんを出汁に知影さんがタケルさんに煽り散らかして喧嘩になるのは目に見えてるからね。」

 

 リクローは基本的に中立世界の各区を見回って防衛しているおかげで、世界案内の記憶力は僕と同じくいい。ちなみにもう1人同じ仕事をしているゲッちゃんは割とその辺大雑把で頼りない、よって黙って除外した。


「主な案内はタケルさんがやって、俺は補説って形で色々説明しますが、お二人とも頼みますから喧嘩はやめてくださいね?!フリじゃないっすからね!?」


「そう言われちまうとやりたくなるな。」


「そこで悪魔の性出さないでください!!」


 タケルさん相手にリクローの意味が薄い懇願が発動したところで、僕はまず4人を碧摺の区へと送り出したのだった。


「ねぇねぇ心愛ちゃん、ちーちゃん達の様子見ようよ!おじさんの視界借りればみれるっしょ?気になるじゃんおじさんがきちんと仕事してるかさ!」


「名留ちゃん、本音は?」


「月華さんが知らない世界を見てはしゃぐ姿を拝みたいです。お願いします契約主様心愛様。」


「バレたら大変な目に遭うから嫌なんだけど……。」


「俺も見たいな。」


「俺も暇だしタッちゃん達に付き合う。」


 悪ノリする同僚2人のせいで、会議室はまだ賑わうようだ。

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