悪いことが重なる第二部
【アルカナ】は集う
3つの影を前にタロットカードが浮かぶ。その総数は3枚。
「……このカードが入ることはまあ想定していた、爺さん……前王に選ばれた時も出たしな。」
その1枚を特に注視して彼は呟いた。タロットカードの束を持つ青年の表情が強張っているのと対象的に、その態度は落ち着いている。
「カードの通り貴方は一度死んだ、この【アルカナ】は二度出ないと聞かされている、どちらかが死ぬようなことがあるってことじゃ……。」
「いや、死なねぇだろ。この【アルカナ】、出方が前と違って逆位置になっている。」
その絵柄が見える位置にいて落ち着き払う男、もとい知影は然程驚いていない。浮かぶカードを眺めて推測を語る。
「【アルカナ】命名で逆位置で出るカードは今までなかった上に、一度こいつに選ばれ死んだ俺のいる前でこいつが逆位置で出た。考えるに、逆位置の意味こそが、俺と月華に与えられた【アルカナ】としての役割ってことだろ。」
初めて名が出た知影の傍に佇む女性……月華を龍軌は見遣る。伺い見た顔には焦りも何もなく、表情は無。しかし彼女は赤い瞳を一度伏せてからしっかりと言葉を発した。
「私達の力は天使と悪魔にとって、とても厄介な力と言えます。自分でコントロールはできるけれど余程のことがない限りは使ってはいけない……心愛さんの使い魔のように拘束を強める意味のカードと言えます。悪い意味には感じないです。」
「俺もこれが悪い意味には感じねぇ。ただお前は、前の意味にも捉えられるような気がして、俺らにこれを名乗らせたくねぇんだろ。」
言い淀んだ空気を隠さない長い沈黙を経て、龍軌が頷いた。
知影は苦笑すると手を伸ばし一つのカード……剣を振り上げ武装した馬車が走る絵柄の【戦車】を摘み上げた。倣って月華も男女が手を繋ぎ合ったカードの【恋人達】を摘んだ。
「普段はこっちを名乗る。【例のやつ】の方を名乗っていい時は、王たるお前の判断に任すってことでいいか?」
「……いえ、アルカナ制限は知影さんに任せます。」
最後に残された一つのカード……大釜を持ちローブを纏った骸骨【死神】が逆さまになったカードをそっと両手で掬い、龍軌は知影にそれを渡した。
「実を言えば、俺もこのカードから死の予感は感じませんでした。それでも貴方達がこの戦いにおいて尤も多く危険なところに身を晒すには変わりない。それが……怖かっただけなんです。」
「大丈夫。」
俯く龍軌の手からカードを包みこんで受け取ったのは月華だった。
「私が強くなります。」
その赤い瞳には、かつて見たことがないほどの、強い光……【アルカナ】の指令を受けたゲッテン達と同じく戦う意志のある光が宿っていた。
「ちぃさんをあんな死に方させないように、死なないように、強くなります。」
「出来れば君も死なないことがいいんだけど。」
今の2人を見ればお互いなくてはならない存在であると自覚していることがわかってはいるが、それでも釘を刺しておきたいと思った龍軌はそう一言添えた。
「それも含めて、死なないように強くなります。」
「そーそー、俺も結構反省してんだぜ?」
意外な返答に驚いた龍軌の頭を、月華の頭と一緒に知影が撫でるように叩いた。
「俺もそう簡単にくたばらねぇように鍛えとくから、心配すんな。」
龍軌が知影を仰ぎ見る。赤の目によく映える燃え立つような光を宿した月華とは違い、知影の砂金のような瞳は、鋭い、でも確かな【アルカナ】意志の光が宿っていた。
「月華も、この世界も、誰も死なせねぇさ。」
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